初老おっさんの異世界漫遊記・どうせ食べるなら美味しいものが喰いたいんだ!

克全

召喚

第1話召喚されました

「よく来てくれた英雄殿、どうか我らを助けて欲しい」


 俺は腰を抜かしそうになった!


 それも当然だろう、家でPCに向かってネット小説を書いていたら、いきなり目の前に巨大な樹が現れ話し始めたのだ。その大きさは、テレビや映画でも見たこともないような巨大さで、驚愕(きょうがく)した俺は返事が出来るような状態ではなく、口を開けてパクパクとするだけだった。


「そうかそうだな、驚いているのだな、急に悪かった。だが我々も存亡(そんぼう)の危機(きき)に瀕(ひん)して余裕がなかったのだ、どうか許して欲しい」


 目の前の巨木は、何やら重大な危機を迎えているようなのだが、巨木が話すと言う異常事態(いじょうじた)に頭と体がついて行っていない。それによく考えてみれば、巨木には口が見当たらず、直接頭の中に言葉が浮かんでくるような状態だ。自分が書いていた小説のように、念話で意思を伝えているのだろうか?


 いや、よくよく考えてみれば、俺が正気を手放して狂気に染まってしまったのかもしれない。そこまで精神を病んでいないとしても、寝落ちして夢を見ていると言う可能性が高い、きっとそうだ!


 俺は今夢を見ているのだ!


「悪いがこれは夢ではないのだ、もう元の世界に戻れない貴方(あなた)には悪いのだが、これは現実に起こっている事なのだ」


 リアリティのある夢だな、しかも夢らしく俺が心に思った事が相手に伝わっている。都合(つごう)のよい設定だが、これくらいの方が中高生には楽しんでもらえるかもしれない、夢から覚めたならこう言う設定の小説を書いてみよう。


「まずは現実を見てもらうのが1番かもしれないな、これを見てもらいたい」


 巨木の言葉の後で、頭の中に映像が浮かび上がったのだが、それはとても悲惨(ひさん)なものだった!


 白銀の西洋甲冑(フルアーマープレート)に身を包んだ者たちが、盾を持ち剣を振るって森に攻め込んでいる。しかも魔法を使っているのだろう、森の木々に火を放ちエルフやドリアードにエントまでも殺している。憧(あこが)れのエルフを殺すなど許し難い暴挙(ぼうきょ)だ!


「そうか! 貴方(あなた)も許せないと思ってくれるか! だったら私のデュオとして戦って欲しい」


 この巨木は何を言っているんだ?


 50年の人生で他人(たにん)と殴り合い喧嘩(ケンカ)すらしたことがないのだ。唯一殴ったのは兄弟喧嘩で弟くらいだ。


「大丈夫だ、何も直接殴り合えなどと言っていない。私と一緒に呪文を唱え、頭に写っている敵に魔法を叩き付けてくれればいいのだ」


 なんて無茶苦茶な設定なんだろう!


 だが最近はこれくらいぶっ飛んだ設定の方が書籍化されているから、俺もこう言う作品を1つくらい書いてみるべきかもしれない。しかし急に映像が増えてしまい、頭の中がグルグル回っているようで、吐き気までしてきた。言う通りにした方が早く目覚めるかもしれないし、早く起きれたらこの設定を覚えている可能性もある。ここは巨木の言う通り、一緒に呪文を唱えるべきだろう。


「そうか! 一緒に唱えてくれるか、ではヨタサンダーと唱えてくれ」


 頭の中の映像数は百を超え千に届くかもしれないし、各映像の中に写っている人数を合計すれば、軽く万を越え2万3万に届くかもしれない。それらに向けて何の感情もなく呪文を唱えた。


「「ヨタサンダー」」

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