第46話アバーテ準男爵家

 さて、姉さんに目をつけられた準男爵家は不幸としか言いようがないが、ローゼンミュラー家を襲撃しようとしたのだから、当然の報いと言えば報いだ。有力貴族に命じられ、生き残るために仕方のない事だったのだろうが、ローゼンミュラー家も生き残ることに必死なのだ。弱った以上は徹底的に叩かれ、殺されるのは仕方がないのだろう。


 城攻め準備の間に聞きだした話では、準男爵家はアバーテと言う家名なのだが、ローゼンミュラー領唯一の出入り口を抑える家だ。今まではローゼンミュラー家の初代・2代目・4代目アーデルハイト言う、剛勇無双の騎士が相手だから無理難題は言わなかったが、ミヒャルケ侯爵軍と言う尻馬(しりうま)に乗っておこぼれに預かろうとしたのかもしれない。


 ローゼンミュラー領には、魔獣が入り込めない人里が僅かしかなく、その僅かな地も居住地としているため、自給できっる食料は狩りや漁の獲物だけだった。その獲物を商品としたり材木を売却することで、何とか100石級の騎士家の地位を維持していた。


 一方アバーテ家は、川沿いの細長い盆地ではあるものの、300石程度の穀物が収穫できる人里があった。細長い川沿いの立地であるため、新月期には3ヵ所から人間が侵攻する危険はあるものの、食糧自給の面から喉から手が出来るほど欲しい土地であった。


「勅使殿、これからは私が全軍の指揮権を引き継がせてもらいます」


「べアトリクス殿と申されたな、準男爵家の嫡子のアーデルハイト殿ならともかく、3女の貴方がバッハ聖教皇家の勅使である私に命令を下すのは、いくらなんでも無礼ではないかな?」


「勅使殿、私は3女ではありますが、魔法使いで貴族待遇を受ける次女のバルバラとは違い、いざという時は騎士家を引き継ぐ教育と鍛錬を受けております。勅使殿が教都に戻られ、ローゼンミュラー家が男爵家に陞爵(しょうしゃく)された暁には、正式に男爵家の騎士に叙勲させれます。さらに言えば、全軍を率いる騎士長として準男爵家の軍事を統率しています。今後雇うであろう騎士や従士の枠も、私のさじ加減で増やすことが可能なのですよ」


 イヤホンをつけて、龍子姉さんとバルバラ殿の助言を受けられるべアトリクスは、言葉を使って勅使から500兵の指揮権を奪い取った。まあ元々ローゼンミュラー家の金で集めた兵なので、有無を言わせず奪う事も可能なのだが、今後の工作もあるので恨(うら)みは残したくなかったようだ。


 勅使の子弟や縁者の中にも、当然のように仕官を求めている者がいる。異世界の戦国乱世では、落ちぶれた家の家臣は生きて行くのが難しい。まして次男3男や陪臣の子弟などは、その日の食事を得るために命を懸けるのが当たり前なのだそうだ。


 勅使としては、アーデルハイトやバルバラ殿に指揮されるのは納得していたものの、彼女らがダンジョン都市に戻り再度傭兵を募集する以上、アバーテ家攻撃の指揮は自分がするのだと勇(いさ)んでいたのだろう。


 さて、本領防衛の200兵と再募集に向かった100兵がいなくなり、残り600兵でアバーテ家を攻め滅ぼすことができるだろうか?

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