第9話危機
「グァァァァ」
一目見て、俺が弱いのが分かったのだろう、熊は包囲陣を無視して俺の方に突進しようとした。だが騎士たちは、姉ちゃんとの約束を守る為に命を懸けた。兵士の間をすり抜けようとした熊に対して、2人の兵士が命を懸けて壁になったのだ。
熊は両腕で2人兵士を吹き飛ばしたが、その僅かな時間を騎士と残りの兵士は無駄にしなかった。バルバラと僧侶は呪文を唱え、2人の兵士が左右から胸を槍で突く。その後で、止めとばかりにアーデルハイトが近づいて行き、伸び上がるようにして熊の頸筋を撫で斬りにした。
「ギャアァア」
熊の頸から血飛沫が舞い上がり、断末魔のように叫ぶが、まだしぶとく両腕を振り回してアーデルハイトと兵士を近づけないようにする。アーデルハイトたちは油断する事無く、再び包囲陣を組んで遠巻きに熊を逃がさないようにする。
この後は熊が弱るまで辛抱強く包囲陣を維持し、身動きが取れなくなった熊に止めを刺した。可哀想(かわいそう)だとは全く思わなかった。自分が殺されかけて、可哀想だと思える余裕などないし、そんな嘘を付くほど偽善者でもない。
「イチロウ殿、急いで村に戻るぞ」
「熊は放っておくのですか?」
「イチロウ殿と荷物を村に送り届けたら、急いで回収に戻る。熊は我が家の大切な財源の1つで、薬の材料にもなれば冬を越す食糧にもなり、毛皮は敷物(しきもの)や外套(がいとう)にも加工できる」
「分かりました、では一緒に走らせてもらいます」
「そうか、そうしてくれれば助かる」
姉ちゃんの脅しと俺が宣誓(せんせい)した事で、アーデルハイトたちは俺を貴族待遇にしてくれている。まあ金貨100枚がどれだけの価値なのか分からないが、アーデルハイトたちにはかなりの金額になるのだろう。あれほど偉そうにしていたのに、俺にへりくだっている。
急いで領主館に戻った俺は、ホールを仕切って作られた個室に荷物を運び入れてもらった。
アーデルハイトだけなら、俺を殺して荷物を奪う選択をしたかもしれないが、バルバラがいるから安心できると姉ちゃんは言っていた。バルバラは頭がいいので、殺して奪うより長く商(あきな)いをする事を選ぶと言うのだ。
確かに永続的(えいぞくてき)に日本と商いができるとしたら、ここが本当に異世界なら莫大(ばくだい)な富が得られるだろう。問題は道が何時まで通じるかだが、これはどうしようもない事だから考えても仕方がない。だから今できる事をやるしかないのだが、今度は購入した磁石(じしゃく)でさっきの場所とこの館の位置を計算して、館に直接ドローン配達が出来るか試すことだ!
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