4.Dear my ✕✕✕
――少しだけ、舞台は遡り移る。
工房の中は、ピアノ、バイオリン、ハープ、オルガンといった楽器類。楽譜。魔術師のように見えるのは、英語置換された魔術式の書かれた魔術書。ホムンクルスを育てる為に必要な、巨大な特殊試験官が何本も立っていた。
魔術師らしい薬品や薬草、銀製の代物の類いは一切ない。
その工房の中には、一組の男女がいた。
「そ、それで、で、出来るのか……」
男の声は震えている。
「あぁ、出来るとも。理論上では、可能だよ。ようは、入れる器と身体を維持できる魔力があればいいんだから」
女の声は朗々としていて、沈んだ男の声とは対照的だった。
彼女は、美しい桃色の唇を上げて、椅子に腰を下ろしている男へ微笑みかける。もっとも薄暗いこの部屋の中では、女の美しくも嘲笑するような微笑みは見えていないが。
「君は、愛しているんだろう?蘇らせたいと願うほどに」
「だが……」
「人を殺すのを躊躇うかい?原初を求める
かつん、と靴音が鳴った。女が動いたのだ、男の元へ。
「人を殺さずに作る方法はあるよ。作り出すのに百年はかかる
また靴音。
「まぁ、出来ないだろうね。そもそも
こんなにも若いのに。座り込んでしまっている彼とは、全く違う。自信に満ち満ちた顔をしていた。
彼女はやってみせると、そう顔に書いていた。
「………分かった、信じよう、貴方を」
「ん、君ならそう言ってくれると思ってた。じゃあ、明日から機材やら素材やらの調達方法を考えようか。今日はもう遅いからね」
パッと女は表情を輝かせ、それから幼い少女のようにスカートをふわりと翻す。
「あぁ……」
「それじゃあ、おやすみなさい」
父が娘へ言うかのように、彼女は扉を開けて鼻歌を歌いながら出ていった。
男は背中を丸め、手を組んで、祈るように瞳を閉じる。
「————————」
そして、祈りの言葉を優しく紡いだ。
◆◆◆
あぁ、楽しみだ。
女はくすくすと笑いながら、貸し与えられている客室へ、スキップしながら進んでいく。
理論上、
今であっても、材料さえあれば誰だって
故に、
だが、過去の魔術師がこれを扱っていたということは、これ自体にも原初を
人造霊魂の生成。完全な人の魂を複製する技術。これはいわば、魂の流れを知る研究、過去の人間の魂を現代に堕ろす魔術とも言える。これに着目すれば……。
女は部屋の扉を開け、ふかふかの天蓋付きのベッドの上に寝転がる。外は、雪が吹いていた。
「さて、あの人は杭を打てるかな?」
女は目を閉じ、ゆっくりと思考していく。
実在の人間の魂を堕ろして作る
精巧すぎるが故か。
完全であるが故か。
蘇った
ただ一つ。彼女が作り出した、
あれが死ななかったのは、たまたまではないだろう。
恐らくは、あの子が関与しているに違いない。あの子が、あれの人造霊魂が砕けぬように「杭」を打ったのだ。
その杭は、一体何か。
新たに機能付与するものなのか、偶発的に持ち合わせるものなのか。
これは、それを知るための実験に過ぎない。
あの哀れな男は、女にとっては実験材料の一部だ。
「面白い実験結果を、期待しようか」
その言葉を最後に、女は完全に意識を沈めた。
――その後、およそ六ヵ月後。ホワイトチャペル地区で、
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