第五章 第七幕
「あっはっはっは! バラクアが、送風装置に、囲まれてるとか!」
人口風力装置に八方向を囲まれたバラクアを見たルティカは、草の上で思いっきり笑い転げた。
「うるさい、好きでこんな風になっている訳じゃない……。大体、ただ囲まれてるだけの何がそんなに面白いんだ……」
「違う違う。囲まれてる事じゃなくて、バラクアが大人し~くなっちゃってるこの状況が、妙に笑えるだけよ」
「おいルティカ、いつまでも笑ってんじゃねぇ。さっさと始めるぞ」
ジラザに促されたルティカは、笑いを引っ込める為に一度、自分の頬を両手でパシンと叩いた。
「あー、笑った笑った」
満足満足とでも言うかの様に自身のお腹を一撫でし、するりとバラクアの首元へと跨る。
「それにしても、うちのボロ厩舎に、よくこんなに沢山の風力装置があったわねぇ。特にこの右側の奴なんか、かなりの年代ものなんじゃないの?」
右斜め前にある年季の入った人口風力装置を指さして、ルティカは感慨深げな声を上げる。
「ああ、そいつはうちに残ってる奴でも、一番の古株だな。おめぇの父親やアレツの時代に大活躍したヴィンテージもんだ。型はちぃっとばかし古いが、まだまだ動くはずだ」
「へぇ、父さんやアレツさんも使ってたんだ……。そう言われてみると、何だか凄い機械みたいにに思えてくるから不思議よね。見た目の古さが、逆に味に思えてくるって言うかさぁ」
ルティカはバラクアの首元で歴史を噛み締める様に、うんうんと唸る。
「それでオーナー、これから何をするんですか?」
「おう、待たせたなバラクア。やる事はルティカに全部言っておいたから、まずはお前らだけで頑張ってみろや。んじゃあ華瑠、後は頼んだぞ。何かあったら呼んでくれ」
「はいシショー! 任されましタ!」
「えー? おっちゃんサボり?」
「サボリって言うんじゃねぇ。俺はもう若くねぇんだよ。朝っぱらからお前らのドタバタに付き合って疲れてんだ。そんじゃ、しっかりやれよ」
ジラザは一つ大欠伸をした後、一人でさっさと厩舎の方へと戻って行ってしまった。
「まったく、おっちゃんもしょうがないわねぇ」
「それでルティカ、俺達は何をするんだ?」
「ん~、やる事は分かってんだけどさぁ。何て言うか、意味がよく分からないのよ……」
「さっき向こうの方で、オーナーに何だかワーワー喚いてただろ? あれは何だったんだ?」
「おっちゃんの言ってる事が訳分かんないから、ワーワー言ってたのよ。まずね、次のフレイク杯まで、一切飛行訓練はしないんだって」
「……一体どう言う事だ?」
「それはこっちが聞きたいわよ! ね? 意味分かんないでしょ?」
「それでオーナーは、飛行訓練をしないで、何をしろって?」
「何かね、こいつらを使って、風をひたすら読む訓練をしろって。ぶっちゃけ私、風読力だけはめちゃめちゃ自信あったのに、今更それだけをしまくれって、意味が分かんなくって」
ルティカは呆れたように呟く。その下でバラクアは、ジラザの言葉の真意を冷静に考えてみた。
――根拠を問わない自信でいいならば、恐らく売るほどあるであろうルティカの品揃えの中で、唯一粗悪品で無いのが、本人の自己申告の通り風読力だろう。確かに、今更それだけをやる事に一体どんな意味があると言うんだ? 長所を伸ばそうと言うのか? それでも幾分非効率に思える。だが、オーナーが考えも無しに飛行禁止を掲げるとも思えない。ましてやこれは、勝つ為に必要な特訓なのだ。必ず意図がある筈であり、それは俺達が自ら気付かなければ意味が無い物と言う事だろうか……?
「バラクア? 難しい事考えながら、若干私の事バカにしてない?」
ルティカの本能のアンテナに、何かが引っかかる
「そんな事ある訳無いだろう、必死で、この特訓の意図を考えていた所だ」
「……ふぅん、だったらいいんだけどさ」
「まぁ、オーナーが飛ぶなと言うなら、当然何か考えがあるんだろう。とりあえず一度やってみよう」
「だって、飛ばない訓練なんて、何の意味があんのよ? 特訓だって言うから、飛びまくって飛びまくって、めちゃくちゃ飛びまくるぞ! みたいなのを想像してたのに、何か地味なのよねぇ。燃えないって言うか、やる気が出ないって言うか……」
「これをやる事で、自分達の弱点が分かるかもしれないだろ。それに、これが今勝つ為に必要な事なんだ。それとも、フレイク杯でも負けっぱなしのままでいいのか?」
負けっぱなし。
その言葉には、流石のルティカも黙ってしまった。
ルティカはバラクアの頭の羽を、もしゃもしゃと触ってから、諦めたように肩を落とした。
「分かったわよ。やりゃあいいんでしょやりゃあ」
「準備出来たみたいネ? それじゃルーちゃん、バラクア、始めてもいいカ?」
「華瑠。やり方とか操作の仕方とか、おっちゃんから聞いてる?」
「うん、バッチリ、任せテ」
「それじゃ、お願いね」
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