第13話 フラグが建ってしまった




人というのは可愛らしいプリンセスと、ふわふわな生き物と、チョッキを着たうさぎは追いかけなくちゃ気が済まないという性質を持っている。

たとえそれが、絶対に避けなきゃいけない地雷、戦争フラグであっても。


「待ちなさい!」

やっとの思いで手を掴んだのは、ホールを出て、満天の星空の下まで来たところでだった。

手を掴まれた彼女は驚いた目でこっちを見ている。

「あそこにベンチがあるわ。ちょっと座って一緒におしゃべりしましょう? 少し落ち着かなきゃ」

ね? といえば、彼女は(身分的にそうするしかなかったかもしれないけど)コクリと頷いて、ベンチに腰をかけてくれた。


まだ、その手は震えている。私はその手を包み込んで、安心させるようできるだけ優しく微笑んだ。

「まずはそうね.......まだあなたの名前を知らないのだけれど、教えて頂ける?」

「はっ、はい!あの、えと」

慌てなくて大丈夫よ、と伝えれば、ゆっくりと深呼吸したあと、彼女はカーテシーをとり、深深と頭を下げた。

「イルドマーズ帝国、ハイジョーカー男爵が娘、レイン・ハイジョーカーと申します。アンジェリナさま、先程は両親が大変な失礼を.......改めてお詫び致します」

「あなたが悪いわけじゃないでしょう? もう気にしてないから.......」

「でも、」

「いいの! それより私は、あなたとお話がしたいわ!」



こんなに可愛い女の子が平謝りするのを眺める趣味はない。それに、ヒロインに記憶があるのかないのか確かめるチャンスでもある。

私は強引にお喋りに興じることにした。


最初は遠慮気味に話していたレインも、根気よく話を聞き、口数を多くしてくれた。

自分の領地のこと、

どんな属性の魔法が使えるか、

それと、家族のこと。


「私のことを、大事に思ってくれるのは分かってるんですけど、たまにああやって暴走しちゃって……さっきのも私が、アンジェリナ様が羨ましいって、言っちゃったから……」

羨ましい?

「レイン嬢は、ユージーンと踊りたかったの?」

「えっと、それは……」

「アンジェリナ!」


……チッ!!

タイミングの悪い。おかげで何か言おうとしてたレインが口を閉ざしてしまったじゃないか。絶対重要なこと言おうとしてたのに……!!

(空気を読め!!)

レインからは見えないようにユージーンへジェスチャーをする。が、無視された。こいつ!



「探したぞ。ここは寒いし、早く中に入ろう」

「……ええ、そうですわね殿下。それじゃあレイン嬢、また学園で」

「いっって、おま……!!」

ちょっとムカついたので近づきざまに思いっきり足を踏んでやった。

その時、

「あ、あの、アンジェリナ様!」

「何か?」

振り向くとレインが、頬を赤くしてこちらを見てる。

さっきの羨ましいって言葉。レインは……ユージーンがすきなの?


「また、アンジェリナ様とお話することは出来ますか?!」

「え、わ、私?」

ユージーンじゃなくて?


「私、アンジェリナ様と話をしてるの、すごく楽しくて……身分が違いすぎるのも分かってます! おこがましい願いだというのも……でも……」

「そうね、身分上難しいものがあるけれど……もし、あなたが」

レインの方をきちんと向いて、にっこり微笑む。

「もしあなたが同じクラスになったなら、仲良くなっても誰も文句を言わないんじゃないなしら?」

言われた意味を理解したレインも、笑みを浮かべた。

「……頑張ります!」

「それじゃあ、今度こそ御機嫌よう」


ユージーンと一緒にホールへ戻る。けど、何でかな?

隣から怒りのオーラを感じる……

「……何か?」

「お前……なんてことしてんだよ」

言うが早いかまたもやほっぺを摘まれた!

「いひゃい!」

「何ストーリー進めてんだ! フラグ立ってんじゃねえか!」


……やっぱり?


「……ごめんにぇ」

「おーまーえー!!」

その日、チェリーたちが私たちを見つけるまで、私はユージーンにほっぺをぐにぐにぐにぐにされ続けた。




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