桜日和
俺は、親失格。愛する妻が、自分の命を犠牲にしてまで産んだ子。それなのに一度も俺は、その子を
春ーーーー
息子を連れて散歩に出かけた。どうしてもこの桜を見せてやりたかった。
「綺麗だろ? ここさ、穴場なんだよ。よく、昔は……お前のママと見に来た…」
「…………」
息子は、今日も口を聞いてくれなかった。
一度でいい。
一度でいいから、息子と会話がしたい。コイツの笑顔が見たい。
夏ーーーー
秋に冬。
また一年が過ぎてしまった。
「……入るぞ」
息子は、今日も自室で静かに絵を描いていた。
「もう…ずっと……何を描いているんだ?」
絵の中。
俺と妻が仲良く手を繋ぎ、満開の桜を見上げている。その姿を『外』から楽しそうに見ている息子。
自然と溢れた涙は、自分の意思では止まらない。
「あしたは……今日よりも明る…いから」
初めて聞いた息子の声。
「僕は、大丈夫………。だから。もう。行って大丈夫」
俺は、親失格。息子が産まれる前に病でこの世を去った。何もしてあげられなかった。こんなに愛しているのに。
俺は、ゆっくりと目を閉じる。
最後にやっと見れた。
笑った息子を――――
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