奇奇る!
カラスヤマ
黒い封筒
私は、自分の限界を思い知らされると逃げ場所であるここに必ず来る。
何度、思い知ったことか。私には、才能がないんだ。
もう、無理かもしれない………。だけど、夢の欠片が私の挫折をいつも邪魔する。
誰かッ!!
今すぐこんな私をビンタして目を覚まさせて。
……………………。
……………。
……。
「はぁ」
静かな夜の喫茶店。客は少なく、店内では曲名は思い出せないけど、どこかで聞いたことのある懐かしい歌が流れていた。
ふと外を見ると、路面がテカテカ光っており、憎い雨が降り始めたことに気づいた。
私は、いつもの指定席に座ると小さなリュックから一冊のノートを取り出す。ここではない奇妙な世界に思いを馳せる。スラスラとまではいかないけど、なぜか家よりもこの場所の方が落ち着いて書くことが出来た。
「何を書いてるの?」
「アナタには、関係ないでしょ」
ヒョコっと顔を出したバイト中の幼馴染みが、アイスティーを私の横に静かに置いた。
その後、信じられないことに私の隣に座る。
「仕事中でしょ? サボるな」
「いいの、いいの。客は、アナタしかいないんだから~」
「………信じられない」
「いいの。私の店だから」
ワケの分からないことを笑いながら言い放った。
一度ため息をついた後、また自分の世界に戻っていく。
しばらくして、
「またホラーを書いてるの?」
「うん………。ホラーっぽい話ね。奇妙寄りの」
「なっちゃんは私と違って才能あるから、きっとプロになれるよ」
「なれないよ。今日、また一次落ちしたし。才能なんてないよ。これっぽっちも」
「じゃあ、なんでまた書いてるの?」
「さぁ………」
「書くことが好きなら。まだ好きでいられるなら。それが、一番の才能じゃない?」
「意味不明だし」
私は、決して甘くはない液体を強引に喉に流し込んだ。
動揺と。
この涙も一緒に。
「ありがとう…………。私、絶対プロになるから」
突然、激しい頭痛に襲われた。世界を拒絶するようにギュッと目を閉じる。数分後、ようやく目を開けると私の前に先ほどまでなかった『黒い封筒』がそっと置かれていた。
彼女が置いたに違いないと辺りを探したけど、誰の気配も感じなかった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「は? なんだ、コレ」
家のポストに見たことのない黒い封筒があった。
手に取り良く見ると、その黒い封筒はざわざわと小さく動いている。俺は反射的にその封筒を地面に叩きつけた。
ザワザワザワザワザワザワサ
封筒にくっついていたのは、虫。虫の群れ。その虫たちが離れると黒い封筒は、ただの白い封筒になった。
白い封筒の中身を恐る恐る見ると、見たことのない字? が、びっしりと紙全体に書いてあった。内容は分からなかったが、自分に対する強い憎しみを文面から感じた。
今までに意識、無意識関係なく殺してきた虫たち。
目の前から、黒い風……いや、無数の虫が俺に迫ってきている。
俺に、逃げ場はない。俺がそうであったように、今度は虫たちが、害な俺を殺そうとしている。
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