第七話 ちょこっとスウィートソング
美海side
ある日、私は軽音部で練習をしていた。すると、芹沢君が私にそっと耳打ちした。
「日曜日、空いてたら一緒に何処か行かない?」
「いいけど」
いつものような素っ気ない返事をしたのに、彼は嬉しそうに顔を赤らめた。
変なの。何で嘘告のくせにそんな演技ができるの?こっちは君のこと好きだっていうのに。
私は溜息をついた。
「―――で、どうかな?」
「あっ、ご、ごめん。聞いてなかった」
芹沢君は少し困った表情をしたけれど、笑顔で答えてくれた。
「日曜日、最近できたカフェがある水族館に行かない?って」
「どのカフェ?」
少し気になって聞いただけなのに、芹沢君はやっぱり嬉しそうに説明した。
「ほら、学校から最寄りの駅から三つ行った所ん近くに、うらり川水族館ってあるだろ?その中に、レティアっていうカフェが新しくできたんだ。そこはね――」
彼は少しもったいぶってから言った。
「ハニーレモンのスウィーツの専門店だよ。君がこの前行ったカフェで、レモンパイを美味しそうに食べてたから、甘酸っぱい物が好きなのかなって思って」
えっ、何それ⁉めっちゃ美味しそうなんだけど⁉
「ど、どうかな」
思わず口元が緩んでいたのに気付き、慌てて引き締める。
「な、何で休日も一緒にいなくちゃいけないの?」
つい、トゲトゲした言葉が出てしまった。
「そ、そっか。そうだよね…」
何で…何で素直になれないんだろう。
放課後、風香を誘って近くのカフェに寄り道した。
「え―――‼美海、断っちゃったの?」
「当り前よ。あの告白は嘘だったんだから。からかうのもいい加減にして欲しい」
驚いた顔をする風香に、私は口をとがらせて言った。
「えっえっ、何で⁉芹沢君が誘ってくれたのに?」
「何でってそれは、からかってるに決まってるから…」
何でだろう?恥ずかしくて、断る以外に思いつかなかったな…。
「嫌なの?」
そんなことないけど…。
「芹沢君が誘いたくて誘ったんじゃないの?」
「本当に誘いたかったんなら、そっかなんて言わないでしょ」
「もう一押しして断られたらしんどすぎるでしょ」
風香がつっこむ。
「それに、同じ立場だったら、美海食い下がれる?」
「うっ…。悪いことしちゃったな」
断った時の芹沢君の顔を思い出した。どこか寂しそうで…。
「やっぱり行きたいって言おうかな」
「きっと芹沢君喜ぶよ」
「べ、別に喜ばせたいわけじゃ…」
風香はふふふっと笑って言った。
「美海は可愛いんだから――」
「いや、私なんて…」
「こら‼私の友達を悪く言わないの」
ぷくって頬を膨らませる風香の方が、よっぽど可愛い。
「風香…ありがとう」
翌日、私は再び部活で芹沢君と向き合った。
「あ、あの、芹沢君」
彼は練習中だったのに、ベースを置いてこちらを振り返った。
「何?」
やっぱり行きたい。
いや、違うか…。
今度の日曜日、一緒に出かけない?
うーん…。
ええい、いいや‼思い切って言っちゃおう!
「昨日は誘ってくれてありがとう。その―――」
「一緒に行こう?」
「えっ、あっ…」
先をこされてしまった。黙っていると、彼は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「あ…違った?」
寂しそうな表情で、思わず抱きしめたくなる。
そんな自分を何とか抑え、コクコクと頷く。
「良かった」
芹沢君の笑顔が眩しい。ずっと見ていたいくらいだ。
恥ずかしくなって、また、ベースの練習に打ち込んだ。
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