第10話第三者視点

 ルークは王都で宝石とドレスを買った。

 原色のけばけばしいドレスだったが、ルークには綺麗に見えた。

 そのドレスを着て宝石をつけたお姉ちゃんの姿を想像して、気分がよかった。

 ルークが転移魔法で突然眼の前に現れた各店舗の店主は、噂を思い出して原価で販売した。


 一度ルークを相手にあくどく儲けた店主が、醜く臭い猿に変えられ、七日七晩泣き続けると言う事件があって以来、誰もルークを騙さなくなった。

 八日目に猿店主は元の人間に戻れたが、ガルシア公爵家から悪徳商売人認定をされ、貴族士族は言うに及ばず、王都の民からも総スカンされ、破産して家族ともども路頭に迷い、最後には奴隷に身を落していた。


 誰だってそんな事にはなりたくない。

 王都の店主たちも、正当な利益を上乗せしても許されるのは分かっていた。

 頭では分かっていたのだが、本能が恐怖してしまうのだ。

 一言言葉を間違ったり、ルークを嫌悪している表情を浮かべてしまったら、取り返しのつかないことになってしまう。


 だからルークには、できる限り早く帰って欲しかったのだ。

 何も考えずに、ただルークが欲しがる品を渡すだけだった。

 だからその場では料金を受け取らず、

「後で御屋敷から頂きます」

 と言って一分一秒でも早くお引き取り頂いた。


 そんな風に手に入れた装飾品とドレスを両手一杯抱えたルークは、転移魔法でお姉ちゃんの乗る馬車の上空に現れた。

 本当はお姉ちゃんの直ぐ側に転移したかったのだが、以前お姉ちゃんに

「急に直ぐ側に転移してきたら、びっくりして心臓に悪いから止めて」

 と言われていたので、仕方なく上空に転移するようになっていた。


 だがそこでルークは、眼が釘付けになるほど凛々しいお姉ちゃんの姿を見た。

 普段の優しいお姉ちゃんも大好きだったが、家臣を指揮する凛としたお姉ちゃんの姿に目が離せなかった。

 

 もっと見ていたい!


 側に行って、頭をなでてもらいたい想いや、優しく抱きしめてもらいたい想いも溢れんばかりあったが、それ以上に初めて眼にする凛々しいお姉ちゃんに眼が離せなかった。


 だからお姉ちゃんの側に行きたい気持ちを我慢した。

 いや、我慢したと言うより、身体が動かなかった。

 お姉ちゃんの乗る馬車の上空に留まり、ひたすらその凛々しい姿を見つめていた。

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