異世界転移 96話目




「正直、すぐに城壁なんか要らねえと思うんだが……後回しで良いんじゃねえか?」


「何を言われますか!?

民達が安心して暮らすためにも、城壁は絶対に必要ですぞ!?」


「そうです、万が一にでも冬までに自分達を守る防壁が無ければ、民はどれだけ絶望するのか!?」


「ケン、妻として言わせて、壁は必要よ?」


「……ご主人様。」


俺の言葉にクッコネンとロボネンは叫ぶように、ミラーナは諭すように、そしてバカにするような視線を向けながら言い、クリスはウルウルと瞳を潤ませ悲しそうな視線を向けてくる。


「だー! うるせぇ!? それにミラーナは俺よりアホなのにバカにするな! そしてクリスは泣くな!」


「ちょっと! 誰がバカよ、誰が! ふが!?」


「でもご主人様……城壁が無いと民に死ねと言ってるのと同じです……」


ミラーナは怒って向かってきたので顔を押さえて黙らせるが、クリスはますますウルウルしながら迫ってきた。


なんだこれ!? すげー庇護欲と申し訳なさを感じるんだけど!?


クリスはいつの間にこんな技を!? 取り敢えず抱き締めて対応しよう!


「ご、ご主人様!?」


「ふが! ちょっと対応に差が有りすぎ、ぶふ!?」




「閣下、遊んでいないでなぜ城壁を造らないなんて言うのか説明をしてください。」


ミラーナを片手で押さえ、クリスをもう片手で抱き締めているとクッコネンがそう言ってくる。


まったく、場を読まないやつめ!


「いや、誰も造らないなんて言ってないだろ? 早急に造る必要はないんじゃないか? って言ってるんだ。」


「しかし冬になれば、魔物の襲撃が増えますぞ?」


クッコネンが言っているのは冬になると餌になる動植物も冬眠などで減るので、魔物などが食料や人そのものを狙って町などを襲撃に来る回数が増えると言うこの世界では常識のことだった。


ちなみに立派な城壁など無い小さな村や町はどうするのかと言うと、魔物避けのお香や人の気配を絶つ魔道具を冬の間じゅう使い付けるのと、有力な冒険者や軍の部隊が守備につくらしい。


これは食糧生産など考えて国家やギルドが優先しているからだ、それと大きな都市などは魔物避けのお香や気配を絶つ魔道具を使わない。


何故か? 人が多すぎて効果が無いからだ。


ちなみに昔の事だがこの冬の間じゅう村を守るって言う仕事は俺も強制的にやらされた、冬は自宅でユックリしたかった俺は周りにいる魔物という魔物を抹殺して、残りの期間はロットリッヒに帰って怒られた事がある。


そんなことが出来るならロットリッヒでもやれって。




話がそれた、それでちょうど俺がすぐにでも城壁を造らなくて良いと思った原因がやって来たので視線で皆にそれを伝える。


「今日も元気に見回りをしゅるのよ!」


「があ!」


そこにはドライトとチビッ子軍団を引き連れたアンナが練り歩いていた。


「ほらドラしゃん、ドンドン壁が出来てるのよ、みんな働き者ねぇ。

それにあの壁が出来ればみんなが安心して暮らせるのよ?」


「があぁぁ~♪」


「どこまで壁が出来たか、見て回りましょうね?」


「了解ですよ!」


アンナはそう言うとドライトを連れて柵の内側を歩いていってしまった。

ってかしゃべれないフリをするなら最後までしゃべるなよ……


「……確かにドライト様が居れば例えヒュドラクラスが襲ってきても問題ないでしょう。

しかしそれは私達を確実に助けてくれると言うならです!」


そんなアンナとドライトを見たクッコネンも俺が言いたいことを理解してそう反論してくるが、俺はそんなクッコネンを手で制して言う。


「いや、ドライトには期待してねぇよ? ってか、俺が言いたいのはドライトが何とかする以前にあいつ等が何とかするだろ。 ってことだ。」


そう言って指差した先には……竜人達がゾロゾロと歩いていた。

この世界にも竜人族は居たが、今まで他の部族とはほとんど交流が無く謎の種族と言われていて。


ただその戦闘力に関しては他の種族を完全に凌駕していて、並みの勇者では歯が立たないとまで言われている種族だった。


実際に見たところそこまでは強くはないようだが、冒険者で言えばAランククラスがゴロゴロいるといった感じで実力者揃いだった。


ただこの竜人族、強いことは強いのだがかなりの希少な種族で2人同時に見るのは四つ葉のクローバーを見つけるより難しいとはアルヴァー談だ。


……あれ? 四つ葉のクローバーってそんなに見つけづらかったか?


まぁ何にしろ、何故にそんな希少種族の竜人族がフェルデンロットを大量に闊歩しているのこと言うと……




「貴様等! 魔物共をフェルデンロットに近づけるな! ドライト様のお目にゴブリンやオーク等が映ってみろ! 我等マナルの竜族は他の世界の竜族のいい笑い者だ!」


「「「ハッ! 我等の命をかけてもご命令を遂行します!」」」


テクタイトのせいだった。


テクタイトはケンがフェルデンロットの統治者になり、貴族になったと聞いてケンカを売りに来たのだ。


え? このバカは何を考えているの?


押し掛けてきた理由を聞いたケンの最初の感想がこれだった。


まぁ、当たり前だが……


そしてよくよく話を聞いたところ、勇者フェリクスがテクタイトに人族は強ければ強いほど高位の貴族になる。

ケンは授爵して男爵に、そしてすぐに子爵になったのだから、ただの冒険者だった時よりずっと強くなったはすだと、バカを騙したのだ。


そしてこのバカはなんか変だな。

でもケンと戦えるなら良いか。 っとノコノコとやって来やがったのだ。


そしてケンはどうすればフェリクスに100倍返しを出来て、このバカを上手く追い返すか考えていると、ちょうど通りかかったのがドライトを引き連れたアンナだった。


「わぁ~、大きなトカゲしゃんよ!

とっても大きくて強そうねぇ~!」


「……貴様! 我を矮小なトカゲと呼ぶか!? 死にたい……「がぁ!」なんだ貴様は?」


「ひゃあ! ……ドラしゃん!?」


トカゲ呼ばわりされたテクタイトは激昂してアンナを威嚇する、アンナはその姿にビビって後ずさるが、その2人の間にドライトが飛び込み威嚇するテクタイトと相対する。

手に鍋の蓋と……こん棒、じゃねえな、すりこぎ? いや麺棒……なんでローラー式の麺棒なんだよ!?


何にしろローラー式の麺棒と鍋の蓋を装備したドライトに、バカにされてると思ったのだろうテクタイトはドライトに襲いかかり―――ボコボコにされた。




あまりに一瞬のことで俺も止める暇がなかったとはいえ、さすがはドライトだとしか言いようがない一方的な戦いだった。


「ケン、お主はワシがドライト様に襲いかかってから5分ぐらいしてボコボコになってから、ディアン様のご子息だと教えただろうが! もっと早く教えるなり止めるなりな!?」


「一瞬の出来事だったのだ!」


そんなこんなでテクタイトの野郎はフェルデンロットに居着きやがった。


それでそのテクタイトなのだが、実はフェルデンロットにやって来たときに最初から自分の部下の竜達と、自分を神と崇めて従う竜人族を連れてきていたのだ。


テクタイトは驕り始めた若手の竜と、弱々しい人族と侮辱する竜人達に俺と言う強者を見せつけて驕らないよう、侮らないようにと教えるつもりだったそうだが、目の前に自分を挑発する珍妙な装備の力なき子竜がいたのでお仕置きしてやろうとしたら、逆にボコボコされたのだ。


そこで、あれ? この子竜って子竜じゃないんじゃないか? っと思い始めてやっとケンが自分が神だと崇める相手の息子だと教えてくれたのだ。


で、テクタイトの部下の竜や竜人達もボコられるテクタイトを見て、慌てて助けに入って麺棒の一振りで薙ぎ払われた。


そこでやっと相手がとんでもない格上だと気がつき、テクタイトが膝を付き許しを請うて相手が龍のドライトだと気がついたのだ。




「何にしろドライト以前に居着いたテクタイトのバカとその部下達がいるんだ、勝手に飛んで大森林に行ってはモンスターを退治してくれるし、近づいてくりゃ皆殺しにしてるし。

城壁なんか要らねぇだろ?」


ケンの話を聞いてクッコネン達にミラーナ達が、あれ? 城壁要らないんじゃ? っと思い始めた時だった、テクタイトが衝撃的な一言を言ったのは。


「いや、冬になったらこの辺りは寒いから、普通に帰るぞ。」



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