異世界転移 86話目




「よし、そろそろ第一野営地だな、全員夜営の準備だ!」


「ねぇ、変じゃない?」


「とりあえず野営地の地ならしはある程度は出来ているはずだ、簡易的な宿泊施設と倉庫を建設するぞ、ドワーフ族を中心に建設を始めろ!」


「ちょっとケン、聞いてるの?」


「獣人達は周囲の偵察だ、そんなに広範囲に広がる必要はないからな、あまり遠くまで行かないように!」


「……聞きなさい!」


「……聞きたくない。」


フェルデンロットに向けて出発したケン達は、夕方近くになり野営地のすぐ近くまで来ていた。


大量の建築資材や食糧等の物資を持つ彼らは最初の野営地まで1日で着けるか心配だったが、暗くなり始める直前には目的地のそばまで来ていたが、そこまでの道のりで違和感を感じていたケンはもう進みたくなかった。




ケンが感じた最初の違和感はロットリッヒを出てすぐだった。


郊外に用意していた、王都に行き来したケンの大型馬車に乗り換えてフェルデンロットに向かうと、すぐに道は途切れて兵士や騎馬が踏み固めたデコボコの道になっている―――はずだった。


だが旧街道に出るとそこは綺麗にならされていて、平坦な街道がフェルデンロットに向かっていたのだ。


しかも道路の脇には石が積まれており、並べると直ぐに石畳の立派な道路になるという状態だった。


しかもドワーフの石工によるとかなり高度な技術がもちいられており、自分達でもここまでの物を用意するとなると100年がかりで用意しなければ無理だとのことだった。


そして野営地が見えてくると、ケンは全員に向けて宣言をする。


「よーし、ロットリッヒに帰還する! 全隊戻れ!」


「ダメに決まってるでしょ!」


「ご主人様、諦めて向かいましょう。」


こうしてケンは、幾つもの建物が建つ野営地に嫌々足を踏み入れたのだった。




「おいでやす~。」


「おう、何してやがるんだお前は?」


野営地を調べ、旅館のような建物を見つけたので入ったところ、出迎えたのはドライトだった。


他の建物も調べてみたが倉庫や体育館のような広い空間の建物が並んでおり、人気は一切無かったのだ。


そして一軒だけ扉の横に取り付けられたランプに火が入っていて明るい建物が有ったので、入ったらドライトが出迎えたのだ。


「何してるって、旅館ですよ、りょ・か・ん!」


「りょ・か・ん! じゃねぇだろ!? なんでお前が旅館なんかしてるんだよ!」


「愚問ですね、これからこの街道は栄えます、フェルデンロットとロットリッヒを結ぶだけでなく、レーベン王国と帝国とを結ぶ重要な交易路として繁栄が約束されているのです!」


「おう、それで?」


「ならば商人として利益が望める場所に旅館や商店を建てるのは当たり前でしょう!


早い者勝ちですよ!?」


「……お前は商人なのか?」


「龍ですよ? 失礼ですね。」


「なら旅館だのを開く必要はないだろうが!!」


「……あれ?」


「こ、こいつ……!」


話を聞くと、ミラーナの手料理から逃げ出したドライトは、恐る恐るミラーナの手料理を確認するために俺達を視ると、フェルデンロットの開発の話をしているところだった。


そしてその話を聞いたドライトは、直感で野営地に旅館や商店を設ければ儲かる! っと感じたそうなのだ。




いやまぁ直感でなくても、普通に儲かると気がつくはずなのだが、問題があって野営地に今はすぐには旅館などの建設出来ないのである。


その問題とは城壁など無い開けた場所にそんなもんを建てれば、魔物のいい標的にされるとということだった!




「あ、あの、ロットリッヒに近いこの場所にもオークの集団がたまにいるそうなのですが、この旅館をどうやって維持するつもりだったんですか?」


クリスがそう聞く、クリス達も忘れかけてるがこの1メートル程のサイズの龍は邪神達を捕まえて神々を勝利に導いた高位の神だ、オークごとき敵にすらならないだろう。


だがドライトの答えは意外なものだった。


「番人が居るんですよ、番人が!」


「番人ですか?」


「ええ、人ではないんですが私が居ない時にも守れるように番人が居るんです、各野営地に!」


「人じゃないって、どんな番人が……」


クリスがそう言うと共に外が騒がしくなる。


「ちょうど不審者を見つけたようですね、見に行きましょう!」


ドライトはそう言うと、先導するように空を飛んで外に出ていく。

それについていって見た光景は、恐ろしいものだった!




「キキー! キィーキィー!」




「クケェー! クケケー!」




5メートルから10メートル近い蜘蛛の大群が、アラン達騎馬隊の隊員を糸で絡めとり拘束していた。




「番蜘蛛のデーモンイーターのモンちゃんとその眷属に、番鳥のヤンバルクイナのヤンバルとその眷属です。


邪神とも互角以上に戦える、私の眷族神ですよ!」


思った以上にヤバい奴等だった、そしてドライトの言う通りにでかい蜘蛛の背中や足元に、なぜか大量のヤンバルクイナが居て「クケークケー!」っと鳴いている。


ってか、ヤンバルクイナも神なのかよ!


色々と言いたいことが有るが、俺は1番聞きたいことをドライトにきく。




「それで、お前はこの旅館やらを運営していくのか?」


「はぁ? 龍であり、神でもある私がなんで旅館の経営なんかしなければいけないんですか?


妹達のお世話もありますし、こう見えて私も結構に忙しいのですよ!?」


「じゃあこの旅館はどうするんだよ?」


「どうするって……どうしましょう?」


こ、こいつ、何も考えないで商売を始めやがったな!


俺が文句を言ってやろうとした瞬間だった、俺は何かにぶつかり10メートル以上吹き飛ばされてしまう。


「わ、私が加護を与えたケンさんがあんなに吹き飛びました!」


ドライトは驚き俺は悶絶していると、ミラーナがドライトの前に出て畏まりながら話す。


「偉大なる龍、ドライト様。


ドライト様は哀れな民達のために、この施設をお造りしてくれたのですね!」


「………………気づいてしまいましたか!


ここまで苦難の旅を続けてきた民衆に、私から少しばかりですが施しとして授けることにしたのです。」


う、嘘こけ! お前今少し考えてから言っただろ!?


この野郎、勢いで旅館その他を造って商売でもしようとしたんだろうが、よく考えたら他にやることも有るしめんどくさくなったんだろうな!


それで民達に授ける美談となるからってミラーナの話に乗っかりやがったな!




俺はその事を指摘して糾弾してやることにして、ドライトとミラーナに言おうとしたが、


「おい、そんな美談にグェ! 気持ちいい!?」


その瞬間に素晴らしく柔らかくて弾力に富む物に押し潰されてしまう。


「ご主人様、良い話としてまとまりそうなんですから黙ってて下さい!」


「そうそう、沈黙は金になるって言うしね!」


「カリーナ違いますよ、沈黙するやつは殺せです。」


「なんか余計に間違ってない、それ?」


なんと俺を押し潰していたのは、クリスにカリーナ、シリヤとパールの尻だった!


俺はあまりの良い感触に動けなくなり、しゃべるのも忘れて尻の感触を堪能する!


「……ケンったらそんなに気持ちいいのかしら?


あ! そ、それでですね、これらの建物はこの先にも有るのですか?」


「……ここから先はあなた方で造って下さい、さすがにあまりに干渉が過ぎるのは問題になるので。


ああ、心配しなくても、建材などは後は組み立てるだけになってますから、直ぐに建てられますよ!」


「ありがとうございます!


……それと、厚かましいのですが、野営地を守れるような物はありませんでしょうか?」


「いやここからは自力で「御礼に私の手料理を」この茶をすするドライト像を置いておきます!


それと私は急用を思い出したので急いで「すぐ飲めるスープですから大丈夫ですわ。」ガア!?」


こうしてケンはクリス達と途中から参加したミラーナの尻に敷かれ、ドライトは涙なからに朝までスープを両手に持ちかじりつくのだった。




……スープって固形物だったっけ?



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