異世界転移 48話目
「どうだったんだい?」
「今は落ち着いて寝ています。」
「少しうなされてますが、先生も信じられない位の健康体だから、精神的なものだろうっと……。」
過去の大公家に巣くうアンデッドを討伐して、土地をぶん取ってやろうとしたケンは気絶してしまい、仲間の面々は一時的に王家から借りているケンの屋敷に集まっていた。
そしてケンを寝室に寝かせて戻ってきたミラーナとクリスにヘルダが質問をすると、大丈夫だと答えが返ってきて、ホッと安心をしている。
「チェルシーはどうしたんだい?」
一緒に寝室に行ったチェルシーが居ないことにジャンナが気がつき質問をする。
「チェルシーなら気絶したケンを守るって言ってきかないから、置いてきたわ……ケンの上に。」
「ご主人様が苦しそうな声を出し始めたので、上からは退きなさいって言ったんですが……。」
「よし、ほっとくかね!」
ヘルダがそう言うとミラーナとクリスも席につき、話し合いが始まった。
「それで、大公家の跡地はどうなったんだ?」
「私から報告させていただきます。」
冒険者達などを代表して勇者のフェリクスが発言をすると、王都の冒険者ギルドを実質まとめているペトラが手を上げてそう言い、フェリクスやパトリシアにミラーナを見て視線で許可を得て説明をし始める。
「偵察の冒険者や高位の神官等の話を総合した結果、屋敷以外のアンデッドは全滅したとの事です。
また、時間をおいて数度偵察と神官達による邪気や瘴気の確認をしましたが、アンデッドの復活は確認されていないとの事でした。」
ペトラはそこで1度話を止めると周りを1度見る、そしてヘルダがうなずいたのを確認してから話の続きを話始める。
「さらに今回、王都に居たAランクの冒険者パーティーを3パーティー合同で屋敷の偵察に向かわせました。
……それで、その中の1つはかつて屋敷のすぐそばまで行ったことのあるパーティーだったんですが。」
「? 何でわざわざ?」
フェリシーが不思議に思いそう質問をすると、ペトラは少し考えてから話し出す。
「実はあの土地は冒険者ギルドの管轄にもなってたんです。
これは騎士団や軍だけでなく、魔物やアンデッドとの戦闘経験が多くてああいう土地の探索になれている冒険者向けだからだったんですが……。」
そう言って言葉を止めたペトラに代わり、ヘルダがくだらなそうに説明をする。
「年に何度かCランク辺りに、敷地の中の偵察をさせていたんだよ。
特に出来たら屋敷の雰囲気を確認するように言ってね? で、絶対に必要以上に屋敷には近づくな! って言ってたのに、なん組に1つは近づいたり屋敷の中に入ったようでね……帰ってこなかったんだよ、本当にバカな奴等さね!」
そう言い捨てるヘルダだったが、瞳は悲しげだった。
それを見て、ペトラが続ける。
「それで、その……変化の確認のために、どうしてもとお願いして行ってもらったのです。
他の2つのパーティーは護衛として行ってもらいました。」
ペトラの説明によると、その屋敷に1番近づいたパーティーはCランクの当時からAランクになるのは間違いないとまで言われていた評判の者達だった。
そして評判以上の実力をあわせ持っており、もしかしたら元大公家の当主を討伐するかもしれない等と出発時にギルドで言われたそうだ。
そしてそんなパーティーの面々が真っ青になって帰ってきたのは深夜になってからだった。
いくら大公家の跡地が広大だと言っても町の中の敷地での話である、それが夜遅くになっても帰ってこなかったのでこれは彼等も忠告を聞かずに屋敷の中に入ったのでは? そして……過去の帰ってこなかった面々と同じ運命になったのだと、思い始めた時の帰還だった。
そのため何が有ったのか聞くと、昼に大公家の本邸の近くに接近をして様子をうかがっていたのだが、普通の貴族の屋敷にしか見えなかったと言うのだ。
だが暗くなった途端に雰囲気が一変して瘴気が一気に濃くなり、屋敷の窓という窓から赤い目で見られていることに気がつき慌てて逃げてきたのだと言う。
「その時に逃げた冒険者を笑うバカが居たけど、あたしゃ笑えなかったよ。」
「赤い目のアンデッドは……大抵が高位のアンデッドですからね……。」
ヘルダに続いてフェリシーがそう言うと、部屋の中は一瞬静寂に包まれる。
そんな静まり返った雰囲気を吹き飛ばすように、ペトラが少し大きな声で言う。
「なんにしろそんな彼等に無理を言って、今回のことで違いがあるか確認してもらうために屋敷を見てきてもらったんですが……ボロボロの朽ちた屋敷が有ったそうなんです。
彼等も驚き何度も確認したそうなんですが、間違いなく過去のトラウマになった屋敷が有った場所だったそうです。
それと一応、護衛として着いていった冒険者達も確認したそうなんですが、ギルドに記載されていた大公家本邸の場所に間違いなかったそうです。」
ペトラの言葉に驚く一同、するとアルヴァーが納得したように言う。
「そりゃそうか、あの小さな気弾を多数撃ち出した技は凄かったからな、あの小ささで威力は普段のよかあったからな。」
「うん、あれは凄かったわね。
正直言うと、気功法の使い方なら私達、獣人族の方が人間よりもよっぽど上手いと思ってたけど、龍の息吹に龍の牙を見せられたら私も自信を無くした……わよ?」
同意しながらジャンナが言うが、辺りが静まり返っているのに気がつき口をつぐむ。
そして、フェリシーとパトリシアにミラーナが視線で牽制しあい、負けたミラーナがヘルダに向き直り質問をする。
「ヘルダ様、ヘルダ様は知ってるのですか? ケンが使ったあの魔法を。」
ミラーナに続き、パトリシアとフェリシーも質問をぶつける。
「正直に言います、フェリクスのパーティーの回復役として、魔法使いとして様々な経験を積み重ねた私でもあの魔法は意味が分かりません。」
「私は回復と支援がメインですが、魔法や魔術の知識量でならそうそう負けないと思っていました……しかしあんな魔法は聞いたことがありませんし、見たこともありません。」
「……ヘルダ様、私も聞きたいです。
男爵は何と言っていたのですか? ヘルダ様はお分かりになったのですよね。」
最後にペトラがそう言うと、ヘルダは諦めたようにため息を吐きながら説明を始める。
「はぁ……仕方ないね、この事は誰にも話すんじゃないよ?
陛下に、後ろの連中もだ。」
「「へ?」」
ヘルダの言葉にミラーナとクリスが驚きの声を上げると、談話室に有った家具の1つが滑るように動き5人の男達が入ってくる。
「気づいておったか……さすがは魔女殿じゃ。」
そして最初にそう言ったのはレーベン王国国王、ローデリヒ三世だった。
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