挿話4 異世界の女神様
「あー、良かった。何とか魔王が封印されて」
勇者ソウタが倒してくれた魔王バールを適当に異世界へ飛ばしたら、まさかそれが勇者ソウタの故郷だなんてねー。
召喚士エレンが召喚したケット・シーの中に弱った魔王の意識が入り込んだ事に気付いた時は、とにかく焦ったけど……結果良ければ全て良しよね。
「ブリジット? 何が良かったんですか?」
「あー、スリア。ちょっと聞いてよー。大した事じゃないんだけど、この前勇者ソウタに倒してもらった魔王がさー……」
魔王の顛末を見届けた所で、水の神スリアが現れたので、ちょっとグチらせてもらおっと。
同僚だし、グチくらい聞いてもらっても良いわよね。
「……えっと、要は弱体化された魔王がケット・シーの中に居て、人間の多い世界で急速に復活したって事?」
「そうなのよ。しかも、最初は召喚士エレンも自らの魔力があるから、ちゃんと普通のケット・シーを召喚してるでしょ。だから、勇者ソウタも普通にケット・シーに接していて、知らず知らずの内に良質な魔力をケット・シーにあげちゃっているのよ」
「あー、勇者ソウタは元々別の世界から来ているから、魔力や魔法に疎かったものね」
「そう、それ! だから、勇者ソウタの魔力に惹かれて魔王が接近しているけれど、弱体化されているから誰も気付いていないし、ケット・シーの中に入った後も、魔力を与え続けているしさー」
最善なのは、召喚士エレンが呼び出したケット・シーをティル・ナ・ノーグへ送り返す事だったんだけど、召喚した時点で元々エレンの中にあった魔力が枯渇しちゃってたからね。
というか、元々十八歳の勇者ソウタや武闘家マリーを十六歳にするのとは違って、召喚士エレンを十六歳にするのは無理があったのよ。
だけど、その魔力不足で不安定な召喚魔法を逆手に取って、聖剣クレイヴ・ソリッシュと聖女フローラを一緒に向こうへ送るっていう手を思いついたから、結果的に良かったんだけどね。
ティル・ナ・ノーグの住人には、神託で聖女フローラが異世界で再び魔王と戦っている事を伝えたし、きっと大丈夫でしょ。
「そのケット・シーが魔王で、ソウタが魔力を与えてしまっていると言う事を、向こうの世界に伝えられなかったの?」
「世界が異なるからかしらねー。こっちの世界とは違って、神託を与える事が出来なかったの。だから向こうの文化を調べてー、ティルナノーグ・オンラインっていうゲームがあった事にして、ブログっていう向こうの情報板に書き込んだり、勇者ソウタの近くに居る近しい人間の記憶を少しだけ変えて……まぁとにかく大変だった訳なのよ」
スリアがゲームやブログを理解出来なかったのか、リアクションがない。
まぁいきなり知らない単語を言われても、何それ? ってなるか。
実際、私も理解するまで大変だったし。
「へぇ……ミス、ブリジット。記憶操作とは何の話ですか?」
「だから、異世界だから神託を与える事が出来ないじゃない。で、向こうにはインターネットって呼ばれる情報群があったんだけど、あまりに直接的過ぎる情報は載せちゃダメみたいだから、ゲームっていう体裁を取って……って、あれ? ル、ルーグ様っ!?」
いつから来たのか、スリアのすぐ傍に光の神ルーグ様が立っていた。
ヤバい。どこから聞かれていたんだろ。
スリアはルーグ様の前で小さくなっているし、そもそもこの件とは関係ないからフォローも期待できないだろう。
と、とりあえず、正直に話すしかないか……。
「ほぅ。つまり、せめて魔王が復活する事を伝えようと、ゲームの体裁を取り、勇者ソウタの親しい者だけ、そのゲームという物を知っている事にしたと」
「そうなんです。向こうの世界に与える影響を極力小さくしようと努力した訳なんです」
「ふむ」
「他にも、魔王の封印方法を教える為に、聖女フローラへ聖剣クレイヴ・ソリッシュを元々あった場所へ戻した方が良いではないかと促したりと、いろいろ頑張った結果、勇者ソウタが再び魔王を倒してくれまして……」
一先ず、起こった事と行った事を正直ベースで話し、結果魔王がケット・シーの中に封じられた事までルーグ様へ報告した。
正直、魔王を倒せたのは、魔王があっちの世界に魔素が存在しない事に気付いてなくて、覚醒してから人を操る魔法をバンバン使って自滅してくれた事が大きいけど。
それはさておき、ルーグ様が何とも言い難い複雑な表情をしている。
これは……どっち? 怒られる? それともギリギリセーフ?
「……僕も今、勇者ソウタの世界を見てみたんだけど、あの聖女フローラが勇者と子作り、子作りって騒いでるいのは何ですか……?」
「あ、あれは、聖女フローラはティル・ナ・ノーグに居る頃から、勇者ソウタに秘めた想いを抱いていましたから。一度は諦めた想い人に、思いがけず再会出来て舞い上がって居るだけです」
「でも、二十年で封印が解けるとか何とか……」
「解けませんよっ! 最低でも百年は持つ封印ですっ! あれは、向こうで封印魔法の事を知っているのが聖女フローラだけなので、それをダシにして勇者ソウタに迫っているだけなんですってば」
「しかし、聖女フローラって、こんなにはっちゃけた女の子でしたっけ?」
「そうですよっ! 彼女は見た目は大人しくて清楚に見えますが、向こうに行ってはしゃいでいる召喚士エレンが可愛く見える程の小悪魔ですっ! 以前、勇者ソウタが王女リディアと会った時だって、二人切りでの密談だって言っているのに、密かに魔法で中の様子を覗いていたりしましたからねっ!」
「……人間の少女って怖いんですね。なるほど。私も気を付けるようにしましょう」
よしっ! 聖女フローラの話で何となく流せたっ!
私、えらいっ! 乗り切ったー!
「まぁ、それはそれとして、ミス、ブリジット。魔王討伐の為とはいえ、人間の――しかも異世界の方の記憶操作を無許可で行ったのは問題ですね」
「えっ!?」
「というわけで、一年ほど人間の世界で無償奉仕でもしましょうか」
「えぇっ!? でも、ちゃんと勇者ソウタは魔王を倒しましたよっ!」
「それはそれ、これはこれですね」
「そんなぁぁぁ、ルーグ様ぁぁぁっ!」
人間の世界で無償奉仕なんてヤダーっ!
どうせ行くなら、女神様としてチヤホヤされたいのーっ!
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