第27話 召喚魔法を禁止する元勇者
「ねー。そろそろ、私を助けてくれても良いんじゃないかな?」
俺の勇者とマリーの身体能力を使い、引きちぎったコースロープを何とか結び直した後、プカプカと水面に漂っていたエレンが半泣きで抗議してきた。
「いや、陽菜とマリーは大変な目に遭ったけど、エレンは何にも被害に遭っていないだろ」
「ち、違うもん。私だって被害にあったんだもん!」
「どんな?」
「それは……ソウタがマリーに付きっきりで、構ってくれなかった」
何を言っているんだと思いながら、無言でエレンを見ていると、
「ちょ、ちょっとソウタ。そこは、『寂しくさせてゴメン』とか言いながら、抱き寄せてよねっ!」
高レベルの無茶振りを仕掛けてきた。
「それは無い」
「えぇー。でもプールに来てから、私ずっと放置されてるんだけど! 放置プレイなんだけどーっ!」
何だよ、プレイって。
というか、どこでそんな言葉を覚えたんだっ!?
「ソウタ。エレンの気持ちも分かる。ウチは沢山泳ぎを教えて貰ったから、次はエレン」
「とは言っても、エレンは別に泳ぎを教えなくても大丈夫だろ」
「そうじゃなくて、エレンもソウタに構って欲しい」
「なるほど。考えてみたら、プールへ来てからずっと泳ぎの練習ばかりしていたし、休憩も必要だし、息抜きに丁度良いか」
マリーはともかく、陽菜は少し休ませる必要もありそうだしね。
「じゃあ、ちょっとジュースでも買って来るから少し待ってて。……エレン、一緒に行こうか」
「やったー! これは私だけ抜け駆けして良いって事よね?」
「俺一人で四つもジュースを運べないだろ。つまり、手伝えって事だよ」
「えぇーっ!」
エレンが口を尖らせながらもついて来たので、室内プールから十分離れた所で、本題に移る。
「で、エレン。何をやらかしたんだ?」
「や、やらかしたって、何の事?」
「エレンが自分で言っただろ。召喚魔法を使って、プールが変になったって」
「……あ、あのね。水の精霊を召喚して、プールの水を操作してもらおうとしたんだよ。ただ、それだけ。本当にそれだけなのに、何故かあんな事になちゃって……」
「水の精霊? ウンディーネを召喚したら、水がスライムみたいになった……って、そもそもどうして精霊を召喚したりしたんだ?」
「それは……水を操作してマリーが泳げるようになったら、私と遊んでくれるかなーって思って。ごめんなさい」
精霊の力でマリーを一時的に泳げるようにしても、何も根本的な解決には至らないのだが。
まぁでも、確かにエレンを放置し過ぎてしまったのは事実だ。
召喚魔法を使った事の言い訳にはならないが、俺も少し悪かったとは思う。
だが何より一番の問題は、エレンが召喚した精霊が暴走したという事実だ。
「エレン。召喚魔法自体はちゃんと成功したんだよね?」
「もちろん。私は六歳の頃から魔法の練習をしているんだから。十六歳の頃でも、十分魔法には習熟しているよっ!」
「だけど、実際は想定していない影響が出たんだよね」
「そ、そうだけど……」
「とりあえず、もう日本での召喚魔法は禁止な。原因も分かってないし」
エレンの召喚魔法の技術は、ティル・ナ・ノーグで何度も見てきたいので一切疑っていない。
今までは、召喚した幻獣や精霊などをしっかり制御して、完璧に使役してきた。
だから今回の事は、エレンの魔法技術云々ではなく、ティル・ナ・ノーグと日本の差ではないかと思う。
具体的に何が原因かは分からないけれど、完璧にコントロール出来ないのであれば、使うべきではない。
というか、そもそも魔法が存在しない世界なのだから、魔法を使う事自体を自粛すべきな気もするけれど。
「エレン、悪かったな。これからは召喚魔法を使おうなんて気が起きないようにするからさ」
「それはつまり、ソウタがこれからずっと私の事を守ってくれるって事ね? 不束者ですが、末永くよろしくお願いしますっ!」
「いや、それは飛躍し過ぎだから。とりあえず、今日は一日皆で楽しく遊ぼうって意味だ。というか、マジでそういう言い回しをどこで覚えてくるんだ!?」
少し落ち込み気味だったエレンを励ましたら、物凄くポジティブにとらえられてしまったが、一先ず元気が出たので良しとしよう。
エレンに召喚魔法の使用禁止の話も出来た所で、売店で飲み物を四つ買い、ついでに浮き輪を二つレンタルして、二人の所へ戻る事にした。
「お待たせっ!」
「おかえりー。ソウタ、その丸いのは?」
「あぁ、浮き輪だよ。これがあれば、誰でも水に浮くから溺れる心配は無いし、流れるプールだとプカプカ浮いているだけでも楽しいよ」
飲み物と浮き輪をマリーと陽菜に渡し、暫し休憩を兼ねて雑談タイムに。
幸い、マリーは水の中では不利だと認識しているからか、いつもの様に陽菜へ勝負を挑まない。
そのため穏やかに時間が過ぎ、陽菜も十分に回復した所で、エレンが行きたがっていた流れるプールへ移動する。
陽菜も溺れてしまったので、念のため浮き輪を用意したのだが、心配し過ぎだったらしい。
そして暫く、流れるプールやウォータースライダーを四人で楽しんでいると、
「ねぇ、そこの可愛い女の子。俺たちと一緒に遊ぼうぜ!」
金髪でチャラい感じの男と、いかつい男の二人組がマリーに声を掛けてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます