第3章 二人の幼馴染み

第21話 体育の授業で喜ぶ元勇者

「行ってきまーす」


 翌日。嫌な予感がして、いつもよりかなり早く家を出る。

 こんな時間に家を出れば、間違いなく教室に一番乗りとなって、誰かが来るのを待つだけの時間を過ごす事になってしまうのだが、


「ソウタ、おはよう」

「おはよう、ソウタ。一緒に行こー!」


 家の前でマリーとエレンが待って居た。

 二人とも俺の顔を見た途端に、満面の笑みを浮かべ、走り寄って来る。


「あのさ。今、始業時刻の一時間以上前なのに、どうして家の前で待って居るんだよ」

「早くソウタに会いたかったから」

「あと、ソウタが電話に出てくれないから。ソウタとお話するには、直接会うしかないじゃない」


 マリーとエレンが間髪を入れずに攻めてきた。

 この二人……同じ家で一晩過ごして、息がぴったりになっている。

 いや、元々長い付き合いなのだから、出来て当然なんだけど、こんな風に連携されるとは思わなかった。


「電話に出ないのは、既に寝てたからだよ。というか、電話してよいか相手に聞いた方が良いって教えただろ?」

「だって、電話して良いかどうかのメッセージを送ったけど、帰ってこなかった」

「いや、そのメッセージ朝に見たけど、深夜だっただろ。遅いよ。遅すぎるよ」

「もっと早く送りたかったけど、文字を打つのが難しかった」

「それにしても、遅すぎだっ!」


 というか、夜中の二時にメッセージがあって、そこから着信が十件程あったのだが、マリーとエレンは何時まで起きて居たのだろうか。

 しかも、俺より早く家の前で待っているし。

 まぁ嫌な予感が的中したおかげで、家の前で見た目小学生のエレンが長時間待って居る……なんて事態を回避出来たのだが。

 ……出来たよね? 実は、一時間以上前から待ってたとか無いよね? 怖いので聞かないけどさ。

 改めてスマホの使い方をレクチャーしながら登校し、教室でマリーとエレンと雑談しながら皆が登校してくるのを待つ。

 しかし、何人かの生徒が来たのだが、俺たちをチラリと見ると、皆鞄を置いてすぐさま何処かへ行ってしまう。何故だ?


「ちぃーっす! 颯太。お前……イチャつくにしても時と場所を選べよな」

「おはよう、和馬。で、それはどういう意味だ?」

「どういう……って、今日の一時間目は体育で水泳だろ? 皆、着替えに行っているんじゃないのか? 早く行かないと遅刻になるぞ?」


 水泳……って、そうだった! 朝からマリーとエレンのペースに巻き込まれて、すっかり忘れてた!


「マリー、エレン。水着って持っているのか? 紺色で伸び縮みする素材で、布が少ない服なんだけど」

「大丈夫。昨日、エレンと確認した」

「こっちの水着は生地が小さい。つまり、ソウタを悩殺するチャンス」


 いや、チャンスとか言ってる場合じゃないよっ!

 慌てて移動し、俺と一緒に居たいと言い張るマリーを女子更衣室へ押し込み、俺も着替えを済ませる。

 それから、プールサイドへ移動して暫くすると、


「おぉぉぉっ! マリーちゃんだっ! マリーちゃんが来たぞっ!」


 和馬を始めとするクラスの男どもが水着姿のマリーを遠巻きに取り囲む。

 まぁ水着姿だと、制服でも分かっていた事が、さらにはっきり分かるからな。

 クラスの女子とは明らかにレベルが違う、大きな膨らみ。

 皆の目が、明らかにマリーの胸に向いているが、俺はそれよりも帽子に詰められている猫耳や、スクール水着に押し込んだ尻尾がどうなっているのか気になるのだが。


「ソウタ! どう?」

「あー、うん。なかなか良いんじゃないか? てか、それより……耳と尻尾は大丈夫なのか?」

「ちょっと尻尾は割と大丈夫だけど、耳と胸がキツい。早く脱ぎたいけど、我慢する」


 胸……キツいのか。

 確かにこの前見たマリーの胸はもっと大きかった気がする……って、思い出すなっ!

 マリーが俺の傍に走り寄って来たので、あからさまな嫉妬の目が向けられているのを感じていると、


「おぉぉっ! キャンベルちゃん……いぃ。その何も無い身体はステータスだ! 希少価値だ!」


 和馬を含む一部の男たちが、後から現れたエレンに視線が釘付けになっている。

 しかし、マリーの水着は普通なのに、どうしてエレンの水着には、大きな白い枠にマジックで名前が書かれているのだろうか。


「ソウター! どぉどぉー? エレンちゃんの水着姿だよー!」

「……あ、うん。可愛いんじゃない?」

「えへへー、でしょでしょー!」

「だが、その胸元に縫い付けられた、『えれん』の文字は何なんだ?」

「え? 知らないよー? 最初からこうなってたもん」


 エレンは本当に知らないようだけど……じゃあ、女神様がやったの?

 というか、どういうつもりでやったんだ? ……まぁ一部の、というか和馬には異様にウケが良いみたいだけどさ。


「颯ちゃん、おはよ。今日は早かったんだね」

「陽菜! おはよっ! ……うん、いいね」

「ん? 何が?」

「あ、あははは。何でもないよ」


 水着姿の陽菜……うん、優勝だ。

 クラスの男(特に和馬)はマリーやエレンに目を向けて居るけれど、俺としては陽菜の水着姿を拝めたのが、何よりも目の保養になる。

 そんな事を考えていると、


「ヒナ。ウチと勝負!」

「ヒナさん。私と水着魅力勝負よっ!」

「えぇっ!? 一体、何の話なのっ!?」


 突然マリーとエレンが陽菜に勝負を挑みだした。

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