第427話 式子さんの怖い話~赤髪の女 中編その1~

そんな日々を過ごしていた時でした。

母親が祖母と昔話をしていたのです。その内容がとても気になった俺は話に割って入ったのです。

「ね、ねぇ、今の話しって何?」

「T・・・。あなたは知らなくてもいい話よ。」

「いいや。Tにもここに住んでもらう以上、話べきだとあたしは思うさね。」

「で、でもお母さん!あんなもんは迷信でしょ!?それをTに話す必要は・・・。」

「迷信ならそれでいい。だがな、それが本当だった時、Tまでいなくなってしまったらお前は立ち直れるのかい?」

そう祖母に言われると、母親は力なく項垂れてしまいました。

訳が分からない俺に祖母は静かに、けれど厳しく冷たい口調で淡々と話し始めました。

「T、よく覚えておきなさい。この村には“赤髪の女”がいるんだ。」

「あ、あかがみのおんな?」

「ああ。あやつは雨の日に突然目の前に現れる。だが決して顔を見てはいけないんだ。」

「顔を?」

「ああ。そして気づかないフリをして立ち去るんだ。好奇心がどんなに強くても決して関わるんじゃないよ。」

「そ、それって幽霊、ってこと?そ、そんなのいるわけないじゃん!」

「いいかい。よーくお聞き。雨の日は傘を深くかぶりなさい。見えるのは地面だけだ。そして赤髪の女に遭っても逃げずに、気づかないフリをして立ち去りなさい。最後に家に着いたのなら傘を閉じ、深々と外に向かって一礼をするんだ。いいね?」

この時の俺は祖母の話しをまともに聞こうとは思っていませんでした。

田舎の人は迷信深くって面倒くさいというのが俺の印象でした。

だから次の日に、母親に平気で『あんな話し、信じてるの?』と聞いてしまった。

すると母親はニコっと笑って『私の子供の頃も、お婆ちゃんの子供の頃も、そのまたお婆ちゃんのお母さんの子供の頃も親に言われ続けたみたいよ。けれど、私も逢ったことないしただの言い伝えよ。気にしないで。』と言われた。

だがこの日を境に祖母は必ず一回は俺に赤髪の女の話しをするようになったのだ。

最初こそちゃんと聞いていたが、次第に俺は適当に聞くようになったのです。

そして遂には祖母のそんな話を聞きたくなくって、家を飛び出してフラフラして、不良連中と仲良くなったのです。

普段は気の良い奴らですが、彼らは決して雨の日は集まろうとはしませんでした。

「今日も来ないのかよ。」

『悪いが、雨の日は家から出ねぇんだよ。』

「それってもしかして赤髪の女が関係してんのか?」

『なんだお前知ってたのか。なら話は早い。そういう訳だからよ。お前も学校に行かねぇなら家にいろよ。』

電話越しでもわかるぐらい、彼は真剣な感じだったと思います。

けれど、俺はそんな彼をビビりと、内心では馬鹿にしていました。

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