第282話 柑奈さんの怖い話~突き落とす女中編その1~

あの日の経験がきっかけで、俺は女性どころか人間そのものを好きになれず、田舎の町で誰とも関わらずに生活をしていました。

運がいい事に、自分が趣味でSNSに載せていたマンガが好評を得て、出版社から本を出さないかと話もあり、パソコン越しのやり取りを条件に、今は漫画家として生活ができています。

真面目な話し、このご時世は人と関わることを減らす気になれば減らせてしまう恐ろしさがありました。

この時の俺もその恐ろしさに気づけずにいたのです。


「ふぅ。今日はここまでにするか。」

一人で作業するため、作業は遅く、アシスタントを雇わないかと、何度も担当に言われました。

けれど、俺は頑なにそれを拒否していたのです。

「今日は月が欠けてるなぁ・・・ん?」

その時からだったと思います。

あの女を見るようになったのは。


丁度夕方を過ぎて、月が顔を見せ始めた時です。

俺が住んでいるアパートの近くの電柱にスーツ姿の女性が立っていたんです。

関りを持ちたくない俺はすぐさまカーテンを閉めて、見なかったことにしました。

けれど、あの女は毎日のように同じ時間に同じ場所に立っているんです。

「何してんだあいつ?」

妙な好奇心が動き、この頃から彼女を観察して1ページマンガを描き始めました。

「誰か待ってるのか?」

そんな疑問を抱きながら彼女を見ていたのですが、深夜になっても誰も来ず、目を覚ますといなくなっているのです。

「今夜こそ!」

そう意気込んで数十日経ち、未だに彼女のことを何もわからないまま時間ばかりが過ぎた頃です。

突然彼女はこちらを見ているような動きを見せたのです。

顔は髪の毛で隠されていてわかりませんが、視線のようなものは感じました。

観察していたのがバレたのかと思い、しばらくは見ないようにしていました。

けれど、時間が経っても彼女は俺の方を見ている気がしたんです。

「やっぱ人って怖いわ。」

それから一ヶ月ぐらいかな?カーテンを閉めっぱなしにして過ごしていたんです。

「・・・あいつ、どうしてるかな。」

忘れかけた頃、俺はもう一度あの女を見てみることにしました。

夜を待ち、カーテンを少しだけ開け、その隙間から彼女を見ました。

「ッ!?」

彼女は、こちらに向かって手を振っていたんです。

「やっべ!?」

慌ててカーテンを閉め、電気を消し、布団に潜りこみました。

朝になることを願い、朝になった瞬間、俺は唯一信頼している親友に電話をしたんです。

電話に出てくれた親友は即決の返事で了承してくれて、その日に俺の部屋に来てくれました。


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