309話 撃破作戦 その1




 尻尾にミトゥトレットインパクトを叩き込むつもりだったアフラに、デイノスクスの強力な尻尾による攻撃が逆に叩き込まれようとしている。


 だが、立ち止まること無く尻尾に向かって、ミトゥトレットインパクトを打ち込むために突進を続けるアフラ。


 このままミトゥトレットとデイノスクスとの尻尾が衝突すれば、衝撃に耐えきれずにアフラの腕の骨が折れるどころか粉砕する可能性が高い。


 しかも、この状況はまさしくスイングされるバット(尻尾) 対 投げられたボール(拳)のような状況であり、右腕粉砕どころか最悪アフラ自身が吹き飛ばされて、内野ゴロ、若しくはヒットにされ、最悪ホームランにされてしまう。


 だが、彼女はみんなの勝利のために、覚悟を決めて尻尾との打ち合いを選択する。


 突進するアフラは、左足を強く踏み込むと前進する体のスピードを少し殺しながら、体を捻りつつ右腕を水平に後ろに大きく振りかぶりパンチを放つ体勢をとった。


 そして、捻った体を元に戻しながら、自分に向かってくる横薙ぎの尻尾にミトゥトレットインパクトを放とうとした瞬間、彼女の前方にGRファミリア4本が飛んできて、マジックバリアを展開する。


「!?」


 その光景を見たアフラは、ほぼ脊髄反射で打ち込もうとした腕を止めると、素早くもう一度体を捻りパンチを放つ体勢をとった。


 デイノスクスは、突然現れたマジックバリアをその強力な尻尾攻撃で、アフラ諸共粉砕する選択をしてスイングを続ける。


 猛烈な勢いの尻尾がマジックバリアにぶつけられ、激しい衝突音と共にマジックバリアを打ち砕く。そして、その衝撃でGRファミリアは四散するが、デイノスクス自慢の尻尾もその勢いを大きく減衰させる。


 イリエの突進を防いだGRファミリアのマジックバリアは、見事にデイノスクスの尻尾攻撃も防ぐことが出来た。


「リズちゃん、ありがとう! くらえ! ミトゥトレットインパクト!!」


 アフラは右足を前に出して、地面を力強く踏み込むと捻った体を戻しながら、大きく振りかぶった右腕を前方に突き放ち、ミトゥトレットインパクトを勢いの弱くなった尻尾に叩き込む。


「グオォォ!?」

「はにゃ~」


 アフラは衝突の勢いで後ろに少し転がるが、すぐさま後転の要領で起き上がり、デイノスクスの尻尾を確認した。


「やっぱり、ダメか~」


 だが、アキとリズが懸念したとおり、ミトゥトレットインパクトを受けたデイノスクスの尻尾の半分は消し飛んでいるがもう半分は残っており、左右に振って使用状況を確認している。


「だったら、これだー!」


 アフラの右腕は特殊能力の副作用で、力が入ら無くなっているため、今度は先程とは逆の左腕を背後まで振りかぶり左手に全身のオーラを溜め始めた。


 その目的は、彼女曰くの『切り札』であるハイパーオーラパンチを繰り出すためである。


 だが、ハイパーオーラパンチはその強力な威力の反面、2つの欠点がある。


 1つ目は全てのオーラを使うため、それを拳に溜めるのに少し時間を要すること

 2つ目は全てのオーラを消費するため、使用後は動けなくなってしまうことである。


 アフラがオーラを溜めている間に、デイノスクスは尻尾攻撃ができると判断すると、自分の尻尾を半分吹き飛ばしてくれた人間がまだ射程距離にいるので、報復とばかりに体を捻ると尻尾攻撃をアフラに繰り出す。


 半分吹き飛んでいるとはいえ、デイノスクスの尻尾攻撃はアフラのハイパーオーラパンチと勝負しても彼女を内野ゴロにして、ヒットにすることぐらいは出来るであろう。


 先程マジックバリアを張ってくれたリズのGRファミリアは、ミーの元まで戻って魔力を補給しており間に合わない。


 本来GRファミリアは、ミーの近くで魔力をワイヤレス補給して使用されるのだが、今回は近距離射撃による命中率アップとデイノスクスの注意を引くために、ワイヤレス補給の範囲外で使用していたため、こうやって範囲内に戻って補給せねばならなかった。


 そうなると、次にアフラの前に現れたのは、紫音のGMファミリアである。


 GMファミリアは、アフラの前方に円形状に並ぶとオーラのバリアを展開して、デイノスクスの尻尾攻撃を受け、その攻撃を防ぐがGRファミリアの時のようにその衝撃で四散する。


 だが、アフラのオーラはまだ溜まりきっておらず、さっきのように勢いの落ちた尻尾に追撃できず、オーラが溜まって攻撃しようとした時、デイノスクスも再び振りかぶって、尻尾攻撃を再度彼女に行う。


 GRファミリアもGMファミリアも、補給中でバリアを張ってアフラを守ることは出来ない。


「でも、やるしかない!!」


 アフラは自分の左腕を信じて、みんなのためにハイパーオーラパンチを、尻尾攻撃に繰り出す覚悟を決め、迫りくるデイノスクスの尻尾をその決意に満ちた目で睨んだ。


 だが、その時!


「うおおおおお!!!」


 アフラの横を、オーラステップで加速した大男が駆け抜けて、アフラと尻尾の間に割り込むと盾を構えてその攻撃に備える。


「ハゲ先輩!?」


 それは、彼女が所属するクラン『月影』の盾職カシードであった。

 だが、これは無謀な行為である。


 デイノスクスの尻尾攻撃は、いくら盾を構えても人間では耐えきれない。


 そのため盾職が機能せず、紫音やスギハラが神経をすり減らしながら、そのスピードを活かして回避し続けていたのだ。


 だが、彼はそれを承知で後輩を守るために、文字通り盾となる事を決意して、彼女の前にやってきたのであった。


「うおおおお! 南無三ッ!!!」 


 デイノスクスの強力な尻尾が、カシードの構える『アダマンシールド』に激突する。


 ソフィーのアリシア警護の報酬の一部と彼の蓄えで購入したこの『アダマンシールド』は、貴重な金属『アダマンタイト』によって製造されているため、デイノスクスの半分消し飛んでいる尻尾攻撃を受けても、凹むどころかビクともしていない。


 だが、その強烈な衝撃は盾を構えているカシードを襲い、頑強な体躯を誇る彼でも耐えきれず、その巨体を吹き飛ばされてしまう。


「ぎゃーー! やっぱり、ダメだったーー!!」


 吹き飛ばされたカシードは、衝撃で身体中に大ダメージを負い体が動かせないため、為す術もなく地面を転がっていく。


「ハゲせんぱーーーい!!」

「俺に構わずヤツに、そいつを叩き込めー! あと、スキンヘッドな~~~!!」


 アフラの呼びかけに、地面を転がりながらカシードはそう答える。


 アフラはその強靭な脚力で地面を蹴ると、勢いが弱まって再び振りかぶりなおそうとしているデイノスクスの尻尾に迫り渾身のパンチを叩き込む。


「はいぱーおーら・ぱーーーんち!!」


 デイノスクスは慌ててアフラに向かって、尻尾を振るが遅かった。






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