307話 聖女様の言葉
<シェフ ソフィー 畑から開墾して、料理する春野菜スペシャル その7>
紫音ならとっくに言い負かされている言い争いに、ソフィーは何とか反論を続けたが、アキからこの舌戦を一刀両断する答えが返ってくる。
㋐「ソフィーちゃん。反論している内にもう薄々気付いていると思うけど、今日は料理を作らずにお皿を作るからね。だって、料理なんてこんな所で作るわけがないじゃない…」
㋞「何を言っているのよ! 今回こそは、絶対料理を作るんだから!!」
ソフィーは腰の鞄から例のものを取り出すと、一同に見せながらこう言ってきた。
㋞「見なさいよ、これを!! 昨日お姉さまに無理を言って、作って貰ったパイ生地があるんだから!! 今回こそ腐らせないんだから!!」
ご自慢のパイ生地を見せながら、ソフィーは必死に訴えかけてくる。
㋞「これを作るのをお願いした時に、お姉さまから『どうせ、今回も料理を作らないわよ?』って、言われたのを『今回こそ作ります!』と言って、無理を言って作って貰ったんだから!! 今回も腐らせてしまったら、お姉さまの私への評価はダダ下がりになっちゃうんだからーー!!!」
㋐「前回のは腐らせちゃったの? 夕飯に使うって言っていたよね?」
㋞「あんな朝早くから起こされて、日中一杯畑仕事させられたら、屋敷に帰ってシャワー浴びたら、疲れてベッドにバタンキューよ!! 朝までグッスリよ!! パイは鞄の中で腐っていたわよーー!!」
ソフィーは前回のパイを腐らせてしまっていた…
次回に続く
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アキの願いでソフィーとアフラが、ユーウェインとクリスを連れてくる。
「忙しいところ、すみません」
「いや、今のところ私は、あまり役に立っていないから、暫くはスギハラやシオン君、それに四騎将に任せていても問題ないさ。それより、リザードの王を倒す作戦を思いついたらしいが本当かい?」
ユーウェインは自嘲気味にそう答えるが、時間がないのも事実なために、早速本題を切り出す。
「はい。まあ、絶対という確証はないのですが… でも、たぶん倒せると思います」
アキは万が一の時のために予防線を張ったが、正直なところこの作戦が上手く行けば倒せると確信している。
何故なら―
そもそも、あの厳しいけど甘い女神様が、あんな魔物の存在を許すわけがなく、必ず今の状況で倒す方法を用意してくれているはずであるからだ。
では、その方法は? 考えるまでもなく女神武器しか無い!
「この作戦内容自体はそう複雑ではなく、女神武器の特殊能力の威力で、あの厄介な鱗や鎧を破壊して、通常攻撃が効くように丸裸にしようと言うだけです」
「私もそれは考えていた。だが、問題はあの魔法耐性のある鎧や、頑強な鱗に通用するだろうか?」
ユーウェインも勝敗の鍵は、女神武器の特殊能力であると戦いの序盤から、直感的で感じておりできるだけ温存していた。レイチェルは、勝手に使用したが……
彼の質問に対して、アキは自信のある顔でこう答える。
「ミリアちゃんの光属性魔法『フォトン』は、通じると思います」
「どうして、そう思うんだい?」
(光属性魔法『フォトン』は、光属性となっているけど恐らく無属性なはず。あの破壊力は、光というよりビーム砲や荷電粒子砲に近い)
アキの推察通り、『フォトン』はファンタジーより、SF兵器の粒子ビーム砲に近く、無属性とは言い難いが、少なくともデイノスクスの鱗と鎧は意味をなさないであろう。
「私の予想だと光属性魔法『フォトン』は、『メテオ』と同じで他に類のない魔法です。なにより、女神武器の特殊能力でしか放てません。そんな魔法が耐性付き防具で、防げるとは思えません」
ゲームでは、この手の使用条件の厳しい魔法や技はどんな敵にも高ダメージを出すと相場が決まっているため、アキはおそらくフォトンもそうだと確信している。
「確かにあの驚異的な破壊力なら、ありえるわね。ユーウェインさん、私もアキの意見に賛同です。むしろ問題は、フォトンをどう当てるかです」
話を黙って聞いていたクリスが、アキの考えを察したのか助け舟を出してくれるが、問題点も提示してきた。
クリスの発言どおり、フォトンは強力だが目標までゆっくり飛ぶのでスピードが遅く、このままでは高速で移動するデイノスクスには命中しないであろう。
だが、それは他の攻撃も同じである。
「私も問題なのは、どうやって当てるかだと考えていた」
ユーウェインが、女神武器による攻撃に踏み切れないでいたのも、その問題があったからである。
「そうなんです。私の考えた作戦の問題点も、作戦通りに実行して命中できるかということなんです。一応一番成功する確率の高い方法を考えたのですが…」
アキは自信なさげにそう言うが、ユーウェインは他に採用するべき作戦も今はないために
「君の作戦を、聞かせてくれないか?」
アキの作戦を聞くことにした。そして、採用することになるだろうとも感じている。
「たしかに、この作戦が一番成功確率の高いモノだと私も思うわ」
作戦を聞いたクリスは、作戦を肯定してくれた。
「クリス君の言うとおりだな。私もこの作戦に賭けてもいいと思う」
ユーウェインもアキの作戦に賛同する。
心の中で、失敗した時は自分が責任を取ると決意していた。
「まあ、散々不安を口にしてしまいましたが、私は正直大丈夫だと思っています」
「あら、どうして?」
自身のある表情を見たクリスが、アキにその理由を尋ねると彼女は遠い目をしながら、こう答えるのであった。
「それは… フィオナ様が、よく言っておられました。『<女神様は誠実な方ですから、人間に耐えられないほどの試練に会わせることはありません>だから、諦めずに頑張りましょう』と」
アキが自分の作戦に自信を持っているのは、フィオナの言葉とフェミニースの性格から、この作戦で大丈夫だと思ったからである。いや、そう思い込んでいると言ったほうが正しい。
「そうだな、君の言う通りだ。女神様の加護がある限り、我らが負けるわけはないな」
ユーウェインはそこまで女神を盲信してはいないが、士気を下げないためにアキの意見に乗っておくことにした。
アキの言葉を聞いた一同は、彼女がフィオナと一緒に暮らしていた事を知っているため、聖女の影響を強く受けているのだなと感じる。
(なんだかんだ言って、フィオナ様の言葉を心の支えにしているんですね)
中でもアキが、思春期の娘のようにフィオナを邪険に扱っている所を見ていた、ミリアとアリシアは心の中でそうほっこりしていた。
―が、
「あれ? 言ってなかったかな…? あの人がそんな気の利いたこと言わないか… いや、言っていたような… いや、あのポンコツ大司教なら言わないな。言っても、『女神様が見守っています~。だから、頑張りましょう~』とかいう緩い発言だな」
アキはそう呟くと、急に不安な表情を浮かべる。
(いや、おそらく教会の教義で言っていると思う。君のフィオナ様の評価低すぎだろう)
そして、一同は心の中でそう突っ込む。
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