301話 驚異 リザードの王





 <シェフ ソフィー  畑から開墾して、料理する春野菜スペシャル その5>


 ㋞「野菜が、ちゃんと成長しているじゃない!」


 苦労して耕し植えた野菜達が、青々と成長している光景をみたソフィーは、思わず声を上げてしまう。


 ㋛「まあ、まだ少し早い気もするけど、成長しているやつを選別すれば収穫できるね!」


 紫音の横でShiONちゃんも、両手を上下にバタつかせて喜んでいる。


 ㋐「では、収穫は調理の直前ということで、料理の準備の方をしましょう」

 ㋞「準備って、ここで料理するの!?」


 ㋐「採れたての新鮮な野菜をその場で調理する。これこそ最高の調理法とは思わないかしら?」


 ㋞「そうかも知れないけど…」


 ソフィーはあまり乗り気ではない。

 それもそのはずで、1月というこの寒い中で悴む手で料理を作るのは正直辛いからだ。


 ㋞(最後まで、とんでもない企画だったわ…)


 ソフィーはそう思いながら、馬車の荷台から調理器具を用意するアキ達の姿を見ていた。



 #####



「紫音ちゃん! 早く<無念無想>になって! たぶんズゴーレムは、そう長くは持たない!」


 アキが珍しく焦った感じで、紫音にそう指示を出すと幼馴染の心境をすぐさま察した紫音は、アリシアに防御を頼んで瞑想をおこない<無念無想>になる。


「ミリアちゃん。守ってあげたいけど、今直ぐ前線に戻らないといけないから、ここでアリシアに守ってもらってね。アリシア、ミリちゃんを守ってあげてね」


「はい、お任せください! シオン様は何も心配なさらずに、戦ってください」


 アリシアも戦況が逼迫している事を感じ取ったのか、余計なことを言わず真剣な表情で紫音の期待に応える返事を即答して前線に送り出す。


 その頃、魔王城では―


 グリフォンに乗ってようやく帰城した魔王が、悪い雰囲気を出しながらデイノスクスについて、このような解説をおもむろにおこなってくれる。


「フフフ… デイノスクスは、その全身の鋼のような硬い鱗で通常物理攻撃に耐性があり、更にオーラにも少し耐性がある。そのためオーラを纏った攻撃でもマトモなダメージを与えられない。しかも、身に纏う鎧には属性耐性が施されており、高速で移動するデイノスクスを魔法で面制圧しても、消費するMPに比べてダメージは少ない」


 長台詞のため魔王は一度解説を中断して、息を吸って酸素補給した後に暗黒騎士が用意してくれた水を飲んで喉を潤すと解説を再開した。


「更にデイノスクスは、テールステップによる高速移動ができるため、後衛職も油断していると文字通り喰われる事になる。盾職が後衛を守ろうとしても、並の冒険者ならその強力な一撃であっという間に、自分が犠牲者になってしまう」


 <では、人間達は勝てないのですか?>


 魔王の指示により、そのように書かれたフリップを持った暗黒騎士が、聞き役を担当する。


「薬品がぶ飲みで、1時間くらい戦えば勝てるでしょうね」


 <1時間ですか!?>


 暗黒騎士が次のフリップをめくって、驚きを演出する。


「昔のMMORPGのレイドバトルなんて、2時間以上の戦闘なんてざらだったのよ。1時間ぐらい頑張ってもらわないとね!」


 魔王は古き良き時代のMMORPGを思い出して、このような発言をするが実戦をゲームと同じ感覚で語られては、冒険者達はたまったものではないだろう。


 唐突な魔王によるデイノスクスの能力説明が終わったところで、場面はそのデイノスクス戦に戻る。


 遠距離職達は、高速で移動するデイノスクスに命中させることができず、魔法も魔法使い達が範囲を決めて、一斉発動させる面制圧発動を行いようやく命中させるが、魔王の説明通り有効的なダメージを与えられていない。


「ユーウェイン隊長。面制圧で魔法を命中させましたが、あまりダメージを与えられていないようです。どうやら、あの鎧か鱗に魔法耐性か属性耐性があるみたいです」


 エドガーは、魔法を受けたデイノスクスの様子を観察して、怯みも苦痛の表情も見せないことから、魔法が効いていないと判断してそのように報告する。


「そうか… なら、スギハラ! シオン君! オーラで攻撃してみてくれ!」


「おう!」

「わかりました!」


 ユーウェインは、デイノスクスの相手ができるのはこの両名だけだと判断して、二人にだけ攻撃の指示を出す。


 彼の判断どおり、デイノスクスのスピードに追いつけて、攻撃を命中させる事ができ、逆に相手からの攻撃を回避できるのは、この戦場ではこの二人だけであろう。


 そうこうしているうちに、あちこち牙で噛み砕かれ、爪で引き裂かれたズゴーレムが、遂に耐久値を全て削られてキラキラと煌く魔力素子となって、大気中へと還ってしまった。


「よく頑張ったね、ズゴーレム。この戦いが終わったら、フィギュアにして部屋に飾ってあげるからね」


 アキは悲しみを堪えて、奮闘して空に還るズゴーレムに最後の言葉をかける。

 その側で、ミリアも悲しそうな表情でいる。


 紫音はオリノコ戦と同じように、デイノスクスのオーラを感知して動きを捉えると、オーラの大太刀を片手にオーラステップで追いかける。


 そして、デイノスクスがその太く逞しい腕に生えた鋭い爪で、後衛職を守る盾役の構える盾と一緒にその体を切り裂くとその背後に追いついて、その無防備な背中をオーラの大太刀で”爪でやられた人のお返し!“とばかりに斬りつける。


「やあっ!!」


 <無念無想>状態の紫音は、冷静にデイノスクスの鎧の隙間にオーラの大太刀の刃を通すとその鱗に覆われた生身に斬りつける。


「グッ!?」


 デイノスクスは背中の腰のあたりにダメージを負うが、すぐさま尻尾を左から右にスイングさせて紫音に反撃してきた。

 だが、それを難なく後方に跳躍して避けると、紫音は跳躍中に追撃を行う。


「オーラウェイブ!!」


 オーラの大太刀を横一文字に素早く振って、纏わせたオーラを光波として飛ばし、デイノスクスに遠隔攻撃を繰り出す。


 しかし、尻尾攻撃を繰り出したデイノスクスは尻尾を振った勢いを利用して、そのまま体を左回転させると両腕の篭手でオーラの光波をブロックする。


「そこだぁ! 風旋!!」

「クッ!?」


 スギハラは背後から、縮地法で加速して近づくとオーラを溜めた刀で、紫音が先程斬りつけた箇所と同じ所を高速で斬り抜けた。


 そして、ガードとスギハラの攻撃で動きが止まったデイノスクスを、クリス、エドガー、リディア、エスリン、リズ、ノエミがそれぞれ反応して、それぞれ素早く放つことができる攻撃を繰り出して、デイノスクスが逃げ出す前に微小ながらダメージを与える。


「ミゴトナ レンケイダガ キカンナ!!」


 その一連の連携攻撃を受けたデイノスクスは、移動してからこう言い放つがこれは強がりではなく本当の事であった。


 彼への有効打は、紫音のオーラの大太刀による斬撃攻撃だけであり、その攻撃も大ダメージではなく、デイノスクスからすれば大したダメージではない。


 このことから魔王の解説通り、このままの攻撃を続ければ、本当に一時間以上の戦闘となってしまうだろう。


 そして、その場合ゲームと違い生身である紫音達では、そのような長期間の継戦能力を維持するのはとても難しいと言わざるを得ない。



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