275話 続・オーガ追撃戦終了
「まったく、紫音ちゃんは辛くなると直ぐに気弱になって、引いちゃうからダメなんだよ」
要塞への帰路、アキのダメ出しはまだ続いており、紫音はショボンとしている。
アキは自分が走るのが辛くなって、オーガの最初の足止め隊と戦ったことを棚に上げて、紫音を説教した。
すっかりしょげている紫音の姿を見たクリス達が、近寄ってきて紫音を弁護してくれる。
「でも、その御蔭で無理をせずに、取り返しのつかない事態を回避しているのだから、一概に悪いことではないと思うわ」
「まあ、確かにシオン先輩がこれ以上やる気を出したら、取り返しのつかないこと平気でやらかしそうだから、今ぐらいでいいんじゃないの?」
クリスとソフィーの紫音を庇う言葉の後に、アフラも続けて紫音を擁護してくれた。
「そうだよ! アキさんもリィズちゃんも走るのが辛くなって、真っ先にオーガと戦ったのに、紫音さんを攻めるのはダメだよ! あっ!!」
アフラは紫音を弁護するために、思わず黙っている約束した事を口走ってしまい最後に気付いて、両手で口を抑えるというお約束の事をする。
「アキちゃん! どういう事!?」
それを聞いた紫音は、当然自身の事を棚に上げて、自分を攻めてきたアキに問い詰めた。
だが、そこは弁舌という名の屁理屈が達者なアキである、見事に屁理屈を並べてその口撃を回避する。
「私は冒険者じゃないし、『魔王を倒す!』なんて目標を持ってないから、無理をしなくてもいいんだよ。でも、紫音ちゃんは『魔王を倒して、天音様の様な立派な女性になる!』という目標があるんだから、もう少し無理をしてでも頑張らないといけないんだよ!」
「確かに… そうだね…。天音様のようになる為に、頑張らないといけなかったね…」
アキのそれらしい反論に紫音はすっかり感化されてしまい、オーガ四天王をユーウェイン達に任せてしまったことを反省する。
(シオンでは、弁の立つアキには勝てないわね…)
その二人のやり取りを見たクリスは心の中でそう考えながら、紫音には他人の忠告を素直に受け入れて反省する純粋さを持ち続けて欲しいと思うのであった。
その一連の出来事を見ていたリズは、確実に自分に話が振られると思い、気配を消してこの場から逃げ出そうとする。
「まあ、アキさんは冒険者だから、無理はしなくてもいいわね。ただしリズ、アナタはダメよ」
「あぅ… ス…」
だが、妹の事を知り尽くしたリディアに、行動を読まれて捕まってしまう。
もちろん、要塞までの帰り道に説教され続けたのは言うまでもない。
要塞内に戻ってくると、泣きそうな顔をしたミリアが紫音達に向かって走って来て、紫音に抱きつく。
「どうしたの、ミリアちゃん? そんなにお姉さんが恋しかったの? ええんやで、お姉さんにいっぱい甘えたらええんやで」
ミリアは抱きついた理由を小声で話し出す、その理由はアリシアのダークオーラが怖かった事と、その後からケットさんがアリシアに構いきりで心細かったとの事であった。
紫音はミリアの手を引きながら、城壁まで来るとそのケットさんの『愛とはニャンだ』講座は、ちょうど終わっておりアリシアは紫音に気付くと足早に駆け寄ってくる。
「シオン様、ご無事でなによりです」
「アリシア、ただいま」
二人が会話を交わすと、アリシアの肩に乗っていたケットさんは、ピョンと軽やかにジャンプしてミリアの肩に乗り移った。
すると、要塞内広場でユーウェインの勝利の勝鬨が始める。
「諸君、今回も要塞を守りきった我々の勝利だ! だが、我々の戦いはまだ続く。諸君も既に察していると思うが、明後日に我らは戦力の減少したオーガ本拠点に侵攻作戦をおこなう! 四天王を一体取り逃したことで、厳しい戦いになるであろうが、人類の未来のために諸君達の奮戦努力を期待する。では、諸君! 明後日のオーガ本拠点侵攻作戦で再開できることを期待する。以上!」
「オーーーー!!!!」
参加者達による今回の勝利の喜びと次の戦いに向けての鼓舞による勝鬨は、広場だけでなく要塞内部の隅々まで響き渡る。
紫音達はユーウェインに帰宅する旨を伝えに行く。
すると、彼は「エレナ君、例の件はどうなったかな?」と、訪ねてくる。
その問いかけにエレナは、笑顔でこう答えた。
「はい、父に行政府にある女神の栞(業務用)で連絡したら、是非協力したいと」
「そうか! それは、良かった!」
エレナの返事を聞いたユーウェインは、安堵の表情を浮かべそう答える。
「あの~、エレナさん。何の話ですか?」
何の話をしているのか解らない他の者達を代表して、紫音が質問するとユーウェインが答えてくれた。
「ああ、実はエレナ君の父上にできる限りの薬品を生産して、要塞に収めてくれるように彼女を通して依頼していたんだ」
ユーウェインは、商業組合の策謀によって要塞への薬品の供給、ならびに流通の阻害を受けて薬品の備蓄量に危惧を感じていた。そこで、クリスからエレナの実家が薬品を製造していると聞いて、一定数だけでも入手先を確保しようと思い彼女に依頼していたのである。
そして、エレナはミレーヌの協力を得て、行政府にある女神の栞(業務用)を使用して、父親に連絡をおこなう。
女神の栞(業務用)は、各村や町のフェミニース教会と冒険者組合に設置されており、目的地までの女神の栞(業務用)を経由して、通信内容が目的地まで伝えられる。
こうして、パロムの村のフェミニース教会兼冒険者組合に設置されている女神の栞(業務用)まで伝えられたエレナのユーウェインからの依頼は、父親に伝えられエレナの父親はそれを快諾したのであった。
「これで、次の本拠点侵攻作戦では、薬品の心配をする必要はなくなったな」
「ですが、実家の薬品工房は小規模で少量生産しかできないので、あまり過度な期待はしないでください」
「現状、王都からの搬入が激減している分を、少しでも補えるなら助かる」
こうして、エレナの父親の協力によって、要塞は薬品の備蓄はひとまず解決したように見えたが、そう上手く事は進まず事件は拠点侵攻作戦の最中に起きる。
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