252話 二つの別離・・・




 アキがフィオナと一緒に教会に向かった後、紫音はGMファミリアの試験を再開する。


「今度はちゃんと攻撃してね、マガタマちゃん達! いけっ! GMファミリア!」


 紫音が30メートル程先に設置している庭の岩を標的として、攻撃するようにイメージしながら命令を出す。すると、彼女の周りに展開していた八つのGMファミリアは空を切りながら飛んでいき、岩近くまで行くと標的を頭上から包囲して、蓄えていたオーラを弾にして発射する。


 岩を標的に変えたのは、庭に設置している標的は木で作られている為に、試験相手としては恐らく貧弱であろうとなった為であり、こうしてミレーヌの屋敷の庭にある岩がまた一つ失われることになる。


 包囲され四方八方から、オーラの弾を撃ち込まれた岩は、あっという間に破壊され砕け散るが、砕け散ったのは上空からの攻撃のためか上半分だけで下半分は残っていた。


 それを見た紫音は、少しがっかりした感じでこう感想を述べる。


「やっぱり、リズちゃんのGRファミリアよりも威力がないんだね…」


「岩を半分砕いているんだから、充分だと思うわよ。少なくとも牽制用としては、アリの威力よ。それに、私と違って常時展開できるんだから、この子達に攻撃させてその隙を狙うとか色々な攻め方ができるじゃない」


「そうッスよ。この威力なら、魔物の上半身は吹き飛ばせているッス。ミリアちゃんが見たら、泣いちゃうような事になっているッス」


 ソフィーとリズが、各々GMファミリアの威力に対して、がっかりする紫音に意見をする。


「はぅぅぅ…」


 ミリアは、上半身が消し飛んだ魔物を想像して、青ざめて怯えてしまう。


「そうだね。このマガタマ達がいれば、近接戦闘から遠距離戦まで色々な攻撃できるし、便利だよね」


 紫音は彼女達の意見を聞いて、要は自分の使い方次第だと思い、使い方を色々模索してみることにした。


 次の日の朝、教会ではアキが久しぶりにフィオナを起こしていた。


「フィオナ様、朝ですよ。起きてください」


「あと、五分~。いえ、あと十分だけでいいですから、寝かせてください~」


「駄目ですよ。出発まで時間がないんですから、早く起きてください!」


 アキがフィオナの布団を無理やり奪うと、聖女様は嬉しそうにこのような事を言い出す。


「久しぶりに、アキに起こされてしまいましたね~」


 そう言った彼女は、昔のような寝ぼけた感じではなく、明らかに既に眠りから覚醒している感じだとアキには解った。


「フィオナ様。私が起こす前から、起きていましたね!」


「昨晩から、アキに久しぶりに起こして貰うと思うとウキウキしてしまって、いつもより早く目が覚めてしまいました」


(遠足当日の小学生か!)


 アキは心の中で、そう思いながら彼女に奪っていた布団を渡すと、こう言って部屋を後にする。


「では、早く食堂まで来てください。みなさん、フィオナ様を待っていますよ」

「わかったわ~」


 こうして、アキとフィオアナは久しぶりに朝食を一緒に食べて、その後雑談を交えているとフィオナはアキを抱擁して別れの挨拶をしてくる。


「立場上、皆の前では特別扱いできないので、今こうして言っておきますね。アキ、無理はしないでね。次会う時まで、元気でいてくださいね」


「はい…。フィオナ様も元気でいてくださいね…。あと、朝ちゃんと起きてくださいね…。それから、ナタリーさんに迷惑かけないでくださいね…」


 アキは泣きそうになるのを堪えて、そう彼女にお別れの挨拶を返した。


(まるで、姉妹のようね…。まあ、会話内容はどっちが姉かわからないけど…)


 ナタリーは心の中でそう思いながら、微笑ましくその二人の様子を見ている。

 そうこうしている内に、フィオナ達の出発の時間がやってきた。


 教会の外にはすでに紫音達が来ており、ミレーヌも見送りに来ている。


「ミレーヌ、わざわざ来てくれたの?」


「ああ、最後ぐらいはと思ってな。まあ、別に今生の別れではないが、お互いもう自由に会える身分でもないからな…」


 二人は更に二、三言葉を交わすと最後に握手すると、フィオナは最後にミレーヌに頼み事をする。


「アキのことお願いね」

「ああ、まかせておけ」


 フィオナは、見送りに来てくれた一同とも暫しの別れの挨拶をすると、最後に大主教らしく祈りのポーズをとって、このような言葉と共に一同に祈りを捧げる。


「皆様に、女神フェミニース様の加護があらんことを」


 祈りを終えたフィオナは、ナタリーが扉を開けてくれている馬車に乗り込む前に、振り返って一同に一礼してから馬車に乗り込み、ナタリーも一同に一礼すると続いて馬車に乗り込む。


 やがて、馬車が動き出すと一度は手を振り始める。

 遠ざかる馬車の後ろの窓から、フィオナも手を振り返し、一同は馬車の姿が見えなくなるまで手を振り続け、馬車が見えなくなるとしんみりした雰囲気に包まれる。


 その雰囲気を打ち破るように言葉を発したのはソフィーで、彼女から出た言葉は更に一同をしんみりとする内容であった。


「じゃあ、私も今日限りで、自分の”クラン”に帰るわ」

「ソフィーちゃん、どういうこと?!」


 紫音が突然の彼女のPT離脱発言に、理由を尋ねると彼女はこう答える。


「元々私がこのPTに出向していたのは、アナタの二刀流の練習相手とこのPTにベテラン冒険者がいなかったからよ。でも、アナタはもう二刀流では無くなったし、PTには私よりもベテランのレイチェルさんもいるわ。もう、私は必要ないでしょう? だから私は“クラン”に戻るのよ」


「そんなことないよ! ソフィーちゃんは、私達のPTに必要だよ!」


「そう言ってくれて、ありがとう…。でも、ミレーヌ様からの契約も解除されたし、”クラン”に戻らないといけないのよ」


「ミレーヌ様、本当なのですか!?」


「ああ、本当だ。昨日の時点で、彼女のレンタル契約は解除してある」

「そんな…」


 ミレーヌの言葉に、紫音とミリアが悲しそうな顔をする。


「そんな顔しないでよ。PTからは離脱するけど、同じ街にいるんだから、また会えるわよ」


 ソフィーは悲しそうな表情でいるミリアの頭を、帽子の上から撫でながらそう言った。


(ソフィーちゃんは、元々敬愛するクリスさんと一緒にいたい所を、私達を心配してくれて一緒にいてくれていた。だから、これ以上私の我儘でソフィーちゃんを引き止めるわけにはいかない…)


 紫音は、ソフィーを引き止めたい気持ちを抑えて、彼女を送り出すことにする。


「ソフィーちゃん…。また、いつか一緒にPTで戦おうね…」


「シオン先輩…。アナタ達とのPT嫌いじゃなかったわよ。じゃあ、また明日オーガ戦で会いましょう」


 ソフィーはそう言って、密かに持ってきていた荷物を詰めた女神の大鞄を肩から掛けると、手を振ってその場を後にした。


 リズとアキは特に何も言わずに、ソフィーとの別れを済ませる。


「明日のオーガ侵攻作戦で、また会えますよ」


 エレナは寂しそうにしている紫音とミリアを気遣ってそう声を掛けた。



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