250話 ヤサカニノマガタマ



 前回のあらすじ

 授与式もせずに、ポンコツ聖女様に抱きしめてもらったよ。


 #####


 遂に紫音の女神武器授与式が執り行われる。


 フィオアナは、女神武器の置かれている祭壇の前に立と、いつもの緩い優しい表情ではなく、総主教と思わせる凛々しい表情になってこう語り始めた。


「それでは、これよりシオン・アマカワの女神武器授与式をおこないます。シオンさん、私の近くに来てください」


 紫音が言われる通りに彼女の前まで歩み寄ると、フィオナはムラクモブレードを紫音に手渡して続いて勾玉も手渡す。


 右手にムラクモブレード、左手に勾玉を持った紫音にフィオナは誓いの言葉を問いかける。


「シオン・アマカワよ、汝はこの女神から与えられし聖なる武器で、これからも女神と人間達の為に戦うことを誓いますか?」


「誓いましゅ…」


 急にそのような誓いを振られた紫音は、慌てて答えたために噛んでしまった。


(シオンさんらしいな…)


 その様子を黙って見守っていた一同は、心の中でそう思ってしまう。


「シオンさん、焦らなくていいですから、落ち着いて言い直してください」

「誓います!」


 フィオナが優しくそう言ってくれたので、紫音は今度こそちゃんと誓いの言葉を言うことができた。


「では、これにてシオン・アマカワの女神武器授与式を終えます」


 フィオナが授与式の閉会を告げる。


「これで、私達のこの街での役目を終えましたね…」


 授与式が終わりナタリーは、フィオナに話しかけてきた。

 授与式が終わるということは、フィオナ達との別れを意味する。


「いつ王都の大教会に戻るのですか?」


 紫音が尋ねると、ナタリーが答えてくれる。


「明日の朝、この街を出る予定よ。大教会をいつまでも空けておくわけにはいかないから」

「そうですか…。では、明日お見送りきますね」


 紫音のその言葉に、紫音PT一同は一斉に頷いて賛同の気持ちを表す。


「わざわざ、ありがとうございます」


 フィオナは嬉しそうに、頷いてくれたみんなに感謝の言葉を述べる。

 こうして、紫音達は一度ミレーヌの屋敷に帰ることにした。

 教会を出たところで紫音は、アキに近づいてこのような事を話しかける。


「アキちゃん、いいの? 明日お別れしたら、また暫く会えないんだよ? 今日一日、一緒に居なくていいの?」


「別に…、どうせまた会おうと思えば会えるしね…」

「アキさん! ぜひフィオナ様と今日一日過ごすべきです!!」


 アリシアが話に割り込んできて、アキにそのように言ってきた。

 もちろん彼女の目的は、アキを遠ざけて自分が紫音を独占することである。


「別にいいよ…。子供じゃないんだし」


 アキはそう答えると、これ以上この話はしたくないといった感じで、早足になって二人から距離を取る。


「アキちゃん…」


 紫音はそんなアキに、これ以上何を言えば良いのかわからずに、歯痒い気持ちになる。


 屋敷に戻ってきた紫音は昼食後、早速庭で新しい女神武器を使ってみることにした。

 フィオナから貰った説明書を見ながら勾玉の使い方を試してみる。


「えーと、なになに…。この勾玉は【ゴッデスマガタマファミリア】(GMファミリア)と言って、使い方は中央にある女神の宝玉にオーラを込めます」


 紫音は説明書の指示通りに、ゴッデスマガタマファミリアの土星のような円盤の中央にある女神の宝玉にオーラを込めた。

 すると、宝玉は一度だけ点滅してから円盤ごと宙に浮いて、自動で紫音の左肩上辺りに移動してその場で制止する。


「ミーのように、不思議な力で浮遊しているッス」


 見学に来ていたリズが感想を述べた。


 彼女の言う通りGMファミリアは、女神の神秘の力でドローンのように、紫音の左肩の上で浮遊している。


「次は…GMファミリアは、オーラに攻撃指示を込めて送ることで、アナタの敵と認識した相手に攻撃します」


「これは、私のゴッデス・デュアル・スカバードゥ・ファミリアと同じ操作方法ね」


 同じく見学に来ていたソフィーがそう言ってきた。

 ソフィーの言葉通りで、二つのファミリアは同じような原理で動いている。


 これは、ミトゥースがGDSファミリアによって得たデータを元に、GMファミリアを作ったからであった。


「頭に標的をイメージしながら、オーラを送り込めばいいのよ。その際に、言葉に出してみると、イメージをしやすいわよ」


 ソフィーは紫音に、ファミリア使いの先輩として助言する。


「私のファミリアちゃんは、無線式だけど…」


「なら、ミーと一緒ッス。命令と一緒に送るイメージをすれば、勝手に反応して吸い取ってくれるッス」


「それって、オーラで命令を送っているのに、それを受け取る前に反応するなんて、順序が逆になってない?」


 リズの言葉にアキがそう反論してきた。

 アキの推測は正しく、本当は無線式に内蔵されている女神の宝玉には、使用者の脳波を読み取るというこの世界から逸脱したシステムが組み込まれている。


 その攻撃するという脳波を受け取った宝玉が、使用者のオーラなり魔力なりを命令受諾の合図と攻撃に使うENの一部として吸収して、命令通り攻撃行動に移る。


 リズやソフィーにそう教えられていないのは、この脳波システムを秘匿するためであった。


「まずは、ファミリアを展開させる命令を出すッス」


 リズの助言通りに、紫音はファミリア展開イメージをすると、その命令を込めたオーラを左肩の近くに移動させてみる。


 すると、女神の宝玉が再び一度だけ点滅して、周りの円盤に搭載している八つのマガタマファミリアを分離させて、紫音の周囲に展開させた。


「これが、ファミリア…」


 紫音は、自分の周囲に展開されて浮いているマガタマを見て、そう感想を述べると次は攻撃の命令を出してみる。


「敵をイメージして…」


 紫音は次に二人のアドバイスを元に、敵をイメージすると命令を込めたオーラを左肩の近くに移動させてみる。


「私の敵を攻撃して、ゴッデスマガタマファミリア!」


 紫音は指を広げた左手を前に出して、格好良く発射のポーズを決めて、GMファミリアに命令を出す。


 GMファミリアは、紫音の命令どおりに敵に向かって飛んでいき体当たりをする。


 GMファミリアの八つのマガタマのうち、三つはレイチェルの胸に、アキとエレナの胸には二つずつ、そして残り一つはアリシアの胸に体当たりしている。


「シオン君…。これは、一体…」

「シオンさん…、どういうことでしょうか…?」


「シオン様… くすぐったいです…」


 レイチェル、エレナ、アリシアがマガタマの体当たりを受け困惑しながら、紫音に何故こうなっているのか質問してきた。


「紫音ちゃん…。確かに紫音ちゃんにとっては、ある意味“敵”かもしれないけど…」


 全てを理解しているアキは、少し引き気味でそう意見を述べた。


「そんなつもりは…!? きっと、操作に慣れてないからだよ!(いや、確かに敵と思っているかもしれない…)」


 紫音は一応否定したが、心の中では否定しきれなかった。


「シオン様! どうして、私は一つだけなのですか!?」


 アリシアは、自分だけ一つということに抗議する。


「それはね、アリシア様。マガタマの数は<大きさの差>だよ…」

 アキが何がとは言わずにそう答えた。


 その言葉にピンときたソフィーが、紫音に抗議を込めたツッコミを入れる。


「ちょっと、待ちなさいよ! それなら、どうして私には一つも来ないのよ!! 年下達が“0”なのはわかるけど、私まで“0”というのはどういうことよ!! 何とか言いなさいよ!!」


 ソフィーは紫音の両肩を掴んで、激しく体を揺さぶるという最近気にいっているツッコミで、自分を馬鹿にしたヒンヌーポニーを責めてきた。


「だって、ソフィーちゃんは、私の同士だし…」


 紫音は揺さぶられながら、何とか答えるがソフィーはその答えに更にヒートアップする。


「だれが、同士よ! アナタと一緒にするんじゃないわよ!!」


「そんな、酷いよ! ソフィーちゃんは、私の唯一の理解者でしょう!? あと、気持ち悪くなってきたよ…」


 紫音はソフィーに自分達は、同じ思いを持った同士であること、そして、気持ち悪くなってきたことを訴えた。


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