203話 オーク本拠点前


 前日、豪胆なアキの推理漫画のトリックに突き合わされた紫音であったが、睡眠も十分に取れて体調に問題はなかった。

 ―が、例の二人はあの後深夜まで盛り上がったのか、睡眠不足といった顔をしている。


「アキちゃん、エレナさん、二人共大丈夫?」

「大丈夫です、紫音さん……」


 心配した紫音が二人に声をかけるとエレナはそう答えるが、少し眠そうに見えた。

 そして、アキからはこのような返事が帰ってくる。


「大丈夫、大丈夫…。クオンちゃん……」

「全然大丈夫じゃないよね?! 私の名前、間違えているよ!?」


 紫音は朝からアキに、中々キレのある突っ込みを行う。


「まったくしょうがない、お姉さん達ね……」


 ソフィーが呆れた表情で、そう言いながら近づいて来る。


「ソフィーちゃん、私をこの駄目なお姉さん達と一緒にしないで……」


 紫音は日頃の自分のダメさを棚に上げて、私は違うといった感じを出す。


「あの二人も、きっとアナタにだけは言われたくないと思っているわよ。それにそんなこと言って、数時間後に駄目なお姉さんになるんでしょう、シオン先輩?」


 ソフィーは、少し意地悪な感じで紫音にそう言う。


「ソフィーちゃん、大丈夫だよ。私だって、そう何度も何度も駄目な所は見せないよ。人とは日々成長するモノだからね」


 すると、紫音はキメ顔でそう言ったが、ソフィーには振りにしか思えなかった。


 駄目なお姉さん達にかわりソフィーが馬車の操縦をして 、“月影”メンバーと合流するために街の外まで馬車を走らせると、そこにはアフラやノエミ達“月影”のメンバーがすでに待っていた。


 合流を果たした紫音達が要塞前まで来ると、エスリン率いる護衛部隊が待っている。


「私達も一緒に行きます」


 エスリンとの対話のために紫音が馬車の荷台から降りてくる。


「エスリンさん、ありがとうございます」

「気にしないで、これは人類の未来の為なのだから。ところでアキはどうしたの?」


「それが…… 睡眠不足で馬車の中で寝ていまして…… きっと、アキちゃんは今日の事で、眠れなかったんだと思います……」


 エスリンの質問に対して紫音は、彼女から目を反らしながら親友をかばう為にそれらしい理由を言って答えた。


 彼女もその紫音の態度を見て察したのか、他愛のない会話を少しした後に自分の馬車に戻って行く。紫音達はオーク本拠点に行ったことがある“月影”の馬車を先頭にして、隊列を組んで本拠点に向かった。


 その頃、リーベ達の隠れ家では―


「ねえ、魔王様。リズちゃん達から連絡で、今日からオーク本拠点に行くから暫く連絡とれないって来たんだけど、私達は何もしなくていいの? オーク侵攻軍も殲滅されたみたいだし……」


 クロエが魔王にこのような意見をしていた。


「そうね……。本拠点を落とされるのは最悪仕方ないとしても、『魔物精製魔法陣』と『魔力吸収宝玉』を人間達に与える訳にはいかないわね……」


 そ魔王は漫画を描く手を止めて、少し考えたあとにこう述べる。


「ただ、今の私達にはその余力がない。漫画のスケジュールがギリギリなのよ……」


 現状の状況がそれを許さないことも説明した。


「だったら、私が行ってくるよ! 私が本拠点まで行って、『魔物精製魔法陣』の破壊と『魔力吸収宝玉』の回収をしてくるよ!」


 それを聞いたクロエがこのように提案すると、魔王はすぐさまその提案を却下する。


「駄目よ。子供のアナタ1人に危険な任務を任せられないわ」

「じゃあ、アンネもクロエお姉ちゃんと一緒にいくの~。二人だから、大丈夫なの~」


 その魔王の反対を聞いたアンネが、閃いたとばかりに自分も行くといいだすが、もちろん魔王にすぐに却下さてしまう。


「駄目よ。保護者無しで、子供だけで遠出したら駄目って習ったでしょう?」


 二人は子供扱いしてくる魔王にブーブーと不平を鳴らしている。


(とはいえ、『魔物精製魔法陣』と『魔力吸収宝玉』が人間達の手に渡れば、碌な事にならないのは目に見えている……)


 魔王は悩んだ末に、一つの決断を下す。


「エマ、クロエ、アンネ。アナタ達3人は今からオーク本拠点に向かって、『魔物精製魔法陣』の破壊と『魔力吸収宝玉』を回収してきてちょうだい。今から準備して向かって、作業を行えば夜には完了するはずだから、向こうで一泊して朝になったら帰ってきなさい」


「人間達と戦わないでいいの?」


 魔王の指示を聞いたクロエは、このように質問する。


「大軍同士の戦いとは甘いものじゃないわ。作戦が無ければ、いくら個人が強くても勝てないのよ。そして、その作戦を考える余裕は今の私には無いの……」


 そのクロエの質問に魔王はこう答えた。


「ごめんなさいね、エマ。アナタも連日の睡眠不足で辛いだろうけどお願いね」


 その後エマに申し訳無さそうに言葉をかける。


「いえ、大丈夫です。では、行ってきます」


 エマは、クロエとアンネを引き連れて、一泊する準備をすると隠れ家の秘密通路に待機させているグリフォンに乗って、オーク本拠点に旅立っていった。


 その頃、紫音達はオーク本拠点の近くにまで到達していて、”月影”がオーク間引き任務の時に使っているキャンプ地を拠点とすることにして、馬車から本日のキャンプに必要な分の物資を下ろす。


 テントを張ってキャンプの準備を行うと、護衛役が周囲を警戒している中でアキがゴーレム作成を開始する。


「暇だね~。どうせなら、オーク本拠点内にいるオークを少しでも倒せないかな?」


 アキがゴーレム生成魔法陣に魔力を注ぎ込んでいると、警戒だけで暇を持て余した紫音が側に居たソフィーにこのような事を言ってきた。


 その言葉に対してソフィーは、すぐさま能天気なポニーを窘める。


「そんな事できるわけないわ。中にいる敵を一匹だけ釣りだそうとしても、もれなく数十匹付いてくるわよ。下手したら四天王まで出てくるわよ!」


「私のハイパーオーラバスターなら、数十匹ぐらい一網打尽にできるし、そのあと四天王1体だけなら、ここにいるメンバーなら倒せるんじゃないかな?」


 ソフィーは紫音のその言葉を聞いて、最初は”また、馬鹿なこと言っているわ”と思ったが、確かに紫音、自分、エスリン、リズ、ミリア、アフラ、ノエミなら四天王を倒せるのではないかと考え直す。


 ソフィーがエスリンにその事を相談しようとした時、ミーのレーダーが上空から接近するモノを捉えて「ホ―、ホ―」と鳴いて警告を始める。


「ミーが、南の上空より接近するモノがあるって言ってるッス!」


 リズがミーの警告をみんなに報告すると、ノエミや偵察係はすぐさまイーグルアイで南の空を見ると、グリフォンがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。


「グリフォン1体接近!」


 偵察兵が、エスリンに報告すると彼女は戦闘準備の号令をかける。


「全員、戦闘準備!!」


 エスリンが戦闘準備の号令をかけると、そこにいた者達は次々と武器を構えて上空の敵に対して戦闘態勢を取った。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る