162話 先祖の技





 前回のあらすじ

 夢か幻か、不思議空間か。

 リズの前に突如現れたリーゼロッテは、彼女を泣かして何をしに来たんだ状態だった。


 #####


「ところで、アナタが戦闘力強化にオーラではなく、魔力を選んだのは何故かしら?」


 リーゼロッテはリズに質問してきたので、リズは淡々と答える。


「それは……、リーゼロッテ様が魔力を鍛えていたと聞いていたからッス……。でも、別にリーゼロッテ様に憧れていたとか、そんなんじゃないッス。英雄になった人と同じモノを選択しておけば、自分も同じように強くなれると思っていたからッス!」


 リズは幼い頃から聞かされていた、先祖の英雄譚に紫音と同じで先祖に憧れて魔力を選択したが、父親に”先祖の名に恥じないようにしろ“と、何度も言われた事から最近では余り好きではなくなっていた。


 そして、ミーと会った時の彼女の記録していた言葉を聞いてから余り好きではなくなり、

 更に今回のことでもっと好きではなくなった。


「なるほど、つまり先祖である私に憧れていたというわけね。それでは、そんな可愛い事を言ってくれる子孫に、強くなるための一つの方法を教えてあげようかしら……」


「今は憧れてないッス! それにどうせまた、”アナタは、強くなれるか解らない”って、オチじゃないッスか?」


 リズの照れ隠しで嫌味を込めた言葉を放つが、彼女は平然とした顔で答える。


「それは、そうよ。私には強くなれる方法だとしても、アナタが強くなれるかどうかは解らないわ。ただ、覚えておいて損にはならないわよ」


 リーゼロッテはそう言うと、話を続けた。


「まあ、理由はともかく私と同じ魔力を扱うことを選択したのは、良い判断だったと思うわ。おかげでとっておきの裏技を教えることが出来るのだから」


「とっておきの裏技?」

「私が何故、弓使いにとって使いづらい魔力を選択したと思う?」

「それはアイギスシャルウルを、使うためではないッスか?」


 リズの答えに彼女は、少し呆れた顔でこう答えた。


「それは、私が魔力を使って戦っていたから、女神様がそれを活かした武器として与えてくれたのよ」


 ”それもそうか”と、思いリズは次の答えを述べる。


「では、魔法スクロールによる属性矢を、使うためではないからッスか?」


「それは魔力を選んだから、使って攻撃力を上げていただけで、私が魔力を選択した理由は他にあるの」


「それは一体何ッスか?」

「アナタは魔物がどう生まれるか習ったわよね?」


「大気中に漂う魔力が時間とともに集まって、魔石となってそれをコアに更に魔力を集めて……、魔素の体を生成してッスよね?」


「そう、つまり魔力は私達の周りに存在している」

「?」


 リズはまだ彼女の意図を理解できなかった。


「私が魔力を選択した理由は、その周りにある魔力を利用できるからよ」

「!? そんなこと可能ッスか?!」

「まあ、百聞は一見に如かずね、見ていなさい」


 そう言って、リーゼロッテは突然手に現れたゴッデスクロスボウファミリア(GCファミリア)2丁を、左右の手で掴むと魔力を込める。


 すると、GCファミリアの宝玉が光り魔法の矢が装填されるが、その矢はリズのモノより明らかに太く破壊力が高そうであった。


「魔力を込める時に、周りの魔力も取り込むようにすると、こうやって周囲の魔力を取り込んで強力な魔法の矢を作れるようになるの。まあ、コツを掴むまでは大変だけどね。やってみなさい」


 リーゼロッテが、リズにGCファミリアを渡すと彼女はさっそくやってみる。

 彼女は周囲の魔力を取り込むように意識しながら、GCファミリアに魔力を込めると装填された魔法の矢は、いつもより少しだけ太いような気がした。


「微妙ッスね……」


「初めてにしては上手くいったほうよ。私が初めてやったときは、もっと微妙だったわ。まあ、この女神武器の宝玉が、魔力を取り込みやすいというのもあるけれどもね。後は練習あるのみね、精進しなさい」


 リズが感想を述べると、リーゼロッテが一応褒めた後に今後の鍛錬を促す。


「わかったッス!」


 リズは素直に返事をすると、リーゼロッテにこのような事を聞く。


「この技をミリアちゃんにも、教えてあげてもいいっスか? きっと、魔法を使う時に役立つッス」


 リズの親友を思うこの言葉に、リーゼロッテはこう答える。


「ああ、彼女なら意識してか無意識かどうかはわからないけど、すでに使っているわよ」

「え!? そうなんッスか!?」


 そして、いつも冷静な彼女にしては、珍しく感情が籠もった口調で続けた。


「そうよ。そもそもあの子の先祖、ミア・ウルスクラフトも自然に使っていたわ。私が“こんな裏技があるから、使ってみれば?”って、教えてあげたら… あの子は、“えっ? リーゼ先輩。これって魔力を使う者なら、誰でも使えるものじゃなかったんですか?”って、さらっと言い返してきたわ……。私は苦労して会得したというのに……。だから、思わず頭を叩いてその後にギュって抱きしめてやろうかと思ったわ」


 リズの“何言っているの、この人”という目で見ているのを、同じジト目だから解るのかリーゼロッテはこう付け加える。


「勿論、思っただけで実行はしてないわよ?」


 彼女はリズがまだそのような目で見ているので、話題を変えるためこのような質問をしてくる。


「ところで私が弓兵であるのに、ミトゥルヴァと戦場を駆け回っていたのは何故か解るかしら?」


「周囲の魔力を取り込んでいるから、同じ場所でいると周囲の魔力が枯渇して、魔力を取り込めなくなるからッスか?」


「正解よ。流石は私の子孫、理解が早くて助かるわ。この技はアイギスシャルウルにも使えて、ミトゥルヴァに魔力を送る時に使うと、魔法の矢精製に使われる魔力に上乗せすることが出来て強化することが出来るわ。その為に周囲の魔力をかなり消費するみたいで、移動しないといけないの」


「なるほど、ミーと戦う時には気をつけるッス」


「そろそろ時間ね。今日から毎日自分のMPが枯渇するまで、この技の練習をしなさい。そうすれば、MPの総量も増えるし技の精度もあがって取り込み量も増えるわ。せいぜい精進しなさい」


「リーゼロッテ様、技を教えてくれてありがとうッス。この技を練習して、活躍してみせるッス!」


「がんばりなさい。自分の為に、そして仲間のために……」


 リズがリーゼロッテに礼を言うと、彼女はそう言って光になって消えてゆく。


「あっ、そうそうこの裏技を使えるのは、生まれ持っての才能みたいだから、他の者にむやみに教えても使えなくて反感を買うかもしれないから、あまり人には言わないことね」


 消えながらリーゼロッテは、またとんでもないことを言ってきた。


「じゃあ、もしかしたら私も使えなかった可能性が、あったってことッスか!? その時はどうするつもりだったスか?!」


 それを聞いたリズは消えゆくリーゼロッテに問いただす。


「だから、最初に言ったじゃない。アナタが強くなれるとは限らないって……」


 すると、彼女はジト目でリズを見つめたままそう言って、消えていった。


「最後まで、とんでもない人だったッス……」


 リズはそう言い放ったが、結果的には今後の自分の進む道を指し示してくれた先祖に感謝していた。

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