126話 暁に消ゆ





 前回のあらすじ


「アキ様、合流できそうにありません。自分は死に場所を見つけました」


 連戦で消耗していたアキのゴーレムはエルブルスに決死の体当たりを敢行して、スギハラへの攻撃を阻止するが体勢を整えたエルブルスに胴体を真っ二つにされてしまう。


 だが、アキのゴーレムは


「勝ったぞ!!」


 最後にそう言って崩れていった。


 ゴーレムの言うとおり、彼が稼いだ時間のおかげでエルブルスは、体勢を立て直したスギハラに反撃され、さらにレイチェルとタイロンの接近と攻撃を許すことになる。

 エルブルスはゴーレムの予告通り敗北することとなったのだ。


 ######


 トロール軍は残り副官ワスカランと残り10体近くとなった。

 アキは副官ワスカランに標的を絞ると、残り2体に攻撃命令を出し、自身は高級魔力回復薬を飲んでMP回復を図る。


 そして、彼女はここに来て新たなるゴーレムを召喚し始めた。


 アキの読み通り攻撃を命じたゴーレム達は善戦したが、連戦による消耗でワスカランに次ぐ次と敗れて破壊されてしまう。


 だが、2体のゴーレム達はアキの新たなるゴーレム召喚の時間稼ぎを見事に果たし、アキは二体に感謝しつつ、エメトロッドを掲げ魔力を込めて新たなるゴーレムをこう叫んで呼び出す。


「カムヒアー! タイタン3号!!」


 魔法陣から10メートルを超える巨大なゴーレム・タイタン3号が現れる。

 それを見たリズは目を輝かせこう言った。


「おおー、あのちょっと格好いいゴーレムが出てきたッス!」 

「アキ… 万子お姉さん、張り切っているね」


 ミリアもそう感想を述べる。


「それだけ今回の戦いに、負けたくないんでしょうね……」


 ソフィーはアキの心をそう読み取った。


「アキ… 万子君、ここに来て更に新しいゴーレムを出すのか。今回の彼女の戦いぶりは鬼気迫るものがあるな……」


 魔力回復薬を飲んでMPを回復していたユーウェインは、今回のアキの奮闘をそう評する。


(アキ……、無理してなければいいけど……)


 彼の横で同じくMPを回復していたエスリンは、アキを心配していた。


「世界のため、人類のため! トロールの野望を打ち砕くタイタン3号!! この太陽の飾りを怖れぬなら、かかってこいっ!!」


 アキはそう口上を叫ぶとタイタン3号に、ワスカランに攻撃命令をだしたあと、ゴーレム維持の為のMP回復を行なうため、本日11本目の魔力回復薬を何とか無理に飲み干す。


 アキのお腹はもう限界であった、それでも11本目を無理に飲めたのは恩人であるフィオナのためであった。


 フィオナは女神の頼みとはいえ、見ず知らずの自分を自宅に招き入れてくれて、優しく暖かく見守ってくれた大切な人だ。。


 世間を知らない15歳のアキには、そんなフィオナはとても頼れる存在で、彼女がこの世界で無事すごせたのもフィオナのお陰だったと確信している。


 少し頼りないところもあるが、アキにとっては敬愛でき大恩ある人物であり、そんな彼女の名誉がかかっている戦いで負ける訳にはいかないという強い気持ちが、彼女に11本目を飲ませたのであった。


 実際アキのこの信念がなければ、今回のトロールとの戦いはもっと厳しいものになっていたかもしれない。


 タイタン3号は、そんなアキの気持ちを受けてなのか激しく攻撃をおこなうが、ワスカランも副官だけあって自分より大きな相手に奮戦している。


「負けるわけにはいかない!」


 アキはエメトロッドを構え「女神の祝福を我に与え給え!」と、彼女は祈りを捧げてからエメトロッドに魔力を込める。すると、ロッドの先端に付いている宝玉が輝き始めた。


 エメトロッドの特殊能力により、能力がブーストしたタイタン3号はワスカランを次第に押し始める。


 アキはさらにエメトロッドに魔力を込めると、タイタン3号に命令を出す。


「太陽の力を借りて! 今、必殺の、サンシャイン・アタック!」


 アキの魔力を受けたタイタン3号の額の太陽を模した飾りから、“フラッシュ”の魔法が発動して眩しい光がワスカランに向かって放たれる。


「タイタンジャベリン!!」


 フラッシュの魔法で目眩ましを受けたワスカランが怯んだ隙に、タイタン3号はタイタンジャベリンを持った右手を後ろに体を大きく捻ると、勢いよく体を回転させ力強く右脚を踏み込むと同時にジャベリンを相手目掛けて勢いよく突き刺した。


 タイタンジャベリンは、ワスカランの心臓の辺りを鎧ごと貫いて大ダメージを与えた。


「グエェェェェ!!」


 タイタンジャベリンによって胸を貫かれたワスカランは、断末魔をあげて魔石に姿を変化させた。


 アキはワスカランを倒した余韻に浸るまもなく、タイタン3号に残りのトロールに攻撃命令を出す。


 暫く後、タイタン3号と防衛戦参加者の必死の戦いにより、残りのトロール達も殲滅する。

 トロールの殲滅を確認したアキは張り詰めたものが切れたのか、その場に膝をついて崩れ落ちる。


「うっ」


 そして口に手を抑え、四つん這いになったのちに


「ゲボゲボゲボゲボ」


 盛大にリバースさせた。


「アキ…万子お姉さんが、美少女漫画家とは思えないほどに盛大にリバースしているッス」


 その様子を見たリズがそう感想を述べた。


 それは仕方のないことだった……。

 アキは本日11本飲んでおり、それは彼女の胃袋の限界を越えていたのであった。

 ありがとう、アキちゃん。


「アキ…、大丈夫!?」


 エスリンが心配して駆け寄ってくる。


「なんとか……」


 アキがそう答えると、ユーウェインの勝利宣言が始まった。


「諸君、今回は我々人間の完全勝利だ! 共に勝利を分かち合おう!!」


 ユーウェインの完全勝利宣言に、戦いに参加していた者たちが一斉に勝鬨をあげる。

 だが、人類側も今までにない満身創痍であった。


 戦いが終わり夕陽に染まる戦場を見て


「私は… 嫌だ…」


 万子は独白する。


 そして、いつの間にか姿を消し、この戦いを最後に万子は表舞台に二度と姿を現さなくなった。別に深い意味はない、変装を辞めただけである。




 #######


 早朝、ファルの村の801御殿からカリナが出てきて、主の居ない屋敷に施錠する。

 カリナは始発のアルトン行きの定期馬車の停留所まで来て、馬車を待っていると朝雨が降ってくる。


 彼女は手に持っていた傘をさすと

「ワン、ツー、スリー♪~」と口ずさむ。


 しばらくして、停留所にやってきた定期馬車にカリナは乗り込むと、朝日が登ってきて辺りを照らし出す。


 801御殿の万子の私室の窓が光る。

 それは部屋の照明なのか、朝日が反射して光っているだけなのかはわからなかった……


“無敗岩人 タイタン3号”は、今回で最終回となります。


 次回からは新連載


 ”軌道闘士 ガンガス”が始まります。

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