95話 ある意味、死闘はまだ続く
晩御飯を終えた後、紫音はアキの部屋に向かった。
「どうしたの、紫音ちゃん?」
部屋の中に入った紫音は、アキに昼間にエスリンから聞いた話しを彼女にする。
「そう……、エスリンさんがそんな事を……。ちゃんと正直に名乗って、再会を喜んでおけばよかったなぁ……」
アキは後悔した顔でそう呟く。
「アキちゃん……」
紫音はどう声を掛けていいか解らなかったが、今度はユーウェインの話を続けることにした。
「ユーウェインさんが、できれば次の戦いも参加して欲しいって、言っていたんだけど……」
彼女は、少し沈黙した後こう答える。
「そうだね、エスリンさんともちゃんとお話をしたいし、戦うかどうかは分からないけど次も要塞には行くよ」
紫音は少しアキと雑談し、その後に彼女の部屋を出て自室に戻って就寝した。
次の日、アキが食堂に来ると紫音とリズの姿が見えなかったので、心配そうにしているエレナに尋ねる。
「あれ? 紫音ちゃんとリズちゃんは?」
「それが、まだ起きてこないんです。リズちゃんはともかく、シオンさんが寝坊するなんてどうしたんでしょうか?」
アキ達が心配していると、紫音が壁に手を付きながら食堂に入ってきた。
「みんな……、おはよう……」
「シオンさん、どうしたんですか!?」
心配そうに声を掛けてくるエレナに、紫音は苦しそうにこう答える。
「それが……、全身筋肉痛で……。たぶん昨日の女神武器の特殊能力によって、身体強化された反動だと思う……。自分の限界以上の体の動かし方をしたから、筋肉に負担が掛かって悲鳴をあげているんだと思う……」
「じゃあ、リズちゃんも?」
「たぶん、そうじゃないかな……」
心配になったエレナとミリアがリズの部屋に行くと、紫音の予測どおり彼女はベッドの上で筋肉痛に悲鳴をあげて悶えていた。
「ハンニャー仮面のお姉さんの罠に、まんまと嵌められたッス……」
リズはリスクを提示しなかったハンニャー仮面の不備を攻める。
なお、ミリアは身体能力強化されていないため平気なようだ。
その日、紫音は筋肉痛の為に何も出来なかった……
その夜、紫音が筋肉痛のためベッドで動かずに時間を過ごしていると、アキが部屋に尋ねてくる。
「どうしたの、アキちゃん?」
「いや~、実は今日一日時間が空いたから、新作シリーズのネームを描いていてね~。もう、アイデアが溢れ出てきて、2話分も描いちゃったよ~」
「そうなんだ……。それで、どうして私の部屋に?」
「それは、今回の新作シリーズの主人公が紫音ちゃんをTS化したクオンシリーズだからだよ!」
「本当に描いたの!? クオン総受け(?)シリーズ!」
紫音には総受けの意味が解らなかったが、どうせ碌でもない意味だと思って抗議する。
「辞めてよ、アキちゃん! 私を使ってそういう漫画を描くのは……」
紫音の反対にこのように抗論するアキ。
「紫音ちゃん……。紫音ちゃんは私に今回の件で借りがあるよね?」
「そっ、それは……」
「私は紫音ちゃんを要塞に送り届けるために、馬車の荷台と鉄製飛行型ゴーレムを台無しにしたよね……」
「はうぅ……」
「それなのに、紫音ちゃんは私のお願いが聞けないんだ……」
「えぅ……」
アキは紫音の反対する気持ちが、弱気になってきたところを畳み掛けるように、それらしいことを言って幼馴染を納得させにくる。
「まあ、それならそれでいいよ。そのかわりに紫音ちゃんには、その2つを弁償して貰おうかな……。併せてそうだね……、幼馴染価格で100万ミース(100万円)程にしておくね。さあ、紫音はん、耳揃えて払って貰いましょかぁ!?」
アキは最後、有名闇金みたいな感じで催促してきた。
「そんなお金ないよ、アキちゃん……」
「そんなもん、ワシには関係あらへんねん! 払われへんのやったら体で払ってもらうことになるでぇ!」
「鬼や! アキはん、アンタ鬼や!」
などと∨シネテイストの会話が暫く続いた後、紫音は渋々自分をモデルにしたBLを許可した。
承諾して気落ちしている紫音に、アキはこのような滅茶苦茶な意見をぶつけてくる。
「紫音ちゃん、恥ずかしいのは紫音ちゃんだけじゃないんだよ! 私だってTSして出ているんだから、恥ずかしいのは一緒だよ!」
(じゃあ、描かなければいいじゃない!)
紫音がそう反論しようとした時、アキはそれを察して先制して、彼女が安心できるようにこのように説明してきた。
「それに大丈夫だよ、紫音ちゃん。性転換されているし、名前も変えているから誰も気づかないよ」
「本当に?」
「じゃあ、試してみる?」
アキはエレナを部屋に連れてきて、ネームを読んで感想を聞くということにして、クオンのモデルが紫音だと気付くかどうかを試すことにする。
「いいんですか!? 先生の新作のネームを読んでも……」
「これは新シリーズで、手応えがどんなものか、エレナさんの感想を聞いて確かめたいの」
「先生の新作のネームが読める……。でも、逆を言えば新作が出た時の感動も減ってしまう……。でも、読みたい! 私は一体どうしたら……」
エレナが葛藤していると、アキが彼女にこう言った。
「これは、プロローグのネームだから感動は第一話からってことで。お礼に新刊ができたらサインしてプレゼントするから」
「読みます! 勿論プレゼントで頂いても新刊が出たら買います!」
「あっ、ありがとうエレナさん……」
興奮気味に答えたエレナに、アキは気押され気味にお礼を言った。
エレナはさっそくネームを読み始める。
そして、読み終えると興奮しながら、いつもの彼女らしからぬ早口且つ饒舌に語り始めた。
「先生……! いつもどおりすごく素晴らしい、胸がキュンキュンするお話でした! 特にクオンが女性先輩に身長が低いのを理由に振られて傷ついて、それを幼馴染のアキトが慰めるシーン!
”身長が低いくらいで、お前を振るような女なんか忘れちまえ。”
”でも……“
“それにしても馬鹿な女だぜ、お前の中身を見ずに外見でしか判断しないなんて。俺ならお前の中身まで愛してやるっていうのに……”
“アキト……、それって……”
“そんな女、俺が忘れさせてやるよ”
そう言って、アキトはクオンのシャツのボタンを外しながら顎を……」
「いやぁーーーーー!!」
そのエレナの感想を聞いていた、紫音が両耳を押さえて耳まで真っ赤にして突然絶叫する。
「シオンさん、突然どうしたんですか?」
紫音の突然の絶叫にエレナが驚く。
(TSしているとは言え、BL脚色された自分の本当の過去のエピソードを聞かされて、流石に恥ずかしくなって頭が混乱したみたいね……)
アキは親友の事情を察する。
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