83話 時は迫る
前回までのあらすじ
リザード侵攻をすっかり忘れていた紫音は、馬車で急いで要塞に向かうもアキのドラテク失敗で振り出しに戻ってしまう、どうする紫音!
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紫音がアキと馬車で不運とダンスしていた頃―
リザード軍侵攻を数時間後に控えたフラム要塞は、前回より多くの冒険者が集まっていた。
「これだけ集まるとは……、皆まだこの国を守ろうという気持ちを忘れていなかったということか」
ユーウェインは、前回より集まった冒険者の数を見て少し安堵する。
彼は最悪の場合、前回の人数で戦わねばならないと思っていたからであった。
「これだけいれば、俺達は四天王や副官に専念できるな」
スギハラは親友に、そう声をかけながら近づいてくる。
「今回、シオン君が来られないかもと聞いたが、本当なのか?」
「ああ、何でも4日前に人に会いに行くと言って出て行ったきり、戻らないらしい」
「すみません、私が余計なことをシオンに言ってしまったばかりに……」
申し訳無さそうに二人に謝罪するクリス。
今までの紫音の行動を見ていれば、容易にこの事態は想定できたので、しっかり者のソフィーを同行させておけばと後悔している。
「まあ、今更言っても仕方がないさ。今回は最初からレイチェルも来ているし、冒険者の数も多い。油断しなければ、たとえ相手が四天王二人でも負けはしないさ」
「そうだな、数日にはトロールも控えているんだ。今回はできるだけ、楽に勝ちたいところだな」
そう言った二人ではあったが、歴戦の勘からかどうか解らないが、何か嫌な予感を感じている。
だが、口に出すのもどうかと思って、胸の内に秘めておくことにした。
「ところで今回気合入っているな、カムラード。オマエの二刀流久しぶりに見たな」
ユーウェインは腰の左にグラムリディル、右の腰にオリハルコンの剣を装備している。
彼は元々二刀流で片方の剣で攻撃を捌きながら、もう一方の剣で魔法剣を溜めて放つスタイルであった。
だが、強敵の攻撃を剣で捌くのは集中力が必要で、そのため魔法剣の溜めが御座なりになってしまう。
そこで、盾を持つことで防御への意識の負担を減らすことにしたのである。
「今回はチャンスが有れば、二刀流で攻撃力を上げて四天王のどちらかを倒すつもりだ」
(シオン君がいれば、上手くすれば二体倒せてリザードの戦力を大幅に削ることができ、今度はこちらから奴らの拠点にと思っていたのだが……)
そう残念に思うユーウェインであった。
その頃、リズ達は紫音の到着を先に要塞に来て待っていたが、一向に現れない事に不安を覚え始める。
「来ないッスね、シオンさん」
「ホ―」
「きっと来ますよ。信じましょう、シオンさんを」
エレナがみんなにそして、自分に言い聞かせるように言った。
それを聞いたミリアも頷く。
「まだ来ていないの? シオン・アマカワ」
ソフィーが、アフラと一緒にやってきた。
「今回も一緒に戦うよ!」
アフラは、回復した右腕でシャドウしながらそう口にする。
そんな話をしていると、リズを呼ぶ声が聞こえてきた。
「リズ、来たら私に連絡しなさいって言ったはずよ」
リディアがそう言いながら妹の元にやってきた。
「話は聞いているわ。その頭に乗っているのが、アイギスシャルウルね」
「厳密に言えば、アイギスシャルウルを制御する“ミトゥルヴァ“ッス」
「ホ――」
「この子が“ミトゥルヴァ“……」
(肖像画と合っているのは、白い色だけね……)
リディアはそう思いながら、リズに質問を続ける。
「アイギスシャルウル、頼りにしていいのかしら?」
「魔力が尽きるまでは、頼ってくれていいッス」
リズは姉の期待に、一応予防線を張っておくことにした。
その頃―
「私は一体どうしたらいいの!?」
紫音達は801御殿に戻ってきており、文字どおり頭を抱えて悩んでいた。
「しょうがない、まだ試作機だけどアレを使うしか無いね」
アキはそう言うと、紫音を御殿の裏にある納屋に連れて行く。
そこには全長10mぐらいの布で覆われたモノが置かれていた。
「これを見て紫音ちゃん! これが我らの救世主!」
アキはそう言って、布を取り外すとそこには台車に乗った全長10.00mぐらいの飛行機と思われるモノが姿を現す。
「アキちゃん。これって、飛行機?」
「飛行機を元に私が造ったの。まあ、厳密に言えば試作飛行型アイアンゴーレムだけどね」
「飛行型ゴーレムって、仮面の女魔戦士が使っていた、ステュムパリデスみたいなもの?」
「う~ん、私はそのステュム何とかは、実際見てないからわからないけど多分同じかな」
アキはそう言うと、紫音に耳栓とゴーグル、パラシュートを渡す。
「え!? これ何?」
「何って耳栓とゴーグルとパラシュートだけど」
アキは「何って言われても…」みたいな顔でそう答える。
「いや、それは解っているよ。何故必要なのか聞きたいの…」
(まあ、安全の為には必要だよね……)
紫音はアキにそう尋ねてみたが、嫌な予感しかしないために、安全の為だと思うことにして、精神衛生を守ることにした。
だが、アキはそんな紫音の気持ちを知ってか知らずか、聞かれた質問の答えを話し出す。
「風防ガラスを付ける技術は今の私にはないから、そのためのゴーグルで耳栓は多分音がうるさいと思うから。あとパラシュートは空中分解した時の脱出の― 」
「イヤー! それ以上は聞きたくない!!」
紫音はアキの告げた無慈悲な現実から逃避した。
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