68話 トロールを減らせ任務







 紫音とソフィーを、ミレーヌの屋敷に送り届けたクリスとノエミがクランに戻ってくると、内部では団員達が慌ただしく出発の準備をしていた。


 クリスは、出撃準備の指示をカシードと共に行っているスギハラに理由を尋ねる。


「副団長、トロールとリザードの旗が今日15本になった。俺達はトロールの数を減らす任務を受けた。二人には帰ってそうそう悪いが、至急出撃の準備をしてくれ」


「アレ? ソフィーちゃんは、どうしたんですか?」


 カシードが、ソフィーのいないことに気づき質問した。

 クリスはミレーヌに依頼されたことを、スギハラ達に報告した後に冷静に戦力分析をする。


「まあ、あの子がいなくても大丈夫でしょう」


「クシュン!」


 くしゃみをするという。ベタなリアクションをするソフィー。


「ソフィーちゃん、風邪?」


 練習相手のくしゃみに紫音が心配すると、彼女はお花畑全開な返事を口にする。


「これは、きっとお姉様が私の噂をしているに違いないわ!」

「今時また、ベタな発言ッスね……」


 リズが、ジト目で辛辣なツッコミを入れた。


「誰がベタな発― 」

 ソフィーは、いつものようにリズに言い返そうとしたが躊躇する。


 何故ならリズの周りには、展開されたゴッデスクロスボウファミリア六丁(GCファミリア)が浮いていて、自分を狙っているように見えたからであった。


 勿論、そんなことはないのだが……


(これが、この子のご先祖リーゼロッテ様が残した”アイギスシャルウル“…。説明には聞いていたけど、本当にあの可愛い梟ちゃんと一緒に宙に浮くのね……)


 ソフィーは”アイギスシャルウル“が、浮いていることに疑問を感じながら、羨ましくも思う。


(もう何でもありだな、フェミニース様…。あっ、これはミトゥース様が造ったモノか。どっちにしても、この武器は明らかにこの世界の世界観と合ってないよね…)


 紫音は女神達のこの世界のガバガバ設定に疑問を抱く。


(たぶん、アレぐらいの世界観を無視した武器を生み出さないと、人間には魔王は倒せないってことなんだ……。だったら、魔王システムを辞めればいいのに……)


 そして、女神達の慈悲深さをそう推考したものの、結局疑問に思う紫音であった。


「ミー、GCファミリア攻撃ッス!」

「ホ――」


 リズは、ここ最近の日課の空への射撃を数回行う。


「MPが空になってきたッス。脳の思考も鈍ってきたッス。フフフ……、でもコレでMP最大値アップッス……、フフフ……」


「大丈夫、リズちゃん?!」


 リズが虚ろの目で、そう呟いているのを見て紫音が心配する。


「大丈夫ッス、シオンさん……。MPハイってやつッス、フフフ……」


「傍から見ていると、全然大丈夫に見えないわよ!」


 ソフィーもいつもは小憎たらしいリズのこの状態に、流石に心配になって休憩させることにした。リズは二人に促されて休憩しながら、エレナの実家から送られてきた魔法回復薬を飲む。


「みなさんも遠慮なく薬をどうぞ」


 エレナが薬の入った箱を持ってきた。


「エレナさんのおかげで、しばらくは薬代の心配はしなくてすみますね」

「お役に立てて、実家の両親も喜んでいると思います」


 エレナが嬉しそうにそう語る。


 それから、二日後

 クラン“月影”は、トロールの拠点近くにキャンプを張っていた。


 キャンプ設営が終わると、さっそくトロールの数を減らす戦いを始める。

 トロールは巨漢の種族であり、この世界では一番大きくオーガよりもさらに屈強で頑丈であった。


 ただし、巨体故に力はあるがスピードが遅いのが救いである。


 ノエミができるだけ少単位でいるトロールを見つけると、一体に狙いをつけヘッドショットを決め、そして、素早く味方のもとまで走っていく。


 すると、その後ろを数体のトロールが追いかけてくる。

 それを待ち構えていた複数の盾役が、それぞれ誘引灯を使い分散してターゲットを受け持つ。


 とは言え、流石の重装装備の盾役もトロールの攻撃をまともには受けられない。

 そのため何とか回避をおこない、できるだけ力を受け流すようにして攻撃を捌く。


 そして、その間に攻撃役が死角から攻撃を仕掛け、倒すのが基本的な戦闘方法である。


 ただ一人例外がいる、元王国騎士の双剣そして総合スキルSのスギハラだけは、単独でトロールと対峙した。


「そんな大振り当たるかよ!」


 スギハラはトロールの攻撃を難なく交わし、その巨躯に剣技を打ち込んでいく。


「鳥嘴!」


 鳥嘴は鳥が嘴で突くイメージから名付けられた突き技で、オーラを宿した【女神武器・司一文字】で、高速の三段突きを打ち込む。


 スギハラの【司一文字】は紫音の天道無私をさらに長くした、太刀に分類されるモノで、デザインも同じ様に鍔と刀身の接地部分に宝玉がはめ込まれている。


 なお、重さは男のスギハラが使うため軽くはされていない。


「当たらなければ、どうということは……」

 スギハラは攻撃を回避しトロールを翻弄しながら、

 ダメージを与えていく。


 トロールの攻撃をバックステップで躱して一度距離を取った瞬間、トロールの足元に魔法陣が現れ、強力な水流の嵐がトロールを飲み込む。


「ウォーターストーム!」


 それはクリスの放った水属性の上級魔法ウォーターストームであった。

 トロールはスギハラから受けていたダメージに、弱点の水属性を受けて呆気無く魔石へと姿を変える。


「副団長か?!」


 スギハラの質問にクリスは冷静に答えた。


「一人で何とかなるかも知れませんが、連携したほうがもっと効率的に倒せます」

「せっかく俺が普段見せられない、団長らしい姿を団員達に見せようと思ったのに」


「大丈夫ですよ。皆、アナタが団長であることを誇りに思っていますよ」


 スギハラの言葉にクリスはそう答えた。


 次の日、月影がトロールと戦っているのをグリフォンに乗って、上空から見ている者がいた。

 魔王軍幹部、仮面の黒い女魔戦士ことクナーベン・リーベである。


「トロールの勢力が削られているって報告があって来てみたけど、あのクラン結構やるわね。アレが噂の”月影”かしら? ということはあの二人が人類側の最大戦力の一角、カズマ・スギハラとクリスティーナ=スウィンフォードね。ステュムパリデスの補充が済んでいない今の私ではちょっと厳しいかしらねぇ……」


 魔王軍とは言え、貴重金属であるオリハルコンなどの入手にはそれなりの時間がかかり、女神達のように好き放題出来るわけではない。


「まあ、新型ゴーレムを試すだけでいいか……」


 リーベは、月影が戦っている後方に距離をとって降り立つと、いつものように高レベルのロックゴーレムを造り出す。


「さあ、行け! ロックゴーレム!」


 リーベはロックゴーレムに指示を出すと、薙刀の宝玉が赤く輝く。


「トロール達、アナタ達も攻撃開始よ!」


 リーベはトロールに指示を出すため、薙刀を高く掲げるが手応えがない。

 薙刀の宝玉は赤く輝いているが、トロールの拠点からはうんともすんとも反応がない。


「流石に拠点から離れすぎたかしら……、見つからないように少しずつ近づきながら……」


 リーベは薙刀を高く掲げながら少しずつ前進する。

 その様子は、さながら携帯電話の電波を探す様子に見えた。

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