61話 ぬいぐるみはかわいい







【女神武器】を求めて二手に分かれた紫音達は、それぞれ目的地行きの馬車の停留所を目指して街を歩いていた。


 リズ、ミリア、エレナ、アフラの班が街の中を歩いていると、リズが玩具店のショーウィンドーに張り付く。


「これは、マウンテンリバー氏作のドラゴンのフィギュアじゃないッスか! 角やら牙が格好いいッス!」


 リズが目を輝かせて見ているフィギュアを造ったのは、最近人気の造型師で迫力のあるフィギュアから、萌えフィギュアまで造ることができる謎の造型師であった。


 その横に飾っているぬいぐるみを、目を輝かせて見ているミリア。


「二人とも寄り道している暇はないですよ!」


 エレナが引率の先生のような感じで、二人を注意する。

 四人はリズの実家のある地域行きの馬車に乗り込む。


 馬車を乗り継ぐこと二日、ようやく彼女の実家のある町に辿り着く。

 町の外れにある大きな屋敷がこの辺りの領主である、彼女の実家エドストレーム家の屋敷である。


 一同が屋敷に着いた時、陽は既に落ちかけており空は赤く染まりかけていた。

 リズは屋敷に入ると、屋敷内に向かって帰省した事を告げるために大声を出す。


「リズッス、今帰ったッス!」


 すると、部屋からリズの両親が出てきた。


「あら、リズおかえりなさい。元気にしていた?」


 母親がリズにハグをしながら言葉をかける。


「リズ元気にしていたか?」


 その横で父親が、威厳のある感じで話す。


「お父さん、帰ってきていたッスか?」

「たまたま休暇でな。」


(まずいッス。お父さんが居るなら、勝手に拝借という訳にはいかなくなったッス……)


 ジト目で父親を見ながら、リズは心の中で家宝をどう拝借― 持ち出すか思案することにした。


「はい、元気にしていたッス。今日は仲間も一緒に来たくれたッス。」


 リズに紹介されみんなが挨拶すると、彼女はさっそく本題に入る。


「お父さん、私が帰ってきたのはリーゼロッテ様が使っていた、アイギスシャルウルを使いたいからッス!」


 リズの父は、考え込んだ後にこう答えた。


「リズ……、実はアイギスシャルウルは、壊れているのかもう機能していないのだ」


「え!? それってどういうことッス?!」


 リズはすぐさま聞き返すが、父親は答えずに夕食を勧めてくる。


「今日はもう遅いその事は明日話そう。取り敢えず皆さんを空いている部屋にお通しして、その後夕食としよう」


「ごはんー!」


 リズの”夕食”という父親の答えに、アフラが即反応したので、問答は中断される形になった。その夜、リズの部屋にミリアが尋ねてくる。


「リズちゃん……、一緒に寝ていい?」


 どうやら、慣れない場所に一人で眠ることが不安で、心細くなってしまったらしい。


「もちろん、いいッス」


 リズはそんなミリアの気持ちを察して、快く部屋に招き入れた。

 彼女の部屋に入ると、棚にはドラゴンや鎧の騎士などのフィギュアが飾ってある。


「ミリアちゃん、どうッス? このドラゴン格好いいと思わないッスか?」


 リズがミリアに目を輝かせながら、ドラゴンのフィギュアを見せてきた。


「そうだね……」


 ミリアは困りながら相槌を打っていると、部屋の隅にぬいぐるみが置いてあるのに気づきそちらに近づく。

 ミリアがぬいぐるみを嬉しそうに見ていると、玉子に羽と嘴がついたような可愛らしい少し大きめの梟のぬいぐるみを見つける。


「ミリアちゃん、そのぬいぐるみ気に入ったッスか?」


 彼女がその梟のぬいぐるみを、目を輝かせて見ているとリズのその問いかけに、ミリアは遠慮がちに頷いた。


「私はもうぬいぐるみは卒業したので、ミリアちゃんにあげるッス。今の私はこういう格好いいフィギュアのほうが好きッス。そのぬいぐるみは小さい時に、倉庫に放置されていたのを持ってきたッス」


「そんな物貰っていいの?」

「大丈夫ッスよ。私が見つけた時も、倉庫の片隅で埃を被っていたぐらいッス」


 次の日、朝食を食べ終わった後リズの父親が、娘の昨日の質問に答える。


「アイギスシャルウルは、伝えられている話では複数の矢を同時に発射できるとなっているが、宝物庫に保管されているそれはとてもその様な事はできないのだ」


「私は強くなるために来たッス! お父さん、とにかく実物を見せて欲しいッス!」


 リズの父親は娘が珍しく食い下がってくるのに、余程強くなりたいのだと思いその気概についに名門出身の自覚が芽生えたのだと思って、宝物庫に連れて行くことにした。


「ミリアちゃん。そのぬいぐるみ、よっぽど気に入ったんッスか?」


 ミリアはよほど気に入ったのか、ぬいぐるみを抱いたまま付いてきており、昨晩も抱いたまま眠りについていたほどだ。


「うん……」


 リズの質問にミリアは嬉しそうに答えた。


「そのぬいぐるみは……」


 リズの父親がミリアの抱えている、梟のぬいぐるみに気づく。


「ミリアちゃんにあげては駄目だったッスか?」


「我が家は武門の家柄。そのようなファンシーなものは、似合わないから倉庫に放り込んでおいたのだ。だから、構わんよ」


 その様なやり取りをしながら、宝物庫まで歩いていると廊下に飾っている女性の肖像画にエレナは眼を惹きつけられた。


「この方、少しリズちゃんに似ていますね」


 肖像画に描かれているのは、ジト目と長い銀の髪の素敵な大人の女性で、その肩には利口そうな精悍な姿の白い梟がとまっている。


「これはリーゼロッテ様の肖像画ッス。リーゼロッテ様は、この肩にとまっている白い梟“ミトゥルヴァ”を引き連れて、戦場を駆け回ったそうッス」


 エレナは白い梟を見て、ミリアの持っているぬいぐるみの梟を見比べて、このような事を口にした。


「それはないッス。色だって白くないし、何より形が玉子ッスよ? “ミトゥルヴァ”とは似ても似つかないッス」


 リズはすぐさま否定する。

 そして、ミリアはこっちのほうが可愛いとばかりに、玉子のぬいぐるみを抱き直していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る