57話 天空よりの・・・







 高い所に立っている般若仮面は、紫音の近くに降りると周りを旋回しているステュムパリデスを見てとても恐ろしい事を言って、黒い女魔戦士に対して忠告する。


「いい鳥型ゴーレムね、金属製でピカピカ輝いて。でも、この自慢のゴーレムが見られないように叩き壊してあげるわ……アナタの顔面の方をね……。 それが嫌なら、大人しく帰りなさい!」


 黒い女魔戦士は、般若仮面の言葉を無視してステュムパリデスに命令を出す。


「やれ、ステュムパリデス!」


 ステュムパリデスが一斉に般若仮面を襲う! だが、その時!

 般若仮面と紫音の姿が一瞬にして消え、いつの間にかロックゴーレムを通り越し後衛にいたエレナとミリアの側にいつの間にか現れていた。


 しかも、ステュムパリデス五体が破壊され、さらに紫音の肩の傷もすっかり回復している。


「!?」


 その場にいた者全てが、一体何が起きたか解らなかった……

 そして、般若仮面は紫音の方に刺さっていたステュムパリデスを手に持ちながら、また物騒なことを口にする。


「よく見たらやれやれ趣味の悪いデザインのゴーレムね、あちこち鋭利で可愛くないわ……。でも、そんなことはもう気にする必要はないわ……。もっと趣味が悪くなるのだから……、アナタの顔面の形の方が……」


 そして、そう言った後にオリハルコン製のゴーレムを握りつぶす。


「後は私に任せて、貴方達は下がりなさい」


 般若仮面はソフィー達にそう言いながら、ロックゴーレムの方に歩き出し始める。

 その天界よりの使者と入れ違いで、紫音達の元に駆け寄ってきたソフィー達は、紫音の安否確認と何が起きたのかの説明を求めてきた。


 それに対する紫音の答えは……


「私は今あの人の力を、ほんのちょっぴりだけど体験した……。

 い、いや……体験したというよりは まったく理解を超えていたのだけど……


 あ……ありのまま、今起きた事を話すね! “気付いたらここにいて、傷も治っていた”

 何を言っているのか、わからないとは思うけど、私も何をされたのかわからなかった……


 催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなものでは断じてない……」


 そして紫音は安心した表情でこう続ける。


「ただ、言えるのはもう安心してもいいってことかな」


 その説明を受けた一同はあまり理解できなかった。

 だが、唯一理解できたことはロックゴーレムと対峙している、般若仮面の背中から感じる絶対的な頼もしさである。


 その頼もしさは、沈黙シリーズのセ○―ルのようであった!


「やれ、ロックゴーレム!」


 黒い女魔戦士は焦りながら、ロックゴーレムに攻撃命令を出す。

 ロックゴーレムが腕をおおきく振りかぶり、そのまま勢いよく強力な右ストレートパンチを繰り出した。


「フェミブリット・バースト!」


 般若仮面はそう叫ぶと、ロックゴーレムのストレートパンチに光輝くパンチをぶつける!拳のぶつかり合った轟音の後に、ロックゴーレムは光輝くパンチを受けた右腕から崩壊していく。


 ロックゴーレムが完全に崩れ去った時、黒い女魔戦士はすでにグリフォンに乗って逃げ去っていた。


「ありがとうございました。フェミ― 般若仮面様!」


 紫音はピンチを救ってくれた、般若仮面にお礼を口にする。


「ハンニャー仮面、あの黒い人を逃していいッスか?」


 リズがそう尋ねると般若仮面はこう答えた。


「まあ、いいでしょう。これで、暫くは大人しくしているでしょう」


 般若仮面は、スーツのジャケットについているポケットから、先端に宝玉のついた棒を取り出すと一同にこう促す。


「みなさん、この宝玉を注目してください」


 一同が指示どおり宝玉を見ると眩しい光が放たれ、紫音以外みんな眼が虚ろになった状態で立っている。


「みんなに何をしたのですか?」


 みんなの事を心配した紫音の問いに、フェミニースは般若の仮面を取りながら答えた。


「心配有りません、みんなの私に関する記憶を消したのです。私の事はこの世界の人間は知っていては困るのです。暫くすれば正気に戻ります」


「それなら、よかった」


「今回の事はイレギュラーなのです。本来あってはならないことなので私が来たのです。ですから紫音、次に危機的状況に陥っても私は助けに来ないので、そのつもりでこれからは何事にも万全の体勢で望みなさい」


「わかりました」


 紫音はフェミニースからの訓誡を真摯に受け止める。


 フェミニースはミリアに意識があることに気づく。

 ミリアは般若の面が怖くて、帽子を深く被って見えなくしていたので、記憶を消されずに済んでいた。


「あら、アナタ意識がるのね。宝玉の光を見なかったのかしら?


 ミリアはすぐさま紫音の後ろに隠れると、恐る恐るフェミニースに答える。


「ごめんなさい…… ハンニャーのお面が…… 怖かったので…… 見ていませんでした……」


「フェミニース様、ミリアちゃんはとってもいい子です。ワザとではないです、許してあげてください!」


「そうね……。ミリア、今回の事を誰にも言わないって約束できるかしら?」


 ミリアは「はい」と言って、紫音の後ろでコクッと頷く。


「いいでしょう、アナタはいい子だから信じましょう」


 フェミニースはミリアに近づくと、優しく頭を撫でながら


「ミリア、これからも紫音の力になってあげてね」


 優しい笑顔でそう言った。


「はい」


 ミリアはフェミニースが、とても優しい人だと気付いて嬉しそうにそう答えた。


「リズ、アナタもね!」

「ヤバイ、バレてたッス……」


 リズは慌ててミリアと一緒に、紫音の後ろに隠れると


「助けてもらったとは言え、あっさり敵を逃したハンニャー仮面は信用できないッス! だから見なかッス!」


「リズ、アナタは冷静だけど少し捻くれているところは、リーゼロッテそっくりですね」

「ご先祖様を知っているんスか?」


 リーゼロッテは、200年前に天音達と魔王を倒したリズのご先祖であった。


「ええ、まあ、少しだけですけどね……」


 フェミニースは余計なことを言ってしまったと思った。


「リズちゃん、ハンニャー仮面様は信頼できる人だから大丈夫だよ」

「リズちゃん……、私もそう思うよ」


 ミリアにも言われたリズは少し警戒心を解く。


「ちなみに誰かに喋ってしまうと、どうなるッス?」

「さっきのゴーレムみたいになるかもしれませんね……」


 それを聞いたリズは、少し上目遣いで瞳を潤ませて、最高にあざと可愛い表情と声と仕草でこう返事した。


「リズ、誰にも言わないよ……、ハンニャー仮面のお姉さん……」


(また、あのあざと可愛いのが出た! でも、ミレーヌ様に通じなかった技が、フェミニース様に通用するのかな?)


 紫音はそう思いながら、この状況をそのあざと可愛さに胸をキュンキュンさせながら、固唾を呑んで見守った。


「そうですか、リズはいい子ですね」


 フェミニースは笑顔でリズの頭を優しく撫でた。


(通じた!! フェミニース様、存外チョロい!)


 それから、フェミニースはリズに顔を近づけてそう言ったフェミニースの眼は、金色に輝いてる。


「リズ、私との約束ですよ。誰にも言ってはいけませんよ……」

「はい……、誰にも……言わないッス。喋ったらカードゲームを、全て燃やしてもいいッス」


 それを見たリズは、洗脳されたような眼で誓いを立てる。

 フェミニースは念の為に例の洗脳?技で、口止めをした……


(あっ、やっぱり通じなかった……。でも、紫音お姉さんにはバッチリ効果があったよ!)


 紫音はこの光景は見ては行けないものだと直感で感じ、横目で見ながらそう思うのだった。


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