24話  激闘!スライム戦







 紫音がフェミニース式説得で、ミリアを奮い立たせると作戦を立てる。


「ミリアちゃん。魔法の射程距離ギリギリまで下って、魔法詠唱をはじめて。後は発動まで私が何とか抑えるから!」


 ミリアは頷くと、後方に駆けていき魔法詠唱を始めた。

 すると、スライム達はミリアに反応し彼女に向かって動き始める。

 紫音が刀で攻撃しようとすると、リズからこう言われた。


「お姉さん、武器は使わないほうがいいッス。スライムは酸性なので武器が錆びて後の戦闘に支障をきたすかも知れないッス! とは言えこのスライムは試験の為に用意されたレベルの低いスライムなんで、それほど強力な酸性ではないと思うッス」


 紫音はリズにスライムの酸の強さを質問する。


「どれくらいかな?」

「まあ、せいぜい服が溶けるぐらいじゃないッスかね?」

「それはそれで困る!」


 紫音はそのリズの意見を聞くと、刀を鞘に戻し左手の篭手を外すと篭手をブンブンと振ってスライムに当ててみるが、全く手応えがない。


(さて、どうしよう……。そうだ、オーラを武器に宿すのは難しけど、この掌に集めるのはさほど難しいことでは無いのではないかも? 自分の体にあるモノを手に集めるだけなんだから…)


 紫音はそう思考するとさっそく集中して、両手の掌にオーラを集めるイメージをする。

 リズが低レベルスライムで、服が溶けるぐらいと言わなければピンチと感じて、【女神の秘眼】が発動していたかも知れない。


 だが、今の紫音は最悪でも服が溶かされてR-18と考えてしまって、危機感のレベルが下っているため発動しなかった。


 紫音がオーラを集めるイメージをすると、両手に薄っすらとオーラが宿る。


「できた!」


 紫音はすぐさまその手でスライムの進みを遅らせるために、オーラを纏った両手でスライムを押すことにした。


 スライムを押すために両手を当てると、流動するスライムの体に手が沈むこと無くスライムを押し止めることができたが、信じられないことに二体目のスライムが、一体目のスライムを後ろから押し始める。


「え? え? こんな知能を持ってなさそうなのが、こんな連携プレーを!?」


 紫音はスライム二体分の馬力に、力負けして押され始めた。

 さらに手を当てている所から、腕を這うようにスライムの体が紫音の腕をつたって、オーラをまとっていない覆われた部分から服が少しずつ溶け始めてくる。


(これはまずい! いろいろな意味でまずい! ミリアちゃん早くして! そうでないとお姉さん…… R-18になっちゃうから!!)


 ミリアの魔法詠唱完了を今か今かと待ちながら、紫音はスライムを必死に押さえているが、力負けして押され続けている。あと服の袖も溶け続けている…


「お姉さん! スライムから離れるッス!」


 リズの声が聞こえた瞬間、スライム達の下に魔法陣が現れた。

 紫音は素早くスライムから腕を抜いて、後ろに逃げるとミリアが自分なりに大きな声で、魔法名を叫ぶ。


「ファイアー!」


 スライム達の下にある魔法陣が輝き炎の柱が吹き上がり、スライム達は炎の中で燃やし尽くされ少し大きめの二つの魔石に変わった。


「ミリアちゃん!!」


 紫音は喜びの余りに、ここぞとばかりにミリアに抱きつく。


「よくやったね、頑張ったね、偉いよ、ミリアちゃん!」


 そう言いながら、ミリアの頭を撫でながらミリアを讃えた。


「お姉さん、苦しいです……。でも、ありがとうございます……」


 ミリアは恥ずかしそうに、でも嬉しそうにそう言う。


「二人共、上! 危ないッス!」


 喜んでいたのも束の間、三体目のスライムが上から二人の前に落ちてきた。


「まだいるの!?」


 紫音が咄嗟にミリアの前に立つと、スライムが何故かリズの方に向い始める。


 リズを見ると彼女は弓に矢を番えて弓を引き絞ろうとしており、近寄ってくるスライムに動じること無く冷静に矢を放つ。


 すると、矢が命中したところからスライムの体が凍り始め、スライムが動けなくなる。

 リズは鞄から何か紙のようなものを出す。


 これは氷属性魔法スクロールで、魔力を込めることで発動し矢に付けて放つと敵に着弾した時点で魔法が発動する。


 スライムがリズに向かったのも、魔法スクロールへの魔力注入に反応したからであった。


 リズは魔法スクロールに魔力を込めて矢に取り付けると、素早く弓に番えてでスライムに射撃する。


 魔法スクロールの付いた矢は、スライムのまだ凍っていない部位に見事に当たりスライムを完全に凍りつかせた。


 完全に凍りついたスライムは粉々に砕け散り、冷えた魔石になる。


「これで魔石の温度が丁度いい感じになるッス。」


 リズはその冷えた魔石を左手の手袋で拾うとそう言いながら、先程ファイアーで倒した魔石のところに放り込む。


 そのリズを紫音が「え?!」という表情で見る。

 リズも紫音にそんな表情で見られたので、「え?!」という表情で返した。


 紫音はできるだけ冷静に丁寧な口調で、リズにスライムを倒す手段を持っていたことを問いただす。


「えーと、リズちゃんには……、スライムを単独で倒す方法があったのかな?」


「はい、もちろん。準備は万端ッス。まあ、とはいえ、私は魔法が本職ではないので数枚しか魔法スクロールは使えないッス」


 その答えに紫音は、もう一度リズに「え!?」と驚いた表情で見てしまう。

 リズは再び驚いた表情で見られたことに驚いて、再び「え?!」という表情で返した。


(魔法スクロール、教習所で習った気がするけど魔法力が必要だから、私には関係ないかと思ってスルーした気がする……)


「じゃ、じゃあ、どうして最初からそれを使わなかったのかな~?」


 紫音はあくまで年上のお姉さんとして、危険な目に遭わされた怒りを抑え心に余裕を持つのを心がけながら、リズに質問を続ける。


「どうして、あんなピンチを演出したのかな~? そうすれば、お姉さんとミリアちゃんはこんな苦労しなくても済んだんじゃないのかな~?」


 その紫音の質問に、ミリアも後ろでコクコクと頷いている。


「え? どうしてって勿論、スライム相手にガッツリ心折られたミリアちゃんの豆腐―いや、豆乳メンタルを克服させるための作戦じゃないッスか」


「とうにゅうメンタル……」


 ミリアは親友の思わぬ一言に、ショックを受けて涙目になった。




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