22話  卒業試験開始






 翌朝、覚えていないが嫌な夢を見た気がした紫音は、取り敢えず軽く体を動かしておこうと思って屋敷から出るとストレッチを始める。


 軽いジョギングで、意識と体を活性化させているとミレーヌが現れた。


「朝から精が出るな、シオン君。わかっていると思うが、あまり張り切りすぎて試験に支障の出ないように頼むよ」


「はい、わかっています」


 ミレーヌは紫音と2~3言葉を交わすと、屋敷の中に戻っていく。

 紫音は朝ご飯を食べた後、部屋で待機するように言われ時間を潰しているとミレーヌが部屋に呼びに来る。


「すまない、待たせたね。さあ、【冒険者育成学校】行こうか」

「はい」


 紫音がそう答えると、ミレーヌは屋敷の前に待機させている馬車に案内した。

 馬車の前にはエルフィが立っており、紫音に一礼すると馬車の扉を開けるとミレーヌは馬車に乗り込み、紫音もそれに続くようエルフィに促される。


 紫音は乗り込む時にエルフィに、「おはようございます」と挨拶するとエルフィも「おはようございます」と返してくれた。


【冒険者育成学校】は、アルトンの街の郊外にあり、全寮制ではあるが生徒の年齢が低いため【冒険者育成高等学校】ほど規則は厳しくはない。

 寮に校舎、教練場などの設備があるため施設面積は広大である。


 学校につくまで、紫音は馬車の中でミレーヌ達と雑談を少ししていた。

 すると、学校の近くに着た時ミレーヌが、突然マスクとサングラスを掛け変装を始める。


「ミレーヌ様、何故変装を?」


 紫音の質問は当然であった。

 なぜなら、かなり怪しい人に見えるからだ。

 すると、ミレーヌはこう答えう。


「もし、私が君を送り込んで試験を合格させたとミリアちゃんが知れば、自分の事を信頼してなかったのかとショックを受けるかも知れないからな」


(話を聞いた限りのミリアちゃんのイメージなら感謝こそすれ、ショックは受けないと思うけど)


 そう思った紫音。それとその変装は、余計に(怪しすぎて)目立つとも思った。


「さあ、行こうか!」


 馬車が学校につくとミレーヌがそう言ったが、その変装では正直全然さまになってないと思う紫音。


 学校は、既に卒業試験が終わり休暇になっていた為に生徒はおらず、そのためミレーヌの怪しい変装姿が幸いにも目撃されることはなく、彼女の面目は保たれる。


 案内係から、【冒険者育成学校】校長室に案内されて中に入るとそこには、初老の老人が立って出迎えてくれた。


 おそらく冒険者はもう引退しているであろうが、明らかに只者ではない雰囲気を漂わせており、現役時は高ランクの冒険者(騎士?)であったと一目でわかる。


「どうも、お待ちしていましたミレーヌ様。そちらの娘さんはお初にお目に掛かるかな? 当学校の校長のフリーマンです」


 さすがは校長、ミレーヌ様のこの変装に顔色も変えずに対応した。


「はじめまして、フリーマンさん。シオン・アマカワです」


 紫音が自己紹介すると、フリーマンがこう尋ねてくる。


「アマカワ? あのアマネ・アマカワ様と何か関わり合いがあるのかね?」


 その質問に、紫音が答えるより先にミレーヌが答えた。


「彼女は直系ではないが子孫らしい。まあ、それは置いておいて編入の手続きを早く済ませて欲しい。何せ時間がもうあまりないのだからな」


 ミレーヌは話がややこしくなる前に、話題を切り替えてくれる。


「そうですな……。では、推薦状をいただきましょうか」


 校長はミレーヌから推薦状を受け取ると、編入の為の書類に判子を押しミレーヌに渡した。


「やけにあっさりだな? 実技試験ぐらいすると思っていたが……」


 ミレーヌの疑問に校長は、こう答える。


「貴女が連れてくる人物に間違いはないでしょう。それでは、卒業試験の説明をしましょう。卒業試験は、我が校の敷地内にこちらが用意した試験用の低レベルの魔物やトラップをPTの力を合わせて攻略し、最後のエリアにいる大型の魔物を倒すのが試験内容です。なお、装備と回復アイテムは我が校の用意したものを使用してもらいます」

 

「校長先生、説明有難うございました」


 紫音がそう答えると校長はこう言ってきた。


「ただし、君達のPTは君と弓使い、魔法使いというかなり偏りのあるPTだ。恐らくかなり厳しい試験になると思うから、気を引き締めてかかりたまえ」


「はい!」


「頼むぞ、シオン君! 君の肩にミリアちゃんの未来と私の未来と、君の未来もかかっているのだからな!」


 その返事を聞いたミレーヌが、紫音に激励(?)の言葉をかける。


(最後にサラリと恐いこと言われた気がしたけど、今は試験にだけ集中しよう!)


 紫音は現実逃避して、試験に集中することにした。


「それでは、ミリア君は私達が呼びに行っても出てこないだろうから、リズ君を呼ぶとしよう」


 暫くすると、校長室の扉をノックする音が聞こえる。

 ミレーヌが校長室内の扉から職員室に移動すると、校長が中にはいるように促す。


「失礼します、リズ・エドストレーム参りましたッス。」


 語尾が「ッス」とは、まあ、この年齢の子の敬語ならまだしょうがないかと紫音が思っていると、校長が紫音をリズに紹介する。


「リズ君、彼女は本日付けで転入してきたシオン・アマカワ君だ。これから君とミリア君とPTを組んで、卒業試験を行う。わかったかな?」


「はい、分かりましたッス校長先生」


 リズは校長にそう答えると、特に質問もせず紫音に挨拶してきた。


「はじめまして、お姉さん。私はリズ・エドストレームっていうッス。弓使いをやってるッス。よろしくッス」


 紫音は体を屈めて、リズの目線に合わせてから自己紹介をする。


「はじめまして、シオン・アマカワです。よろしくね、リズちゃん」


 そして、挨拶しながら握手するために彼女の前に手をだした。

 リズは紫音と握手を交わすと、校長がリズに指示を出す。


「リズ君さっそくシオン君を、ミリア君の部屋まで案内してあげなさい」

「はい、分かったッス。ではお姉さん、私に付いてきてくださいッス」


 紫音は、校長に一礼すると校長室を後にしてリズについていく。

 部屋に案内してくれているリズに、紫音は気になっていた事を質問してみることにした。


「リズちゃんどうして校長先生に質問しなかったの? 卒業試験を三人でする事とか?」


 私なら少なくとも”三人だけで”と言われたらそう質問する。

 すると、リズは淡々と答えを返してきた。


「この時期に転入して来て私達とPTを組むってことは、お姉さんはミレーヌ様が寄越した助っ人ッスよね? ミレーヌ様が助っ人として寄越した人ですから、試験に合格できるぐらいの実力があるはずッス。総合スキルランクは最低でもB、私の予測ではAかAAだと思っているッス。違うッスか?」


(こっ、この子、意外と鋭い! 眠そうに目を開いたジト目なのに、私の全てを見透かしているような気がする……)


 紫音はミレーヌに内緒にするように言われていたので、咄嗟にこのように誤魔化す。


「なっ、何のことかな~。お姉さん、ミレーヌ様なんて知らないよ~。でも、ミリアちゃんには今の推理言わないでね」


 だが、誤魔化せていなかった。






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