03話 異世界到着
異世界【フェミニアース】
女神フェミニースが創造し管理する世界。
世界の至るところに魔物が生息し、人間が日々戦っている世界。
女神フェミニースの作り出した転送ゲートにより、天河紫音が運ばれた場所は、どこかの森の少し開けた場所だった。
「ここがフェミニアース…、私の第二の世界…。でも、元の世界とあまり景色は変わらないなぁ。ここは本当に異世界なのかな?」
紫音は異世界であるから、元の世界とは違う風景が広がっていると思っていたが、目に映る景色はあまり代わり映えしない。
森の木も種類は違うとは思われるが、見た目は元の世界の木と大差ない。
「なんだろう? この森は何か神聖な感じがして、落ち着く場所だね……」
何故かはわからないが、この辺りの空気は澄んでいて、神聖な雰囲気が漂っており、心を落ち着かせてくれる。
少なくとも例の<魔物>は、現れそうにない気がする。
―と、感傷に浸っている場合じゃない。
時間も、お金も無限ではない。
暗くなる前に、街か村につかないと野宿になってしまう。
(知らない世界で初日から野宿をするのは、つい最近まで電化製品に囲まれて育った現代っ子の私には正直怖いし辛い)
何より、この世界の治安レベルが解らない以上、女の子一人の野宿は危険であるため避けるべきである。
紫音の目の前には、おそらくこの森の出口に向かうであろう道があったので、取り敢えず森から出るためにそちらに向かって歩き出そうとする。
その時、不意に後ろに何か建造物があることに気づき、振り返ってみるとそこには綺麗な花に囲まれた2つの大きく立派な墓が仲良く並んで建てられていた。
(誰のお墓だろう?)
神聖な感じがしたのは、このお墓のおかげなのだろうと思い、紫音は不意に誰の墓か知りたくなった。
判ったところで、この世界の過去の人のことなんて知らないから、どうしようもないとも思ったが何故か知りたくなった。
碑銘を見ると知らない文字だが、ちゃんと読めるようになっている。
(ありがとうございます、フェミニース様)
紫音は心の中で、女神に感謝しつつ碑文を読む。
「えーと……、魔王を共に倒した英雄にして、我が最愛なる親友、アマネ・アマカワ ここに眠る……」
突然聞き慣れた名前が出てきて紫音は驚いた。
「天音様がこの世界に転生していて、しかも初代魔王を倒した一人だったなんて!」
天界から心配で様子を見ていたフェミニースは、サプライズが成功し嬉しそうに小さくガッツポーズをしていた。
そして、そんな先輩の可愛い意外な一面を見たミトゥースも、別の感情で小さくガッツポーズをした。
自分が憧れ目標とする天音が、自分と同じくこの世界に転生して仲間と供に魔王を退治していた事を知った紫音は、憧れと尊敬の念を更に強める。
「私も負けてられない、頑張らなくては!」
そして、決意を新たにした紫音は、もう一つの墓の主の名前も確認する。
「魔王を倒し偉大なる聖王女、セシリア・アースライトここに眠る……」
どうやら、アマネ様と共に魔王を倒した王女様のお墓のようだった。
仲良く並んでお墓が建てられているということは、とても仲が良かったのかなと思った。
「いつか、私にもそんな仲間が、友達がこの世界でできるといいな」
紫音は期待に胸を膨らませ、思わずそのように呟いてしまう。
何故ならば、彼女は元の世界で剣術修行と勉強ばかりしていたので、友達が少なくその中でも親友と呼べるのは、幼馴染のアキぐらいであった。
アキちゃんはゲームや漫画、アニメが好きで、私が爽やかイケメン先輩に振られた時に、当時流行っていたオンラインゲームや<イケメン>が出てきて、仲良くするゲームを気分転換にと勧めてくれた。
私はゲームがあまり好きではなかったので、親友の彼女がプレイして“はぁ、はぁ”しているのを見ているだけだった。
その後しばらくして、アキちゃんがこのような事を言って、数日落ち込んでいた。
「神は死んだ…。井澤さんが急死してしまったよ…」
何でも、アキちゃんの好きなゲームを作っていた人が、亡くなってしまったらしい。
ゲームのタイトルは忘れたけど、アキちゃんは今も元気にしているだろうか?
そう言えばアキちゃんは、友情についてもこんな事を言っていた……
「紫音ちゃん…、友情とは儚いものだよ…。どれほど仲良くしていても、同じカプを押していた同士でも、『A×B』が『B×A』と順番が逆になっただけで、激しい争いになって友情が壊れてしまう…。紫音ちゃんとは、そうはなりたくないよ…。というわけで、紫音ちゃんにはこの大正義◯虎本を読んでもらって、兎◯派に! 大丈夫! この兎◯本はR-15の健全版だから! でも、紫音ちゃんが欲するなら、こっちのR-18版でもいいよ!!」
アキは目を輝かせて、紫音をBLの世界へ引きずり込― 勧誘してくる。
「私達はまだ14歳だから、両方ダメだよね!?」
紫音は、倫理無視のアキに突っ込む。
※良い子は真似をしないように
(あっ、これ思い出さなくてもよかったヤツだ…)
紫音は時間を浪費して、こんなくだらない事を思い出したことを後悔する。
何故なら、早く泊まれる場所を探さないと、テントも無いのに暗い夜道を<キャンプ地とする!>勇気は今の紫音にはない。
だが、この場を立ち去る前に、天音のお墓にお参りしておきたい。
紫音は天音のお墓にお参りするために、急いで墓前にしゃがみ込むと既に枯れてはいるが、一輪だけ花が供えられていることに気付く。
隣の墓を見るとこちらも枯れてはいるが、違う花が一輪だけ供えられていた。
(それぞれ、故人の好きなお花だったのかな?)
違う花が一輪ずつ供えられているのを見て、供えた人物の故人への想いを感じる。
「ご先祖様、私を見守っていてください。また、落ち着いたら墓参りに来ます」
目を瞑り合掌してお参りを済ませると、紫音は野宿を避けるために先程見た道に向かって急ぎ足で歩き始めた。
しばらく木々の間の道を進むと、この墓所の入口であろう大理石で創られた門が見えてくる。
外部から魔物がこの森へ侵入出来ないようにするためか、門の左右には石壁が建てられており、おそらくこの森を囲っていると推測できる。
石門をくぐる瞬間、何か違和感を覚えたが、そんな事を気にしている暇はないので、紫音は深く考えずに先を急ぐことにした。
それは、この墓所を守る結界であったが今の紫音は知る由もなく、知った所で結界の知識もないのでどうしようもない。
ゲートを抜けると森はそこで終わり、その先におそらく主要街道であろう大きな道が見えたので、紫音はそこに向けて歩きだす。
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