第16話 アルシェ、某場所に招待される
<
の魔法が、この話では使用されていますが、この魔法の効果は作った人の名前も判明するという設定が、原作の書籍で説明されてるので、こちらでもそれを遵守したいと
思います。
なので、それを重視して製作者の名前も即座にわかっちゃった。という話で進めちゃいます。
個人的にはもう少し、引っ張りたかったのですが…
そこを踏まえた上で、どんな話が展開されていくか、お楽しみいただけたら幸いです。
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=======ここはナザリック地下大墳墓=======
本日の支配者はわりと上機嫌であった。
なぜなら人間の協力者でもあり、NPC達には内緒にしているが、実はアインズの現地国言語(略して現国)の先生でもあったジエット氏(このことはNPCには秘密にしてある、支配者の自分が教えを受けるなど、とてもじゃないが知られたくなかったからだ、なので、この件は現地の情報を事細かに収集するため…と偽り、勉強の時間を捻出していた、今ではなんとか現地に文章が少しは読めるようになっている。)から現地産ではありえないアイテムが店に鑑定依頼として持ち込まれたというのだ…是が非でも買い取ってもらい解析したいと告げた所、了承は得られたが、その代わり必要経費としていくつかのスクロールの使用許可が欲しいという事なので、その程度ならいくらでも替えは効く。
ということで即座に「OK」サインを出した。
どんなものかはわからないもののユグドラシル産のものが持ち込まれたとしたら、それはプレイヤーの影がいよいよ目の前に現れたという可能性も充分にありえる。
買い取り額もモノと数にもよるが5000までなら問題ないと言ってあるので、彼ならその範囲内で話は付けてくれるだろう。
スクロールに関してはデミウルゴスが平均的に在庫を切らせることなく継続的に増やしていってくれているので、何の問題もない。 皮を剥いでる生き物はたしか…両脚羊だったか? それにトロールに、獣人種などを牧場で飼育し…スクロールにするための素材として種類は豊富にあるようだ。
デミウルゴスが最近精力的に取り組んでいる牧場では、より上位のスクロール作成としてトロールのレアものが第4位階までの魔法を封じられるのでは?ということが分かってきた。
通常のトロールの皮膚をはいでスクロールにしたところ、部位と、性別、年齢、レベルという条件が良ければ、第3位階なら行ける種もあるという…それならレアものなら恐らくは…という願望もあったのだろう。
レアものと言ってもこの異国ではレベルの高いモンスターはそうそう居ない…思いつくのは「東の巨人」という存在だが…あれは【絶望のオーラV】で即死させてしまった。
(それにカルネ村の防衛力の参考にするためにトロールゾンビにしちゃったしな~…そう考えるとあの使い道はもったいなかったか?)
かと言って、帝国の武王もトロールだという話だが、さすがに他国の闘技場チャンピオンをそのままさらってくるのも外聞が悪い。
ギルドのままではなく、やけに国にしたいという熱意が守護者たちからすごいのだが、アインズ自身は国の運営などしたことのないただの一営業マンである。
自分の黒歴史(パンドラズアクター)に関しては恥ずかしいので、まだアルベドにも面通しはさせていない…デミウルゴスに並ぶ頭脳の持ち主ってことにしてあるが…実際に自分があの頃に持っていた「一過性の病気」にかかっていた時期の…今見ると痛い設定てんこ盛りのアイツ…
アレが自意識を持って動いてるなんて…できれば少しでも時間を先送りしたい…有能なのはわかってる、ナザリックの財政面での責任者ということにしてあるので数字にも強く、信頼のおける能力はある。それもわかる…だが、どうしてもみんなに会わせる決心ができないまま、今に至っている。
なので、国を持つというのにも、二の足を踏んでいるのである。
一応、カルネ村やガゼフ救助の際は、緊急的な対応が必要だったのでその余裕はなかった上…、相手がどんなレベルかもわからないのにギルド武器を持ち出すのはデメリットが大きすぎる。ということで、もちろんカルネ村救出時に持って行った「スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン」はイミテーションだ。
いざとなれば超位魔法を1発、課金アイテムの砂時計も使い、相手が慌ててるうちに逃走、という選択肢も考えていたが、その必要もないくらい低レベル勢だと思った時は肩の力が思い切り抜けるのを実感したものだ。
東の巨人討伐の際は、自分とシズだけで…宝物殿に行った。
宝物殿の入口前で、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを預ける人材が必要だからだ…シズを入口に置いて指輪の見守りという大役を命じられたのが嬉しいらしく、大人しく従ってくれた。
実際に会ってみた感触だが…やはり入り口前で待機させておいてよかったよ。アレを人に見せるなど…まだまだ覚悟が足りない…お願い、もう少し時間を頂戴!という心境になった。
そしてパンドラに言ってワールドを1個持ち出した。性能として是非とも使ってみたかったワールドアイテム「強欲と無欲」だ。これの使用実験としてその時の討伐に乗り出したという名目もある。
【絶望のオーラV】で即死させた後、実際に「強欲」に経験値を吸わせる実験はうまくいった。
今後は、なにか大きな勢力と戦争などがあった時は守護者たちに持たせて、強欲で吸うのを忘れないように、という命令をしてもいいかもしれない。
亜人種などに攻められている国なんてものがあったら救助という名目で、経験値という名のポイント収集ができる貴重な機会を見逃す手はない。 同時に救世主という名声も得られれば一挙両得というものだ…。
なんてことを考えていると…「コンコン」とノックの音がした。
今日のアインズ当番である「エトワル」に促し、ドアを開ける許可を出す。
最近こうさせていると一般メイドの「私仕事できてる」という満足度が違うという事もわかってきたので、NPCたちの望むことを(可能な限りで)させてあげている。
その代わり、守護者並びに一般メイド達に与えようと思っている「週休二日制」の案は難航しており、その案を出した時のNPCたちの絶望したような…「自分達の価値はもうないとおっしゃるのですね」という嘆き様は強制的な感情抑制が起こったほどだ…
などと思っていると扉をくぐって入ってきたメイド「リュミエール」が今回の一件であるアイテムを目の前に持ってきた。
どうやら、ワゴンの上にあるクリスタルのコップ4つと割と大ぶりな水晶玉が今回の品物のようだ。水晶は思っていたよりも割と大きい方か?という印象なだけだった。
これを全部で3500で買い取ったか…さて、これが本当にユグドラシル産の材料で作られたものなら言う事はないのだが…そう思い
「わざわざ、こんな雑用にお前まで狩り出して悪かったな、本来の仕事もあったのだろう?」と言うと、ぱぁ~っと明るい表情となる。
「とんでもありません、至高なる御身、アインズ様よりの指名されてのご勅命、このリュミエール一命を賭しても成し遂げる覚悟で挑みました。」と気合がすごかった。
(これでも転移直後よりは打ち解けてくれたというか、自分への硬さが取れてきて、目の前で正直な表情を出してくれる程度にはなってくれてるというのはいい兆候だな一年以上かけて意識改革をあれやこれやしただけのことはあった!)
「あぁ、お前たちのその精神こそ、私の望むものだ、いつも感謝しているぞ」
と告げると更なる喜びに打ち震えているようだった。
「足止めしてすまなかったなリュミエール、本来のお前の仕事に戻るといい。」
鷹揚にしてそう告げると「それでは、これで失礼させて頂きます」そう言って、音もたてず静かに…かつ素早くという器用な真似をして部屋を出ていく。
(一般メイドもみんなどうやってあんな経験をつんでいるのやら…あれもホワイトブリムさんの願望なのだろうか?)
そんな想いを頭から一度追い出し、目の前のアイテムの鑑定に移る。
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発動と同時に何度か沈静化が起こる。 混乱、狂喜、疑惑…すぐに飛び出したい衝動に変わり…それも沈静化された。まずしなければならないのは情報の収集、つまりは真相の把握だ。
何度か沈静化が起こったため、すでに冷静になっている、とりあえず、事実が判明している内容の整理だ!と考え、もう一度効果が発動した内容を読み上げる。
目の前のアイテムはマジックアイテムではないが、故意的に、意図的に作り上げられたインテリアアイテムだ。
思えば、人体(死体)を媒介にしてデスナイトなど平気で作れるのだ、ユグドラシルのインテリアガチャのアイテムで、家具などを作るというのもできない理由はない。
驚いているのはそこではない、それの製作者の名前だ…これは…
そして「アルベド!」…と呼ぼうとして思い留まる…そういえばついさっき、謹慎3日を言い渡したばかりだ…あの罰をすぐに取り下げるというのも支配者として、許されることではないだろう。
それに、あのアルベドはちょっと怖かった。
女性に襲われかけることが、あんなに恐ろしいものだったとは…とその時のことを思い出し身震いをする…
そんな状況でわざわざ呼び出せるはずもない…というより、自分で謹慎を命じておいて、急な呼び出しなど…周りに対しての示しがつかないだろう。
謹慎が明けるまで、言わない方がいいかもしれない。
デミウルゴスは牧場経営で、「牧場」の方まで出向いてもらっている。
スクロールの作成がもう少し軌道に乗って、デミウルゴスが居なくても牧場の運営を任せられる誰かが入るまではうかつに呼び出すのは今は避けておきたい。
しかし、自分だけで出向くというのは対応が軟化しているとはいえ「支配者として従者の1人はお連れください! いざという時に盾になる者を…」といつも言われてしまうのだ…本音はもう少し気軽に出歩いたりしたいモノなのだが…
「はぁ…」と1つため息をつくとエトワルが「いかがされましたか?アインズさま」と心配そうだ…「あぁ、何でもないのだ、そう、なんでもない…」そう言って(さて、どうするか…)と考えていると、やっぱり一つしか取れる手段はないよなぁ~…と決断して、<
☆☆☆
アルシェは結局、誰にも頼る先はなく…さすがにイミーナに頼るわけにはいかない。
女同士抵抗は無いのだが、私が行くと、彼女はヘッケランとの時間が大幅に制限されてしまうだろう…それは私も望む所ではない…
同様の理由でヘッケランの所にも身を寄せるなど出来ない。
ロバーデイクは…何かあるとは思えないが、さすがにまずいだろう、年齢的にもそうなのだが…色々と思う所があって遠慮していた。
結局、家を捨てた自分が頼れる先はそれほど選択肢が多いわけではなく、かと言って、気分は彼の家に近づくにつれ、その気分も足取りも重いものになっていった…
彼の言い分をそのまま受け止めれば「妹たち」を受け入れてくれると思う、あれだけ「恩を返したい」という気持ちがあるなら、変な心配はないのだが…
(やっぱり、問題は彼のお母さんよね…お邪魔に思われないかな? 「そんな平気な顔してヒトの家に押し掛けるなんて」と思われないだろうか?)
そう心配していると…結局、来てしまった。
彼の家に…どうしよう…ノックする勇気が出ない…私の腰に寄り添ってくれてる妹も「どうしたの?」という顔で見上げている。
何度目だろう、ノックをしようとして、手を下ろし、そしてまた手を持ち上げて…を繰り返すうちに気がついたこと…
家の表札が、違う名前になっている?
学院時代の彼の家には何度か彼を送り届けたことがあるので覚えていたのだが…引っ越しでもしたのだろうか?
関係のない人の部屋なら、前の住人の話は聞けないだろうか?
望みを込めてノックする…彼本人に聞けば済む話とは言え「これから押し掛けたいから家を教えて?」とはとてもじゃないけど言えないし内容的にはそれに近くなるというのに…それをどう柔らかく言い直せばいいのか…こういう時、交渉上手なヘッケランが羨ましい…彼の場合、相手が勘違いさせるような表現をよく使う…悪く言えばペテンにかけるような感じ…
対してロバ―デイクは真摯に相手に向き合い、心から攻めていく感じだ。誠実な彼の話し方から言葉回し、優しさなどで相手が「なんとか助けてあげたい」そういう気分にさせてしまうようだ。
どっちにしても状況によりけりなんだろうけど…どちらにも私にはないもの…ただ聞きたいことを伝えればいい…そう心を奮い立たせ、ノックする。
「は~い」中から女性の声が聞こえてきた。
この声は彼の母親の声ではない、もっと年を重ねた女性のモノだ…ガチャ…と扉が開くと「あら可愛いお嬢さんだこと、どうしたの?」
優しい表情だが、しかし突然の訪問の上、見知らぬ相手が目の前に居るのだ、多少「なんだろう」と思われても仕方がない。
「あの…以前こちらに住んでいたご家族はどちらに行かれたか、ご存知ありませんか?」
「あぁ…ここに以前まで住んでいた家族ね? それならこの建物の屋上に行ってみなさい、面白いものが見られるわよ。」
「おもしろいもの…? あ、ありがとうございます。」
「あら、いいのよぉ~がんばってね?」そう笑顔を向けられて少し考える…どんな勘違いをされたのだろうか? 本質をそのまま察知されてもそれはそれで困りはするのだが…
とりあえず、手掛かりは屋上…そう思って階段を上ってみると…そこにあった。というより、それしかなかった。
彼の住んでる建物自体はアパートメントと言えばいいだろうか?
2階建ての2階部分、それの横一列に5部屋、1階には4部屋プラス大家の部屋があるという造り。
その屋上、昇ってきた階段の突き出た部分のちょうど向かい側、この建物の屋上、全体の平面の真ん中から奥…つまり屋上の実に半分が建っているログハウスに占領されているのだ。
しばしその光景にあっけにとられていたが…意を決してその建物に近づいて、表札を見る…よかった、彼の…「テスタニア」の表札だ、ここで合ってるみたい。
全部が丸太で作られているログハウス、それのちょっと大きい版と言えばいいのだろうか? そんな牧歌的な家が堂々と屋上にあるという違和感はあるものの、緊張感はさっきより薄れている。
木で作られているらしい扉にノックができた、するとやけに元気そうな声が「は~い、今開けるからねぇ~」と女性の声、この声はたしか彼のお母さんに近いが…あの時とは180度違う…。
私の記憶の中では<
だというのに、その記憶は嬉しい意味で裏切りを受ける。
彼女の様子は、溌剌と表現する以外にはない、元気いっぱいな笑顔だったのだ、あの時に見せてくれた病床での消え入りそうな儚い笑顔ではなく、吸い込まれるような明るい笑顔だった。
「あら~、珍しいお客さんね、たしかうちの子を送ってくれたことがあったわね?たしか、フルトさんとこのアルシェさんだったかしら? うちの子、まだ帰って来てないけど、いつもならもうすぐ帰ってくるはずだから…良かったら寄ってく?」
きっと、これが本来の彼女の在り様なのだろう、聴いてて安心する声だ。
「もうフルトの名は捨ててきました。今はただの「アルシェ」です、すみません、こんな夜遅くに…他に頼れるところが無くって…」
そう言って頭を下げると、妹たち二人も頭を下げて姉を見習っている。
それだけで育ちというものが分かる所作だ…親の評判はあまり良いものではないが、娘たちの方に悪い評判がないのが幸いだろう。
「あらあら、それは大変ね、外に居たんじゃ寒かったでしょ?中に入りなさい、ここは見た目と違って広いのよ? 2人じゃ~広すぎて落ち着かない気分だったから、お客さんがいるならちょうどいいわ♪」
雰囲気からどんな事情があってのことなのか、なんとなくわかってくれたのだろう彼の母は扉の横にずれるようにして来客を中に招いてくれた。
「すみません、お邪魔します。」「「おじゃましまぁ~す」」
遠慮がちに部屋に入ると…とんでもなかった。
外から見えていた広さなど「ウソツキ!」と思いっきりツッコミたくなるくらい広い、倍以上はあるだろうか…
広いリビング調の広間、外から見た感じ平屋っぽかったのに壁に沿うように階段が上に伸び、2階がある。
2階にはいくつかの部屋があり、2つや3つではきかない感じ…
しかも1階にはキッチンもちゃんとあり、水回りは完璧、平民の家には珍しく風呂にシャワーの機能もある。
トイレもあり、話によると、上の部屋にはベッドもあるらしい。
屋上にこの建物があるのに水回りの給水、排水の方はどうしてるのだろう?と思えば、このログハウスはマジックアイテムであり、給水、排水も魔法の効果で成り立っているらしい。
もぉ、今のジエットくんには常識など通じなくなってるのだろうか?
呆れてしまって、もぉなんでもありだな…と思っていると「すご~~い!ひろ~い」「ひろい、ひろぉぉぉ~~い♪」と大喜びだの妹たち。
「こぉら! クーデ!ウレイ!人の家で走り回るんじゃないの! ご迷惑でしょぉ~!?」と注意すると
「あぁ~ら、いいのよぉ、好きにしてちょうだい、この家は普通のログハウスよりずっと軽いみたいだし、その割に防音もしっかりしてるみたいでねぇ~家の外に音が漏れることもないのよぉ~?」
あまりのことに絶句する…どれだけのお金をかけてこれを建てたのだろう…普通にマジックアイテムを…スクロール1本買うだけでも庶民には手の届かないモノなのに…それを家単位で、この内装に、しかも防音、見た目以上に広い、こんな効果まで行くとなると金貨で数千は行くんじゃないだろうか?
数千で収まれば安い方? って感じにも思えるけど…ここまででたらめな家は見たことがないから、元貴族の家柄だった自分でも、その基準が分からない。
私の屋敷を規準で言えば、このログハウスより全体としてはウチの方が広いけど…、ウチの家の一部屋一部屋は、このリビングの広さにはとても及ばず、応接室や、客間であっても、ここまで広くはない。
貴賓室も形としてはあるが…ここの広さには及ばない。
妹たちの喜びが発露してしまうのも仕方ないのかもしれない。
たしかにこれでは、この中に2人家族では広すぎて、いたたまれないだろうな。
「あの…おばさま、こんな時間に妹たちまで一緒に押し掛けてしまってすみません」
と再度、お礼とお詫びを口にする。
この気持ちは感謝でもしておかないと、とてもじゃないけど申し訳なさで押しつぶされそう。
「いいのよぉ~、私の家は自分以外は男の子しかいないでしょ? せめて女の子が欲しかったんだけど…産まれたのはあの子だけだったからねぇ~」
そう言ってもらえると、少しは気分は軽くなる。
「それに、こぉ~んな可愛い子供たちなら、私はどれだけでも大歓迎よぉ~♪ 一緒にお料理の手伝いとか、お皿洗いで女同士のお話とか…夢だったのよねぇ」
そう言ってウレイとクーデを両腕でそれぞれ抱きしめて、ほっぺに頬ずりをしている。
そう言われて初めて「家は逆だったな…」そう思った。
父親以外は執事くらいしかおらず、男は父親1人、女の家族ばかりに囲まれて肩身の狭い思いをしていたのだろうか…あの衝動買いもそれの反動だったのかも…
男一人では勢力的には少数派、意見を出しても多数決でもされれば、負けは確定。
そんな中で徐々に変わっていったのかな?と思うも、妹たちを売り払うまで振り切れてしまってはもうそれも同情の余地はない。
そんなことを漠然と考えていると…「ただいまぁ~、今帰ったよ、母さん! ってあれ? アルシェお嬢さま!!」
そっか、何も言わずに来たから、ジエット君はそりゃ驚くよね。
「ごめんね?ジエット君、急に押しかけちゃって…、妹たちまで…その、他に頼れる人がいなくて…、それから、私はもうただのアルシェ…元貴族だったフルトの名前はもう捨ててきた…だからもうお嬢さまはやめて…」
「おかえり~ジエット、せっかくお客さんが頼って来たんだから、ちゃんとおもてなししなきゃ~ね。」
と言って立ち上がると、さて、お料理でもあっためますか。と呟いてキッチンに歩いていく。
「アルシェちゃんはお客さんなんだから、ゆっくり座っててね?」と言われたけど…
「いえ、私もお手伝いします!」「わたしも~!おてつだいするぅ~♪」「ずるぅ~い、クーデぇ、おてつだいならわたしもできるもぉん」と言って集まってくるにぎやかな空気を嬉しそうに彼のお母さんは「母」の笑みで温かく受け止めてくれていた。
☆☆☆
「え?ジエット君、今なんて?…ごめん、よく理解が追い付かなくて…もう一度、いい?」
聞こえてはいた、ちゃんと言葉も通じてるし意味もわかっていると思う…だけど、心当たりがなかった。
「あぁ、すみません、結論だけを先に言ってしまっては、事情がわかりませんよね。」
申し訳なさそうに頬を指先でポリ…とかく仕草。昔の面影が浮かんだ気がした。
「今日のクリスタルの件、ありましたよね?その件に関して私の主は非常に喜ばれていてですね、ぜひとも元の持ち主であるアルシェさんにお礼がしたい…と仰せでして…」
(あぁ…そういう事情なのか…あれってそこまでのものだったのかな? あれってスゥズさんからもらったやつだし、そこまで高価なものだったってこと?)
そんな考えをよそにジエットは続ける。
「つきましては主の館にご招待したいとのことで…よろしければ、こちらを…とのことです」
大きめの箱が一つ、テーブルの上に置かれる、食事はもう終わって、ジエットのお母さんとの洗い物も済ませた。今はみんなでお茶してた時間なので、テーブルに置かれてももう問題はない。
「見てみてもいい?」
「ハイ、どうぞ、お気に召すようであればそれを着てお出でになってほしいとのことです。」
(なんだろう…着て…ってことは服?なのだろうけど…)
箱を開ける…中が気になるのか、クーデリカもウレイリカも同様にのぞき込んでいた。
中に入っていたのは3着のドレス…煌びやかに輝く、淡い赤を基調としたドレスと、薄い青、晴れ渡った空のような色のドレス、それと落ち着いたピンク色のドレス。
(良かった、そんなキラキラの服は私にはきっと似合わない、この落ち着いたピンクにしよう。)
そっとそれを持ち上げると…
「おねえさま、いいなぁ~わたしはこっち~♪」「ずる~い、ウレイリカ! わたしはこっちだもぉ~ん」
どうやら2人も好きな、気に入ったドレスを選んだようだ…って…え?それ違うよね?
「あの…ジエット君?これって、3つのうちどれかを私に、ってことじゃ? え?あの子たちの分も?ってこと?」
「あぁ、はい、そうですよ? アルシェおじょう…じゃなくて、アルシェさんなら、きっと妹さんたちも連れて行きたいだろうなと思いまして、勝手に手配させてもらいました。」
「えぇぇ?いいの?これって相当高価な感じがするんだけど…」
(あれ?そういえばサイズ…)
と思い付き、妹たちのサイズは? と聞くと「主の話によりますと「魔化」はしてくれたそうでして、袖を通せば勝手に着た人のサイズになってくれるそうですよ?」
「あぁ…そう…ありがとう…」と答えるので精いっぱいだった…
自分の今までの常識が全部まとめてひっくり返されそうだったので、これ以上ツッコムのはやめにしようと思った。
「わぁぁ~~、しゅぅ~~ってちっちゃくなったぁ~、お姉さま、にあう?にあう?」 「ずるぅ~い、わたしもぉ~、わたしは~?お姉さまぁ!」
聞いてはいたが驚いた、目の前で、大人の標準サイズくらいのドレスがまだ10にも満たない女の子の体に合うように縮んだのだ。
(ジエット君の雇い主ってどれだけの人なんだろう…)
自分も袖を通してみると、まだそんなに身長も伸びきっていない自分のドレスもちゃんとサイズ通りに縮んでくれ、ちょうどいい感じでピタっと止まる。
「あら~♪ みんな似合うわよぉ~、すっごいキレイねぇ。ね?ジエット?」と彼のお母さんも嬉しそうだ。
「えぇ、ホントにみなさん非常に似合ってますよ、これなら主も用意した甲斐があったと言ってくれるでしょう。」
今までおしゃれらしいおしゃれを楽しむ余裕のなかったアルシェには、まさか自分の初めてのコーデチェンジがドレス姿になるとは思っておらず、ジエットの言葉にも顔が赤くなるのを感じ思わずうつむいてしまった。
「それじゃ、気に入ってくれたみたいだし、その色で決まりだね、日程はいつなら空いてるかな? 問題ない日があるようならこっちからゴ…いや、ア…
「ん~、私の方は、明日、仲間に会いに行って聞いてみる、帰ってすぐに依頼が見つかるとは思えないけど、予定がどうなのかは聞いてから判断したい。」
「そうだね、うん、わかった、主にはこちらからそう伝えておくよ、日程が決まったら、教えてくれれば調整するからね。」
☆☆☆
「ねぇ、アルシェ?昨夜はどうしたの? 宿の方に帰って来てなかったけど?」
さっそくイミーナがズバッと聞いて欲しくなかったことを聞いてくる。
ここは「歌うリンゴ亭」いつもフォーサイトの面々がそろって相談するときに利用する御用達の酒場兼宿屋だ。
イミーナのことだから、きっと聞いて来るだろうなとは思っていたけど、出来れば聞いてほしくはなかった…
(でも普通は気になるよね?メンバーが帰ってこなかったら…)
「昨夜、クリスタルの一件が終わった後、実家に行って妹たちを引き取ってきた。 それから家出をしてフルトの名も捨てた。」
手短に一番言いにくいことは後回しにする、言わないで済むならその方が絶対的にいい!(やましいことは一つもないけども…)
「えぇ?それって、これからは妹さんたち二人もアルシェと一緒に行動するってこと?」
「そう、だからこれからはそこまでワーカーの方に力を入れて行動をできるかわからない。」
「しかも親がとんでもないことをしでかしてくれたせいで、あまり楽観的に過ごしているわけにもいかない。」
「妹たちはすでに買い取り手が決まっている、親から売られた身…それをなにやら助けてくれた人が居て、人買いの連中から魔法を使って姿が見えないようにしてくれてたらしい」
昨日落ち着いてから、妹たちにあの時なんで売られずに無事私の所に来たのか…という事情を聴いていたのだが…詳しいことは眠気もピークになってきた妹たちはだんだん何を言ってるかわからなくなって眠ってしまったが…とりあえずの特徴はといえば…
1.スラっとした長身
2.オールバックにして、後ろに流してくくって縛り上げたような髪型
3.「魔法使い」だと言っていたのに腰に刀をつけていた。
4.すごい速さでシュパーといって、びちゃ~となって、ズン!ってなって、どごぉ~んってなったんだ、という妹の証言。
「そりゃ~助けてくれたやつっていうのは相当強そうだが…誰なんだろうな?」
「わからない…妹たちは見ればわかると言っていた…でも話だけではなんとも言えない…あと胸当ての所に奇妙なマークがあったと言っていた」
「そりゃ、手がかりとしては有力な情報みたいじゃないか? どんなだったって?」
「タテに読む形の文字で、『エル』みたいな文字が書かれていたように見えたみたい。」
「えぇぇ~? それ真実だとしたら、話がおかしいぞ?あいつ、絶対そんなことしない男だと思うんだが…」
「えぇぇ? ヘッケラン、その人に心当たりあるの?」
「いや? 小耳にはさんでる程度で、どんな奴だかは会ったことはないな」
「私もイヤな予感してるんだけど、もしかしてアイツのこと?」とイミーナがなんとなく話の流れから察しはついているようだ。
「まぁ…多分イミーナが思い浮かべたソイツのことだと思うんだがなぁ~? どう思うイミーナ…アイツだと思うか?」
「絶対違うと思うね!人間的にそんな奴じゃない! それが一つ、もう一つはあいつは武技は使えるって話だけど魔法は使えないはず。」
「じゃ~妹たちを助けてくれたのは誰?ってことになる…またふりだし…。」
「ところでさっきの話に戻りますが、親がしでかしたとんでもないこととは一体なんなんです?」
「うん、つまり人買いはウチの親に金銭を支払った後、妹たちを買ったということを告げ、外で遊んでいたあの子らをさらう計画だったみたい。」
「それが突然現れた、何者かによって、邪魔をされてさらわれずに済んだ?ってことよね?」話を総合してイミーナが話をまとめてくれる。
「それが問題、妹たちが助かったのは良かったけど、親に金を払って妹たちを買った連中がいるってことは、今度、またいつ奴らが妹たちを狙うかはわからない。」
「あぁぁ~…そういうことかぁ~…アルシェがワーカーとして外に出てる間に狙われたら…ってことか」
「そういうこと、ヘッケラン」
「そりゃ~確かに…難しい問題だわなぁ~…っていうことはやっぱりワーカー稼業は引退か?」
「今の時点ではそれが一番濃厚…近いうちに話は変わるかもしれないけど…今はまだ引退の確定までには至ってはいない。ただ可能性は高いっていうだけ…今は…。」
「そっか~…第3位階の
「ごめん、とりあえず、当面の生活費として、先日のクリスタルを買い取ってくれたお金、合計して2000金貨はあるから、しばらく何とかはなると思う。」
「できれば、最期に「フォーサイト」を締めくくる冒険がしてみたいというのはある。 だから、何か決まったら、教えて欲しいんだけど…あの件はどうなった?」
「は?あの件?」ヘッケランは即座にはピンとこなかったようだ。
「あれじゃないですか?ヘッケラン、あの…カストクーズ候の言っていた、例のワーカーに集中してるという依頼の件では?」
「あぁぁ、あれかすっかり忘れてた。明日からでも少し探ってくるとするよ」
「まぁ、依頼主が誰とか、背後関係とか…まず明日は接触してくるやつを探すとするか?…まぁ色々あるからな~。2~3日は余裕あるんじゃないか?」
「それなら私は2日後の予定は休みにさせてほしい、妹たちにできる限り、付き添っていてあげたい。」
(その日にジエット君に予定を組んでもらうように言っておこう)
☆☆☆
『…ということになったから、あさっての2日後…予定が付くから、その時にお願いしてもいい?』
「うん、わかったよ、それじゃ、主にはそう伝えておくね? 楽しみにしておいてくれていいと思うよ?」
『わかった、それじゃ、お願いね?』
…プツっと通話状態が切れ、差し当たっての用件は済んだ。
さて…と思っていると不意に<
ジエット君だろうか?なにか伝え忘れかな?と思い、受信して、通話状態にしてみる。
「ハイ、どうしたの?」
『あぁ、よかった、その声はアルシェちゃんだね。今ってメンバーの人たちと一緒??』
この声は…聞き覚えがある、それよりもなによりも私を「ちゃん」呼びする人(?)など1人しか知らない、だからあの人(?)だろう…
「だから、「ちゃん」呼びはやめてくださいよ、スゥズさん!」
しばらくぶりの『異形』の彼からの音信…やたらクリアに聞こえるのが何よりの証明だ。 そして聞き取りやすい声で、安否確認の言葉からその会話は始まった。
______________________________________
・一般メイドのエトワルは捏造ではありません。
一応マンガ「不死者のOh!」1巻特典小説『アインズの野望』でアインズ当番を勤めたメイドです
※ジエット君の家であるログハウス。
<樹の隠れ家(ウッド・シークレットハウス)>
↓
元々は<新緑の隠れ家(グリーンシークレットハウス)>という「拠点作成系」アイテムを、外装のみ変えただけという中身はコテージタイプのマジックアイテム。
さすがに森に溶け込めるデザインのコテージを帝都のアパートの屋上に…というのも悪目立ちしすぎるかな?と思ったアインズがちょこちょこと外装をいじってジエットに贈った代物。
屋上を借りるだけという名目で大家とも交渉済み、部屋を借りるより、上下水道などの心配もないので格安で借りられている。
本来のログハウスの重さの半分もないので、屋上の床が抜けて落ちることはない。
※ 色違いなだけで、同種のモノ<深緑の隠れ家(グリーンシークレットハウス)>
というバージョンもあるが、どちらも大差はない。
※前の話の「あとがき」でかきました『悪魔の襲来』にてヤルダバオトの名を使い、腐敗している貴族や八本指の下位組織、そしてそれらの「お得意様」など(一般の市民などには手を出させていない)はさらって、牧場で「働いて」もらっている。
中でも私腹を肥し、私財をしこたま貯めこんでいた貴族などは全ての財を有効活用させてもらい(没収したとも言う)、丁重にお迎えし(恐怖公との対面など…)、
繁殖実験の恩恵にあずかってもらっている。(繁殖の相手は日替わりでお相手する種族は多岐(オークやオーガ、イノシシ型の獣人など…)にわたるらしい)
(時々、他国にも遠征して、トロールや、竜王国を攻めているビーストマンなども【支配の呪言】で支配し、連れて帰ってきたりしている。レアものの、ビーストマンの長などでレベル40以上の者が居たら、【ジュデッカの凍結】で凍らせて連れてきてもいいかも。などとも思っているらしい。)
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