第二章、帝国編

第09話 歩み寄る悲劇の前触れ

 

新しい章の始まり…ということで、帝国のとある街に帰り着いたフォーサイトのメンバーのその後を追ってみたいと思います。


ではどうぞ…。



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 ルーズィンタールでの彼女らの活動は早い。


 何しろ、昨日は街に戻ってくるのがずいぶんと夜遅くなってしまったからだ、街に入れても、開いているお店の類は、森へと出ていく前に最後に立ち寄った宿の入口だけ。


 


 あとは、主だったお店も領主の門も閉ざされていたのだ。


 


 …仕方なくその日は、早々に寝ようという流れになり、こうして朝を迎えてすぐ、依頼主である領主の元までやって来たのだ。


 


 


 ルーズィンタールの街周辺一帯を治める「カストクーズ候」彼はここのところ、ずっと大森林のことで頭を悩ませていた…そのため、わざわざ、成功報酬ではなく前金まで出して捜索にワーカーを雇って向かわせたのだ…森まで行くのに1日、捜索して1~2日だとして、街まで戻ってくるのに1日…としても、そろそろ帰ってきてもいいころだろう。


 そう思っていたところに、彼らは帰ってきた。


 


 待ちに待った「フォーサイト」だ。


 今回の調査で何の問題もないのであれば、森の浅い地域にまで入り、森の恵み、さらには木材なども手に入れて、流通の手助けの一つくらいにはなるかもしれない。


 安全だと分かれば、商人たちに情報を与え、この街の活性化に一役買ってくれれば言うことはない。

 問題があって、モンスターなどが住み着いているのであれば彼らが撃退してくれたはず…と、すでに頭の中では「安全な状態にして彼らが帰ってきた」ということにすり替わっている事にも気づいていないカストクーズ候は、来訪してきたワーカーチームを邸内に招き入れる。


 

                  ☆☆☆


 


 館の中に通され、応接室に案内されたフォーサイトは、領主が来る前に軽い雑談をしていた。


 


「例の彼」にもらった、総クリスタルで作られたグラス…というか、真ん中からスパッと切られたエールの小ジョッキ、その下半分に持ち手の部分を付けたような大きさの、見た目はぶ厚いコップのことについてだ。


 


「なぁ、成功報酬をもらった後で、ここの領主さまに、これ買い取ってもらうとかどうよ?」


 と軽い調子で言うリーダーに対し、基本的に「人」という種を全面的に信頼してるのは「母親」くらいのイミーナがこう返す。


 


「やめといたほうがいいんじゃない? 痛い腹を探られるくらいならいいけど、『もっと持ってるはず』とか思われて、尾行とかひったくられるのとか、そういうのは願い下げよ?」


 


「うん、あれは好意でくれたもの、勝手に売っていいものじゃないと思う。」


 そう言いながら「必要ないなら売っていい」と言われた品。本職の占術師でもこの大きさのを持ってるのはそうそういないだろうというくらいの水晶玉をもらってしまい、その扱いに悩むアルシェが答え…


 


「売り払いたいのなら、よほど、「ペアグラス」ということにして商人や、高級宿のお得意様用としてどうです?って感じで「貴方の鑑定眼を見込んで」って流れで買い取ってもらいに行くのが妥当でしょうね。」


 と、「その前に美術商や、高級な調度品などを扱ってるお店で価値を見てもらってから、にした方がいいでしょうけどね」と付け加えておくロバーデイク。


 


「やっぱり、その辺が妥当か…、ここの領主はどっちかっていうと、治安やら市民がどうの、ってより領地の経済が潤うかどうかって方向を重視してるみたいだしなぁ~」


 


 そう屋敷の天井を見上げながら、危ない橋はわたらないに限る、とチームの総意で方向はなんとなくそう決まった。


 


 


 


 そこに、領主であるカストクーズ候が応接室にメイド、執事とともに現れた。


 


「あぁ、今回はご苦労だったね、森の調査なんて雑用みたいなことをかの名高い「フォーサイト」の皆さんにさせてしまって、心苦しいと思っていたんだよ」


 と表面上は笑顔だが、あきらかに芝居がかった口調なのを隠せていない領主は、前置きをそこそこに本題に入る。


 


「で?…森の方はどうだったんだね? やっぱり巨人は居なくなっていたのかい?それとも一時的に住処を転々としてるだけなのか?」


 


「まぁ、自分らが見た範囲じゃ~影も形も、痕跡も見当たらなかったですね。」


(森で出会ったあの変なヤツのせいでろくに見られなかったけどな)


 


「今回私達が入った感じ限定で言えば、さほど森に脅威はなかったように思えます…かといって、いつ誰が入っても無事で出入りできるかっていう相談は難しいと思いますが…」


 


 


「…さすがに、毎回森に入るたびに、キミらに護衛をお願いしていては私の金庫が空になってしまうからな…」


 と言いつつ、メンバーを端から端まで、ず~~っと見ていきながら…内心でこう思っていた。(しかし、なんでこいつらはもっとこぉ…見栄えのいい、誰もが認めるようなキレイどころを置かんのだ!)


(さすがに蒼の薔薇とまでは言わないが、もう少し看板になる煌びやかなのは仲間に入れるべきだろう!)などと…


 


 ワーカー稼業のことを毛ほどもわかっていない第3者的な立場から勝手な感想を抱いていた。


(あの細っこいのは、見た目は悪くないが、もっとこぅ…スタイルにメリハリというものが…だしな)結局「ストンとしてるのが減点だ」…と勝手に評価をし…


(あのいつもみすぼらしい小さい方は、あと数年もすればそれなりにはなるんだろうか? 期待はできそうにないがな…)


 


 などと失礼なことを思っている領主の目の怪しさに気付いているのは女の勘で察しているイミーナだけだ。彼女は不快な思いをしているが、他のメンバーは気づいてないようだし…とわざわざ、事を荒立てることもないだろうと素知らぬふりをする。


 


「…それならば、空になる前に今回の報酬を受け取らせてもらわなければいけないのでしょうか?」


 と切り出すリーダーに対し


 


「あぁ~…そうだったね、すまんすまん、話に意識が行ってて、そちらの方を失念していたよ」


 とバレバレの芝居を披露する領主。


 


「おい!」と領主が手を叩き、メイドに指示すると、二つの革袋…おそらく礼金である今回の報酬が入っているのだろう、が…


(なんで2つなんだ)と一様に全員が疑問に思っていると、「報酬を渡す前に確認しておきたいことがあってね、もしその内容次第では追加も検討しなければいけないと思ってのことさ。」


 


(そういうことか…)


 とヘッケランが内心で舌打ちをする、要はこの期に及んで、値切ろうという腹積もりなのだ…(慎重に答える必要があるな。)


 


「今回、みんなの話を聞き、様子を見ているとどうやら大きな戦闘は起きなかったようだね。先程、『さほど脅威はなかったように思える』って言ってたようだしね」


 


 言葉尻をとられ「ぅ…」と小さく、メンバーらにしか聞こえない程度の呻きをロバ―はもらした。


 


「まぁ、でも森の中ですからねぇ~、改めて言うべきじゃないかと思いましたが、それなりなものには遭遇しましたよ?」とフォローする。


 


「それにしては、装備に汚れも傷も、損傷らしき損傷もないみたいだし、危険手当というほどのモノには出くわさなかったんじゃないか?」


 


(変なところで、鋭い目をもってやがる、そういうのを他の才能に使いやがれって…)と内心で毒づく中、領主は続けて、一枚の書類を広げ「フォーサイト」がついているテーブルの前に滑らせてきた。


 


「これに見覚えはあるね? ヘッケランくん?」イヤらしい笑みを浮かべるカストクーズ。


 


「あぁ、依頼の時に『口約束だとあとで問題が生じた場合、どっちも引けない状態になるのを防ぐため、でしたっけ?」


 


「そうそう、よく覚えているじゃないか、さすが名チームのリーダー様だ」と上機嫌な領主。


 


(このやろう、あからさまに小バカにしてきやがって)と表情には出さずに毒づく


 


「さて、この書類でも書いてあるように『危険なモンスターに遭遇し、戦闘になった場合、損傷や、被害に応じた分の報酬も上乗せすることとする』と書かれているのは覚えているよね?」


 


「あぁ~そんなことは言ってましたね…んで?それが?」普段はしないだろうが、ここでなめられたらワーカーの名折れだ、修羅場をくぐって来た者特有の眼光で領主をにらみつける。


 


多少、ひるみながらも「こ…今回は、その…森での危険もなかったということだったし、キミらも無事に帰ってきた、これは喜ばしいことだ。」


 


「だがさすがに、危険もなかったのに、危険だった時の上乗せ分を要求されても困る、正直、この街の経済も潤沢というわけではないのだよ、そ、それは理解してくれないかね?」と及び腰だ。


 


「まぁ、そりゃ~わからなくはないですが、そうなると、報酬は減額ってことですか?依頼は達成して戻ってきた私たちに話す内容として、妥当だと領主さまは判断されているので?」とまた剣呑な空気が漂う。


 


「イヤイヤ、正規の契約通りの金額は払うとも、前金が金貨50、成功報酬で100って話だったと思うが、それはお互いの認識に間違いはないかな?」すでにかなり顔色が悪くなってきている。


 


「そうですね、そういう話でしたが? 危険手当はない代わりにそれで我慢しろと?」と、座っていたソファーに思いっきり背中を倒れさせ、背もたれにのけぞったヘッケランに領主は遠慮がちに告げる。


 


「そこで、大変言いにくいんだが、今回はケガもなく、装備の修理をする必要もないみたいだから…成功報酬は、危険度が低かったことと、装備品を手入れする料金は浮くと考えて、成功報酬は90でどうだろう?」


 と、ちっちゃい値切りを言い出した。


(それでも、この世界の金貨一枚はリアル世界基準で言えば約10万だ、それが10金貨なら100万を値切ろうとしているのと同じ、実はちっちゃくないのである。)


 


 


「はぁぁ~~?」と思いっきり顔をゆがめ、顔を斜めに傾けて領主の顔面にこれでもかと近距離につめよる。


 


「あんた俺たちフォーサイトにケンカ売ってんの? 今値切ろうとしてる10金貨分で、そのケンカ、買わせてもらいましょうか?」ともぉすでに臨戦態勢に入る寸前のピリピリした状態だ。


 


「イヤイヤイヤ、それは困る、さすがにそれは早計だ、ヘッケランくん! 私の話は、10金貨をキミらから減らすことが全ての目的じゃないんだ、それなら革袋が2つの理由にならんだろ?」


 


「あぁ~ん? どういうこったよ?」少しいぶかし気に続きを促し、言ってみろとアゴをしゃくった。


 


「つまりは…だ、今回の前金50、成功報酬で90となれば合計で140、4人で割れば、一人頭35金貨でぴったりだろう? 150だったら割り切れないじゃないか?」


 


「そんなん銀貨にでもして、等分にすりゃいいんじゃねぇか?」と食い下がるヘッケラン。


 


(ここはリーダーとして、なめられたまま「ハイそうですか」と引くわけにいかねぇからなぁ~…)


 と少しウンザリもしてきたので、正直話を切り上げたかったがそうもいかない。ここで相手の要求を丸呑みしたら、その情報はどこでどう広まるか分かったものじゃない、これからのフォーサイト全体の問題にかかわってくるのだ。


 


 しばらく無言で話の成り行きを聴いていたロバーデイクが話に斬り込む「少しいいでしょうか? カストクーズ候。」


 


 そこで、救いの手かと表情を少し和らげたカストクーズにロバーデイクはこう告げる。「私も領主さまの言うことには正直、納得できません。ですが、先ほど話されていた『もう一つの革袋』の話がされていないのが気になって仕方ありません」


「それで、そっちの話を先にしていただけませんか? それに納得できるような内容があるようなら、その10金貨分を情報提供料と考えるのもやぶさかではありませんが?」


 

 


                  ☆☆☆


 



 話を総合するとこういうことだった、今、帝都の方で、ワーカーチームが複数集められていて、新しく発見された遺跡の探索を…というかなり大掛かりな問題が持ち上がっているそうだ。


 その遺跡は王国領にあるということで、汚れ仕事も抵抗なく依頼できるワーカーの面々に白羽の矢が立ったからこその、今回の話、という内容だった。


 


 初耳だったヘッケランたちは、さっきの話は一度、置いておくことにして、どんな内容かを検討する姿勢に入る。


 


 領主の話ではフォーサイトの面々もその話は、近いうちに伝わってくるはずだ、依頼を受ける受けないはキミら次第だろうが、もし受けるという話になったなら、一点でも二点でもいい、その遺跡で見つけたものの中から、ワーカーが冒険で使わないようなもの、美術的に価値がありそうなもの、余りものでも構わないから…ありていに言えば「こっちにちょっとおこぼれを」という話だった。


 


 もちろん、相場より高く買わせてもらう、ちゃんと専門の鑑定人も紹介するし、信用できないなら、フォーサイトのなじみの鑑定家に頼んで相場を調べてくれてかまわない、とのこと…。


 


 その出された相場より、モノによっては高く買い取らせてもらいたい!という話だった。


 


 フォーサイトの面々は、そういうことならと…、一度正規の成功報酬100金貨を受け取ったうえで、情報提供料として、領主に10金貨を支払った。


 


 その上で、もう一つの革袋の件はもう一度、帝都に戻ったフォーサイトにその話が届くかどうか…届いたなら、それを受けるか受けないかの判断をして、「その話」は検討する。 …と話して打ち切った。


 もし受けるという話になった時、今言われた「裏で横流しお願いね?」案件については、場所が王国領だということから、もし不利な立場になったら罪が軽くなるように口利きを頼み、色々と手を回してほしい。その協力関係になるという「契約金」ということで話をし、一応、その話も書類にしておいた、もちろん、別途の代金を払って、魔法で転写をしてもらい、自分用にも、証拠としてもらっておく。


 


 なので「もう一つの革袋」については、その遺跡に行くかどうかの方針が決まるまで待ってもらう、ということで、今回は話が付いた。


 


 


 


 まぁ、これで、どっちの面子も立ったし、悪い評価が出るわけじゃあるまい、と判断して宿屋で帰り支度を済ませ荷物をみんなが整えている中、アルシェはこっそりと、この街での「水晶玉」の価格を相場として見積もってもらっていた。


 …しかし<道具鑑定アプレイザルマジックアイテム>も<付与魔法探知ディテクトエンチャント>すらも使ってもらえず、思ったより安かったことにしょんぼりとしていた。


 


 そんな事情により、なぜかアルシェだけいつもより口数が少ない道中をすごしながら、一行は自分たちの拠点(ホーム)である帝都、アーウィンタールへの帰路に着くのであった。


 

「きっと帝都での鑑定屋ならば、変に鑑定料をケチったりしなければ正当な鑑定をしてくれるはず…」というわずかな望みを抱いて…。

 


                 


 

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