第43話 願い

それまで旅行らしい旅行をしてなかったのは意外だったね


(私はずっと待ち望んでたのよ)


「旅行?」


「うん、GW休みなんでしょ?来年、俺も働き出したら休みが合うかわからないじゃない?」


「確かに。私が不定休だからね。あ、新婚旅行はちゃんと考慮してくれるから大丈夫だって」


「それもそろそろ考えないといけないね。俺が落ち着いてからだと来年行けるか怪しいしね」


「う〜ん、新婚旅行は慌てなくてもいいかな?」


「そうなの?なっちゃんのことだから早く〜とか言いそうなのに」


(小さい子供みたいじゃない)


そんなとこもあるでしょ?


(も〜)


ほらね


「で、どこか行きたいところある?大学時代いろいろ旅行してたんでしょ?」


「基本は街歩きだったから泊りがけでってのは年に数回だったよ。でもせっかくだから旅行です!みたいな感じにしたいな」


「定番みたいな?」


「うん、例えば網走刑務所とか五稜郭とか」


「え?北海道行きたいの?」


「例えばの話。嵐山とか大仏とか」


「京都、奈良ね」


「京都大原三千院ね」


「恋に疲れたの?」


「全然!足りないくらい!仕事で疲れても恋に疲れはありません!明日は休み!仕事なし!早起きもしなくていいのよ」


「本当に疲れてない?なっちゃんの言葉にリズムを感じるのは俺だけかな?」


「うん?そうじゃない?」


「そっか、俺が疲れてるんだね」


「そ?じゃあ、はい」


「はい?まさかの膝枕?」


「うん、癒してあげるからこちらへどうぞ」


「じゃあ遠慮なく、よいしょっと」


「ちょっとはるくん。おやじくさくなるからよいしょっはやめようよ」


「あ〜、柔らかい。肌もスベスベ」


「こらっ、なにげにスカート捲り上げて素肌に寝転がらないの。えっち」


「あれ?ダメだった?こっちの方が気持ちいいもん」


「ふふふ。そう言ってくれるのはうれしいんだけどね、こっち向いちゃうとスカートの中まで見えちゃうでしょ」


「まあ、いまさらじゃない?どっちみち気持ちいいから寝ちゃいそうだし」


「仕方ないのでオプションで頭なでなでもつけてあげるよ」


「ん?ここは極楽だったみたい」


「千種区よ」


「あ〜、名東区に極楽ってところがあったってローカルな話題だね。じゃあ旅行は極楽?」


「ちなみに京都にも極楽町ってあるの知ってる?」


「じゃあ京都?」


「名東区はないけど京都はありだね。じゃあ明日本屋さんにでも行こうか?」


「了解、早起きしないからお昼からね」


「うん!じゃあさっそくお風呂入らなきゃ。一緒に入る?」


「それは遠慮しておきます」


「照れ屋さんなんだから」


♢♢♢♢♢


「ん〜?今からだと新幹線も飛行機も予約いっぱいだろうね」


「もう1週間前だからね、ホテルだって厳しいよ」


「そこは最悪、インター付近のホテルで探すとか?」


「最悪ね?あくまでも最終手段だからね?」


「高速も混むだろうし、どうする?」


「じゃあさ、下道で京都あたりは?夜中に出れば朝には現地に着いてるよ」


「京都か〜、うん。そうしよう。旅館はやっぱり厳しそうだけど会社の人にも相談してみるよ」


「そこはなっちゃんコネクションだね」


「任せといて!カップルに評判のいいホテル探しておくから!」


「それ、普通の旅館かな?」


♢♢♢♢♢


「ねぇ、高速じゃないんだよね?」


「今は違うよ。元々は高速だったんだけど無料化されたんだって。信号もないから快適でしょ?」


「だからってスピード出しすぎないようにね?」


「わかってるよ。スピードは控え目に、休憩は適度に」


「はい、よろしい」


(休憩は大事なのよ?)


気分が良いと忘れちゃうんだよね


「ふんふふ ふんふふ ふんふふ ふんふ〜」


「なっちゃんご機嫌だね」


「ふふ〜ん。鼻歌まで歌っちゃった」


「それってローカルCMのテーマソングでしょ?」


「そう!よく知ってるね」


「うん、たしか京都に行こうってやつね」


「うん?」


「僕たちが行くのは?」


「……奈良だね」


旅館が取れなかったんだよね


(うん、インター付近のホテルでもよかったのに)


「だね。鹿に体当たりされないようにね」


「セントくんに会うんだもん」


♢♢♢♢♢


「着いた〜」


「はるくん運転お疲れ様」


「全然大丈夫だよ。で、1番来たかったのが春日大社なの?」


「うん。正確には末社の夫婦大國社だけどね」


「夫婦?」


「縁結びと夫婦円満の神徳があるんだって」


「縁結びはいまさらだし夫婦円満はまだ少し早くない?」


「も〜!そういうこと言わないの!ほらほら!早くお参りに行くよ」


「慌てなくてもまだ時間大丈夫だから」



「しゃもじ?」


「うん、これに願いを書くと叶えてくれるんだって。2人で書かない?」


「いいよ。夫婦円満?」


「う〜ん?それは願う必要ないかな?」


「かもね。じゃあ家内安全とか?」


「ありきたりじゃない?え〜っとね……、あっ!一姫二太郎は?」


「言わんとすることはわかるけどお願いとしてはどうなの?」


「いいんじゃない?子供は2人欲しいし。最初は女の子がいいもん」


「あ〜、確かにはじめは女の子の方が育てやすいって言うね」


「でしょ?大きくなったら恋バナするのが夢なの」


「それは楽しみだね。俺は混ぜてくれないの?」


「女の子だけの秘密よ」


「ぜひ2人目は男の子をお願いします。じゃないと俺だけ仲間外れになっちゃう」


「娘カップルと息子カップルとでトリプルデートとかしたいね」


「それ、絶対嫌がられると思うよ」


「小さい頃から擦り込んでおけば大丈夫よ」


「洗脳しないでよ?」


「違うもん。認識の共有だもん」


「まあ、そういうことにしておこうね」


♢♢♢♢♢


「お待たせ」


「いや、待ってないよって。一緒に部屋出ればよかったんじゃない?」


「デート感が欲しかったのよ」


「そっか。じゃあしょうがないね」


「そういうこと。さて、何食べようか?」


「えっ?さっき晩ご飯食べたばかりだよ?」


「せっかく来たんだから食べ歩きしなきゃ!みたいな?」


「みたいなって」


「あっ!はるくん。ジェラート!鹿が乗ったジェラートがあるよ」


「鹿だね。これくらいなら食べれるかな」


「違うの選んでシェアしようね」


あなたはラズベリーとレモンを頼み


(きみは抹茶とミルクを頼んだ)

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