第15話 朝珈琲

「おはよう、なっちゃん」


「おはよう、はるくん」


(初めて2人で迎える朝って恥ずかしいね)


なんとなくね


「いつから起きてたの?」


「ん?30分前くらいからかな?はるくんの寝顔見てた」


「趣味悪いよ」


「ん?可愛かったよ?」


「うれしくない」


「なんでよ。そんなこと言うと鼻摘んじゃうって、キャッ!服着てなかった」


「ぷぷぷ。腕上げた瞬間に捲れた布団から見えたよ?」


「えっち」


言いがかりだよね


(見たほうが悪いのよ)


男の性だよね


「う〜っん!はるくん今日は1限から?」


「ちょっと確認してみる。

う〜ん?午前中休講になってる。

昼からだね。」


「え〜!いいな〜、私なんて1限からしっかりあるよ?」


1、2年で頑張れば良かったのに


(4年間でバランスよく取りたかったのよ)


「3年なのにね、就活大丈夫?」


「まあ、そこはね。それよりはるくん。朝食作るからその間に準備しておいて」


「了解」


♢♢♢♢♢


「なっちゃん、今日バイトでしょ?」


「うん、いつも通り20時には終わるよ。はるくんもバイトだよね?」


「いや、今日休みになったんだ。で、バイトの先輩に飯誘われてるんだけどいいかな?」


少しずつ交友関係ができてきたんだ


(うん。友達は大事だからね)


「えっ〜!そうなの?折角だから行ってきなよ」


「うん。じゃあお言葉に甘えて」


「う、うん。ちなみにはるくん。その先輩って男の人だよね?」


「……どうだろうね〜」


(意地悪だよね)


そんなことないよ


(私の反応見て楽しんでるもん)


バレたか


「あ〜!浮気—」


「するわけないじゃん」


「……だね。ごめん」


「謝らないでよ。それと浮気なんて絶対にあり得ないから。もちろん先輩は男だよ」


あなたは意外と


(ヤキモチ屋さん)


だよね


(信用はしてるんだよ?)


「ねぇ、はるく—」


「21時には帰ってくるから」


「……キス魔だ」


「なっちゃんのせいでね」


「ふふふ。いいでしょ?」


「まあ、ね。じゃあまた夜ね」


「うん。気をつけてね」


♢♢♢♢♢


「古川くん!」


「雨宮先輩、こんにちは」


「なつから聞いたよ〜、付き合ってるんだってね?あんなんだけど見捨てないであげてね」


「どんなんよ?」


「あ、あれ?なつ、いたの?」


いつも一緒にいたよね


(一緒に時間割きめたからね)


「全く、油断も隙もないんだから。私のはるくんに変なこと吹き込まないでよ?」


「へぇ〜。私のね?まさかの束縛系かな?でもなつは真面目だから浮気とかの心配はないよ。親友として太鼓判押してあげるから」


「まあ、それは心配してませんよ。お互いそれをわかってるから付き合い出したんですから」


(そうだよね)


当たり前の


最低条件


(難しいことは何もないよ)


普通はね


「うん、幼馴染だしね。なつが飲み会こなくなるほど一緒にいたんだしね。よくわかってるね、


「ちょっと待って由季。はるくん呼びは禁止です」


「真っ赤な顔してかわいいわね。仕方ない春斗くんって呼ばせてもらってもいいかな?」


「俺は構いませんよ」


(私だけの呼び方なのよ)


かわいいね


(からかわないの)


「私のことも由季ちゃんって呼んでくれていいからね」


「うぅん!由季?」


「ありがとうございます。


「これはこれはご馳走さま。じゃあ邪魔者は退散するわね。またね春斗くん」


「またなっちゃんとモーニングに行きますね」


「待ってる」


(デート?)


あなたと出かけるときはいつもデートだったんだろうね


(きみといるのはいつも特別だからね)


「私と一緒に?」


「もちろん。モーニング行く時間に会う人なんてなっちゃんくらいしかいないでしょ?」


「ふふふ。朝にバイバイだもんね」


「何その含みのある言い方」


「別に?ねぇ、今日は夜食いる、かな?」


あなたが欲しかったんだよね?


(……否定しないけど、お互いさまだよね?)


だね


「……おいしくいただきますよ」


「……うん。待ってるからね」


♢♢♢♢♢


「私、名古屋で就職しようと思ってるんだけど」


美容学校に通っている秋穂は就活の最中、母に相談を持ちかけた。


「なんで?」


「自立したいから。就職したら家を出るのは前から決めてたんだ。名古屋ならお姉ちゃんもいるし一緒に住めば家賃も抑えれるでしょ?」


「あんた、それを自立って言う?夏希だって1年後には就職でどうなるかわからないんだよ?それに本当は冬馬くんのとこに行くつもりでしょ?」


「なんだ知ってたんだ。じゃあ話は早いや」


冬馬と連絡が取れなくなり半年以上も経つのに、秋穂は自分が捨てられたという意識がない。


「全く。男追っかけて行くなんてバカな子だね。夏希には話したの?」


「お姉ちゃん?まだだけど家のお金で一人暮らししてるんだから文句は言えないでしょ」


「まずはお父さんに相談してみなさい。ちゃんと理由も言うんだよ」


「わかった」


秋穂は自室に戻るとPCを起動し、求人情報のサイトを開いた。


「募集は結構あるか。問題はどこにするかね。冬馬くんの赴任先が豊橋ってところだからお姉ちゃんのところから通うと—。結構離れてるんだ。往復3時間でひと月の通勤費が26000円かぁ。全額負担してくれるお店はないだろうな」


美容師の初任給が平均22万円。そこから税金などが引かれ手元に残る金額は知れている。


「職場はお姉ちゃん家の側にして、冬馬くんと会うときだけ行けばいいか」


秋穂には冬馬との新しい生活を疑う余地などいっさいなかった。

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