第41話 『もう、かけてこないでくれたまえ。』
『もう、かけてこないでくれたまえ。』
晋との電話の後、武城家に電話するも…メイド服のばーさんの二度にわたる取次も空しく。
るーは電話口に出てくれず、代わりに親父さんが電話に出て。
最後にピシャリと…そう言われた。
受話器を持ったまま、返事も出来んまま立ち尽くしとると。
『もしもし、朝霧さん?』
メイド服のばーさんの声が聞こえた。
「…はい…」
『ああ、良かった。まだ切ってなくて。』
「…色々ご心配かけてすみません。」
目の前やないのに、ペコリと頭を下げる。
電話相手が、るーと同じ家におる人やと思うだけで、何となく元気がもらえる気がした。
「俺、ホンマにダメな奴です。会いに来てくれた彼女の事、また傷付けて…でも、俺の気持ちは変わってないし、諦めるつもりもありません。」
背筋を伸ばして言い切る。
せや。
諦めるわけにはいかん。
俺がここまで頑張ってるんは…俺のためでもあるけど、るーのためや。
弁解させてもらえへんなら、その分…結果を求めなあかん。
それが、どんなに分の悪い事やとしても…
『それを聞いて安心しました。旦那様はああ仰ったけど、昔の自分を見ているようで少し期待してらっしゃるはずですよ。』
「え…?」
『ですから、ここで挫けず、どうか頑張って下さいましね。』
「…ありがとうございます!!」
思い出の中のメイド服ばーさんを思い浮かべて。
もう一度、深々と頭を下げる。
俺は…何があっても諦めへん。
絶対に…
「…よーし…」
俺は腕まくりをすると、ピアノスタジオに向かう。
今日は昼前から事務所に行けばええし…それまでピアノの練習しよ。
英雄ポロネーズの楽譜を手に、スタジオに入る。
何回も赤ペンで色々書き込み過ぎて、この楽譜は三冊目や。
俺の職業はロックバンドのギタリスト。
別にピアノなんて弾けんくてええんや。
けど…これは男として。
俺の人生を懸けて。
どうしても、やり遂げなあかん事なんや。
「タタタタ……っ…あっ、くそっ…やっぱここやな…」
いつも最初の四度連続でもたついてまう。
途中で指使いがぐっちゃになるんや…
「ナタリーは、ここでこう…」
必死で練習しながら。
るーの親父さんの事を考えた。
一人娘の武城桐子と結婚したくて、『英雄ポロネーズ』を弾いた。
…同士やん。
今は世界的指揮者として有名な方やけど。
聞く所によると、親父さんもピアノは素人やったらしい。
相当な練習量やったに違いない。
けど、言い換えたら…練習すれば、弾けるようになるねん。
…もしかしたら、ピアノより世界の朝霧真音になる方が先やろって言われるかもしれへん。
けど…それじゃ、あかんねや。
「…丹野 廉…」
強力なライバルの出現に。
俺は…
今まで以上に闘志を燃やした。
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