第21話 『やっぱナッキーは英語やなあ』
『やっぱナッキーは英語やなあ』
俺がそう言うと、客席はドッと盛り上がった。
陽世里の結婚式から一週間。
俺らDeep Redは、ダリアで二回目のワンマンライヴ。
そこで、ナッキーは陽世里と頼子ちゃんに捧げた祝いのラヴソングを歌うたんやけど…
やっぱ、日本語歌詞、違和感やなあ。
『おまえ…俺が気にしてる事、堂々と言いやがって』
『え?気にしてるん?』
『初の日本語歌詞だぜ?反応どうかなって思ってたのに、まさかの身内からNGくらうとか…』
『俺はいいと思うけどなあ』
『ナオト、笑ってる。説得力ない』
あはは、て。
客席が笑顔まみれんなる。
今日もDeep Redは絶好調。
客も地道なカセットテープ販売で曲を覚えてくれてるみたいで、キャッチーなサビは大合唱になる事もしばしば。
気持ちええな~。て思うけど…
あー…
るーが来てくれてたらなー…
もっと張り切ったんやけど…
今日はおかんのリサイタルとか言うて、でっかいホールに行ってるらしい。
…すげーおかんやな…
俺らがまだダリアなのに対して…
るーのおかん…
何千人収容のホールって。
『おっしゃ、次の曲行くで』
ナッキーの日本語歌詞について語るナオトを遮って言うと。
『マノン、早い』
『若いからな』
『早すぎるのはイケてないぜ』
次々とそんな事を言われた。
『はよないって』
『せっかちそうだよな』
『言えてる』
『うっさーい!!』
ああ…るーが来てなくて良かった。
こんなん聞かされへんわ!!
ナオトが鍵盤に指を滑らす。
クラッシックやん。て聴き惚れてるとこに、リズム隊が入って激しさを増したとこで…
「………」
俺のギターとナッキーのシャウトが入る。
いつもここで鳥肌や。
ナッキーって、ホンマ…なんでこんなとこで歌ってるんやろって思う。
ま、俺もやけど。
あー…はよデビューして世界行きたいなあ…
「お疲れ様。」
ライヴの後、翔さんがニコニコしながら駆け寄って来た。
「お疲れっした。」
「良かったよ。ナッキーの日本語も新鮮だった。」
「笑うてますやん。」
「ははっ。」
俺と翔さんの会話が聞こえたんか、ナッキーは目を細めて何とも言えん笑顔。
「客の入りも良かったし…そろそろもう一回り大きいハコに行ったらどうだ?」
シールドを綺麗にまとめてるとこに、そう言われて。
しゃがみかけてた俺は、すっと立ち上がると。
「俺ら、ダリアから世界へって決めてる言うたやないですか。」
真顔で言うた。
ナッキーとナオトにスカウトされて、俺がこっちに来て初めて出たライヴハウスが、ここ。
ダリア。
音もええし、スタッフもええし、客のマナーもええ。
それはマスターの翔さんの人柄でもあるし、徹底してバンドを育てようとしてくれてる姿勢に、バンドマン皆が惚れてるからや。
俺らが、売れるためにって始めたカセットテープ販売も、ライヴのたびにかなり宣伝もしてくれはった。
おかげでいつも完売。
そんなん…よそでライヴなんて出来んわ。
「…それは嬉しいけど、俺としては大きいハコでやってるDeep Redも観たいんだよ。」
腕組みをした翔さんの表情が、何とも…なんちゅーか…かんがいぶかいってやつ?
そんな風に言われたら…なんや泣きそうなるやん…て、泣かんけど。
「翔さんには悪いけど、それは無理や。俺、絶対ここで花咲かせて世界へ行く。」
俺が真顔で言うてるのに。
「ダリアだけに。」
ゼブラが自分で言うてウケて…ミツグを凍えさせた。
俺の本気を茶化すなやー!!
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