第15話 「おーう。みんな、調子どや?」
「おーう。みんな、調子どや?」
夕べスタジオで張り切り過ぎて。
今日、起きたら九時半やった。
浮かれた気分でガッコ来たら、体育。
普段なら途中からなんて絶対サボるに決まってるんやけど。
俺は鼻歌交じりに途中から出席した。
「…朝霧が体育出るとか…」
「おっ、なんや。その珍しいもん見たゆー目はっ。」
「うはっ!!ばっ…やめっ…!!」
クラスメイトの耳に息を吹きかける。
「おーい。遅刻して来て騒ぐな。」
「おっ。先生。遅れてすんませんっ。」
敬礼ポーズで先生に謝る。
もう、何でも出来るで俺は。
「…朝霧が素直だ…」
先生までが怖いもん見たような顔してそっぽ向く。
なんでやねん。
「今日は100mのタイム計るぞ。」
「はいっ。」
「…朝霧、出席順番に並べ。」
「あー、そっか。俺一番やんー。」
人をかき分けて一番前へ行く。
どうやら二人ずつ走るようで、二番の伊藤の隣に並んで。
「伊藤ちゃん、よろしゅうな!!」
両手で伊藤の右手を握って、ぶんぶん振り回した。
「なっ…何だよおまえ…今日おかしいぞ…?」
怯えた伊藤の肩を抱き寄せて、真顔で見つめる。
「おかしい?おかしゅうないって…俺は……」
「……ぶっ…バカ!!」
「うーん…俺の真顔、イケてないんか…」
「真顔で迫るから照れてんだろーが!!」
真っ赤になった伊藤が俺から離れると。
「あははは。朝霧、伊藤にフラれた。」
「伊藤、かまってやれよー。」
みんなが伊藤をからこうた。
いや、別に伊藤にかまってもらわんでええけど…
「んじゃ、おまえら朝霧に真顔で迫られてみろって!!」
「なんやそれー。伊藤、頭おかしー。」
「おまえが言うなー!!」
ああああ…なんやろ~…楽しいなあ…
幸せや~…
「おいっ、もういい加減にしろ。朝霧、準備体操しておけ。」
「ういーっす。」
手足ぷらぷら…
アキレス腱伸ばし…
足首ぐるぐる…
…なんで女子って、あんなええ匂いすんやろ…
いや、女子いうか、るーが…やな…
やーらかかったな~…
もちーと抱きしめときたかったな~…
「…ふふふ……ふふふふ…」
「……」
「……はっ。」
気が付いたら、みんなが俺を囲んどる。
「…マノン、彼女でも出来た?」
群れの中からそう問うてくれたのは、陽世里や…!!
よくぞ聞いてくれたな!!
言いたくて仕方なかったんや――――!!
「…お…っ、分かるか?」
小さく答えると、陽世里は目を細めて何とも言えん顔をしたが。
周りは…
「は?朝霧、ずっと彼女いたんだろ?」
「もはや女が出来たぐらいじゃ浮かれもしないクセに…」
「金か?」
「まさかクスリなんてやっ」
「ええーい!!何やおまえらー!!」
言いたい放題やないか!!
「めっちゃ好きな子できたんやって!!めっちゃ可愛いねん!!俺、生まれて初めて告白してん!!そしたらその子が俺と付き合うてくれる事になったんや!!神様―――!!」
指を組んで跪く。
口に出すと幸せがより一層大きくなって、もう誰にも止められへん……
「それは幸せで何より。しかし今は体育の授業中だっ。バカたれっ。」
先生が跪いとる俺の頭を、出席簿でパコッと叩いた。
「え~、先生。もうちと語らせてぇな。」
先生の背中から抱き着いて言うと。
先生は顔をしかめて俺を振り返って。
「いいから早く走れ。伊藤、ゴールに着いたら朝霧の惚気を聞いてやれ。」
早口に言うた。
「よっしゃ!!伊藤、はよ走って、あっちで俺のか…か…かの…」
ああ…何でや…
『彼女』て言いたいだけやのに…言葉に出来へん…
そ…それだけ…神聖っちゅう事やな…
「もう、何だよ…こんな朝霧見たかねーよ…」
伊藤がグチグチ言いながら、スタートラインに立つ。
「位置に着いて。よーい。」
ピー
なんや。
パーン。やないんか。
ホイッスルのピーと同時に伊藤が駆け出す。
俺は、ちーとばかし遅れてもた。
あー…風が気持ちええなあ…
何やろ…これ…ホンマ…
「おいっ!!朝霧ー!!どこまで行くんだよっ!!」
気が付いたらゴール過ぎてて。
行き過ぎた分をスキップして戻ってると。
「…重症だな…」
伊藤が座り込みながらつぶやいた。
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ほんと、お花畑だ(笑)
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