いつか出逢ったあなた 49th
ヒカリ
第1話 「全員揃ったかな?」
「全員揃ったかな?」
ライヴハウス『ダリア』の控室は、出演者とスタッフでぎゅうぎゅうや。
俺は腰の高さの椅子に軽く座ったまま、マスターの
「今日は久しぶりに5バンドっていう大所帯。転換はスムーズに、持ち時間はちゃんと守る。貴重品管理は各自徹底する事。マナーの守れないバンドは、出禁にするからね。」
「はい。」
「ういーっす。」
いきがっとるバンドマンばっかやけど、翔さんの言う事は絶対や思うとる所は皆一緒。
フロアにおる面々は、怠そうにしながらも翔さんに注目しとる。
それにしても…俺みたいに学生やけど長髪なんは貴重かなー思うてたけど、結構おるもんやな。
あそこの隅っこにおるバンド、学生ばっかや言うてたよな。
長髪ばっかやん。
1、2、3…
「マノン、聞いてるか?」
長髪を数えとるとこに、翔さんから声がとぶ。
「あ、はいっ。聞いてまっせ。」
「みんな知ってるとは思うけど、こいつがDeep Redのマノンな。」
質問に笑顔で答えとるとこに、翔さんにガシッと肩を抱き寄せられる。
途端に『あいつか…』とか『リハ、大した事なかったよな…』とか…
小声のつもりか?
聞こえてるで。
「あ~、女にならされたいやつやんか~。」
翔さんにそう言うと。
「こいつっ。」
「あたっ。」
軽く頭突きされてもうた。
「さ、みんな今日はいいライヴにしような。よろしく。」
その言葉に全員が頷いて、それと同時に俺も翔さんから解放された。
俺の名前は、
Deep Redっちゅうハードロックバンドのギタリストや。
俺らDeep Redは、ここダリアでしかライヴ経験がない。
まあ、俺はこっから一気にでかい所で演るつもりやねんけど、まだ機が熟してない。
…何なんやろ。
プロんなる。て、めっちゃその気しか持たずに引っ越して。
学校(あ、俺18…高三)行くのは面倒くさー思うけど。
まあ…女事情も選り取り見取りやし、ギター弾くのんも相変わらず楽しいし…充実…してる。
…けど、何かが足りひん。
四人兄弟の末っ子の俺は、ほどほどに放任されて、ほどほどに期待されて、家族全員からほどほどに愛されて育った。
…けど、親父だけは違うてた。
親父だけはー…溺愛に近かった思う。
『まー坊、はよ有名んなって、父ちゃんに自慢させてくれ』
…口癖みたく言うてたのに…
親父は、一年半前…ポックリ死んだ。
約束果たす前に死ぬとか、詐欺やんな…
…あれからや。
あれから、何に対しても…熱が足りひん気がする。
…ファザコンやったんかもなぁ…俺。
「5バンドの対バンって久々だな。」
「俺らのリハん時、トリのバンドがライバル意識むき出しっぽい顔して見てたぜ。」
「あ、見た見た。ま、光栄でしかないね。」
「あんま煽んなよ?」
出番まで時間あるし、出掛けてもええんやけど…
俺はメンバーのナッキー、ナオト、ミツグ、ゼブラとで、カウンターでコーヒーを飲んだ。
ここはカッコ良くアルコール…といきたい所やけど…
俺、未成年やしな~。
メンバーはみんな俺より二つ年上で。
ベースのゼブラ、ドラムのミツグは安心出来るリズム隊。
ボーカルのナッキーはハーフで、その見た目で、女のファンも多いし…
俺が今まで聴いたボーカリストの中でもピカイチや。
その実力ゆえ、男のファンも多い。
キーボーディストのナオトは、初見でバリバリに弾けるツワモノ。
クラシック畑におった言うんやから…若干、畑間違え過ぎちゃうか?思うけど…
俺をスカウトしてくれたのは、ナッキーとナオト。
…あの日の事は、マジで一生忘れられへん。
「さすが5バンドともなると、客多いな。」
ナオトが完全スタンディングの客席を振り返って言うた。
もう、ほぼ大入りや。
「…トップのバンド初めてやし、ちと前で観て来るわ。」
俺が立ち上がると。
「客を控室に連れ込むなよ?」
ミツグにニヤニヤしながら言われた。
「そんなんするか、アホ。」
「説得力に欠けるのはなぜかな…」
「せえへんてば。」
…特定の女は…いつから作ってないやろ。
今は割り切って寝れる相手がおればええって思う。
…その相手も…ホンマは選ばんとあかんって…思うんやけど…
ガシッ
「……」
いきなり、シャツの袖を引っ張られた。
「ね…ねえ、
…ヨリコ?
「あたし、ちょっと派手じゃないかな…こんな格好した事ないから、すごく抵抗あるんだけど…」
「……」
俺を『ヨリコ』と間違えてるんか…
赤いTシャツにポニーテールの女が、困ったような顔してつぶやく。
…ふむ。
デニムのミニスカート。
穿き慣れてへんのか、ちと恥ずかしそうな内股。
けどー…
「…似合う思うけど?」
シャツ掴まれたままやし、聞かれた事に対して返事しとこ。思うてそう言うと。
「……」
女は口を開けて俺を見上げた。
…真ん丸い目やなあ。
おっ、固まってるで。
「ん?大丈夫?」
「……」
真ん丸い目で、口も開きっぱで。
…大丈夫か?この女…
薄暗いし、よう見えへんな思って、少し顔を覗き込む。
…うん。
素材は悪うないけど…赤い口紅は無理があるなあ。
ついでに赤いTシャツも。
淡い色の方が似合うんちゃうかな。
心の中ではそう思いながら。
「気にせんでええよ。赤、似合うてるし。」
少し笑うて言うてみる。
「……」
「……」
…無反応。
おかしいなあ。
俺の『ニコッ』に、落ちん女、いてるんや。
まあ…ちょっと今まで俺の周りにいた女とはタイプ違うし…
「…あー…これは?」
掴まれたまんまのシャツを指差して言うと。
「ああああああ!!!!」
女はさらに目を見開いて。
「ごごごごごめんなさい!!」
すごい勢いで、ダッシュした。
「あ、ちょ……………」
後ろ姿に声かけ…かけたけど、無理やった。
「…行ってもうた…」
ポリポリと頭をかいて、唇をとんがらかす。
ま、あとで上から見てみよか。
赤いTシャツにポニーテール、な。
間もなくライヴが始まって。
俺らの出番の時、ステージから赤いTシャツを探したけど。
見える範囲には、見当たらんへんかった。
…ライヴ見に来たんやないんか?
俺のシャツを引っ張って真ん丸い目で俺を見上げた、名前も知らん女の事が。
ライヴ中…ずーーーっと、気になって仕方なかった。
…言うとくけど。
好みとちゃうで。
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