はめるのロマン
ハル・トート
第1話 はめられた!
「女神さん、オレ、つくづく思うことがあるんだけどさ」
「どうした?」
「お台場って思ったより、人、少ないよね」
映画館からエレベーターで上がり外へと続く扉を抜けたすぐ先に、かおはめパネルの女神先輩とガンダム君は設置されていた。パネルの先にはレインボーブリッジを臨むという中々のロケーションである。
「まあ、平日の昼間だしな。こんなもんだろ」
実際、ガンダム君の指摘する通り、平日のお台場は想像以上に人が少ない。
彼らの前を通る人間は2〜3分に1人、彼らをチラ見する人は5人に1人、彼らにはめるのは……。
「オレ、なんて言われてここに連れてこられたか、女神さんにも言ったよね」
ガンダム君は尖らせる口もなく、微動だにできない体を一生懸命捻り、そっぽを向こうとする。
「いや、言ってないと思うけど」
「オレが聞かされたのは、スタバのフラペチーノ持ったJKが長蛇の列を作って、朝から晩までひっきりなしにハメられて、さらにはメンテナンスなんて、1日に3回入って。すげえ最高の環境、かおはめパネル界の聖地くらいに聞いてたのに。実際はさ、たまに、小さい子供と、それだったらいいんだけど、おっさん率爆高だし、JKなんて滅多にこないし。その上、メンテナンスなんて、1日1回どころか、週1くらいでシフト組んでる怠けたバイトがおしぼり持ってくるけどさ、拭いてんのか拭いてないのか分かんないくらいの絶妙な力だし、オレたちに『ちょっと隠れさせて』とか言ってスマホいじってるからな」
「まあ、バイトの方は激しく同意するけど、オレの方はおっさんそんな来ないからな。JKもまあ、割合的にはそこそこハマってる感じだし」
そんなことを話してる間に、大学生のカップルがはめに来た。平日の昼に高校生以下は来ないから、大学生カップルだとまあ、当たりの部類だ。ちなみに、どのかおはめパネルの個体もそうだと思うけど、嫌なのは、ふざけたノリの大学生(男)とおっさん。
そして、ガンダム君はおっさん率が高い(笑)
「また、女神さんの方に女っすよ。カップルで来たとき、いつもオレの方に男が回ってくるのなんとかならないんっすかね」
「役割的に無理なんじゃね?」
自由の女神のかおはめパネルとガンダムのかおはめパネルが並んでいる以上、男女で来たなら、ガンダムの方が男なのは、それはもう必然であった。
「はあー」とガンダム君はいつものように深いため息を漏らした。
今日はお昼の12時の時点で、女神様にはめた人は4人、ガンダム君にはめたの人は3人。お台場でこの人数は少ないように感じるかもしれないが、案外悪くないペースだったりする。
「やっぱ、今のベスポジはアキバなのかな」
ガンダム君が言った。
「いや、今の顔ハメ界隈、どこも下火でしょ」
「そうだよなー。てかさ、オレらに盛り上がってる時期とかあった?」
「さあー。てか、アキバの方が、汚いおっさん率は高いと思うぞ。それこそあれみたいな」
女神様の言うあれを発見したとき、ガンダム君は全身に鳥肌が立ったのを感じた。汚い顎髭と黄ばんだ歯をたたえたおっさんがのったりと彼らの方に歩みを進めていた。
「えっ、ちょっ、いや、女神さん、あのおっさんこっち見てない? なんかオレ、目と目が合った気がしたんだけど」
「お前、目はないけどな」
「いやいや、ちょっと待って、えっ、こっちに一直線に歩いてきてない? オレ、あのおっさんだけはまじで、生理的に無理なんだけど。あの髭と臭そうな口だけはまじで無理だって!」
「南無三」
「えっ、女神さんの方行ってる? 違うよね、絶対こっちだよね。完全にオレだよね。オレロックオンだよね。うわ、え、まじ、どうしよ。え、くるの? きちゃうの? ねえ、考えなおそうよ。お願いだから。いや、え、くる、くるっ! くるー。うわあああああああああ、あ」
……ハメられた!!
ジョリジョリ、ジョリジョリ……。
はあはあ、はあはあ……。
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