第44話 ラーメンショップで
制服を受け取った俺は薫と一緒にさっきまでいた商店街に戻って来る。
「なぁ、薫は何か食べたい物あるか?」
「特に無いわよ。純一は何かないの?」
俺も特に食べたいものは無いんだよね。
この場から見えるのはチェーン店のラーメンショップとファミレス。
他にも店はあるだろうが、探すのもめんどいしな。
「俺も特に無いんだよね。ラーメンとファミレスどっちがいい?」
「その二択なのね。すぐそこのラーメンでいいわよ」
「良し、決定! 行くか!」
薫とすぐそこのラーメン店に入る。
「いらっしゃいませー! 二名様ですか!」
店内に入ると若い女性が出迎えてくれる。
アルバイトの子だろうか? ハキハキしていて、元気っ子って感じだ。
「そうです」
「こちらにどうぞー」
案内された俺達は奥のボックス席に向かい合って座る。
「水とお茶はセルフなのであちらからご自由にお取りください。メニューが決まりましたらコールボタンでお呼びください」
元気っ子は厨房に戻っていくが、何やらそわそわしている。
「何にする?」
「純一と同じでいいわよ」
「そうか。じゃぁ、この大盛り野菜ラーメンに餃子とチャーハンセットだな」
「ちょっと待って。やっぱり同じのはやめるわ。普通盛りの味噌ラーメンで」
「なんだ、それしか食べないのか? 足りるか?」
「十分よ。純一が食べ過ぎだと思うのだけど……」
「じゃ、呼ぶぞ」
コールボタンを押そうと思ったが、ふと厨房が目に入る。
何やらスタッフが数人集まってじゃんけんしている。
一体何のじゃんけんだ? あ、さっきの子は負けたみたいでものすごい悔しがってる。
コールボタンを押すとじゃんけんに勝ったスタッフがオーダーを取りに来る。
「お決まりですか!」
さっき決めたオーダーを話す。
すると女性のスタッフが急に俺の方を見て顔を近づけてくる。
相変わらず、こちらの女性陣は接近戦が好きですね……。
「だ、男性のお客様にはデザートのサービスがありますが!」
「じゃ、じゃあそれも……」
「ありがとうござます!」
いったい何だったんだ……。
さて、オーダーが来る前に水でも取りに行くか。
「薫。水とお茶、どっちがいい?」
「私はお茶だけど、私が取りに行くわよ」
「なんでだよ。俺が行くからいいよ」
「待って。ここで私が行かないと、世間的にまずいのよ。私が行くわ」
「そ、そうか……。じゃぁ、俺は水で」
何だかやりにくいな。水位男が取りに行ってもいいだろう。
薫が席に戻って数分、オーダーが来る。
「お待たせしました!」
目の前には熱々ラーメンに餃子にチャーハン。
おう、思ったより多いな……。
「それ、本当に全部食べられるの?」
「多分……」
半分位食べたところで、何となく嫌な予感が。
ちょっと多いかな?
「薫! チャーハン好き?」
「まぁ、好きだけど」
「少しやるよ!」
俺はスプーンにチャーハンを乗せ薫の口元に差し出す。
「ほら、あーんして」
急に薫が赤面し、手に持っていた箸をテーブルに落す。
「あ、あんた! 何してるのよ! は、恥ずかしくないの!」
「あ、またあんたって言った。はい残念。口空けて」
「そ、それは、でも、他のみんなの目が……」
「そんなこと気にするなよ。ほら、冷めるだろ」
薫は目を閉じ口を開ける。
俺はそのまま薫の口にスプーンを入れる。
「んっ……。熱いわね、でもおいひいわ」
すかさず俺はもう一口薫に。
今度は少しふーふーして冷ましてあげる。
「あふ。うん、おいひいわね」
もぐもぐしている薫はちょっとハムスターのようで可愛い。
「もっと食べるか?」
「もう十分よ。は、恥ずかしいからもういいわ」
「そうか。欲しかったら言ってくれ」
「ええ」
薫は赤面した状態で自分のラーメンを食べている。
前髪を小指で耳にかけ、ハフハフして食べる姿はちょっとグッとくる。
ラーメンを食べているだけなのに、ちょっと色っぽい……。
ふと気になり、顔を上げると店内のお客さんとスタッフが全員俺を見ている。
おーう! なんでみんな見てるんじゃ! 気になっておいしく食べられないじゃないか!
「純一。早く食べて出ましょう。恥ずかしいわ……」
「そっか。まぁ、そんなに恥ずかしがるなよ!」
それなりに急いで食事を終わらせ、会計をする。
今回もまた薫に出させてしまった。いつになったら俺の財布は開くのだろうか……。
「ありがとうございました! あ、あの! これ読んで下さい!」
さっきのじゃんけんに負けた女の子が俺に封筒を渡してきた。
――な ん だ と
「あら、良かったじゃない。貰っておいたら?」
「えっと、これは?」
「あ、あとで読んでください!」
深々と頭を下げてきた女の子。
これはあれだな。間違いなく、あれだ。
帰ったらじっくり拝見させていただこう。
うっひゃー。なんか嬉しいな!
ラーメンにして良かったぜ!
「さ、帰ろうぜ!」
「何浮かれてるのよ。行くわよ」
店を出て駅に向かう俺と薫。
またあの電車に乗るかと思うと少し気分が悪くなる。
「また電車か。混んでないといいな。男性専用車両とか無いのかな?」
「無いわね。優先エリアはあるけど、車両は無いわよ」
ほう。優先エリアとな。それは初耳でござるな。
「薫さんや。その優先エリアについて詳しく」
「はぁ……。めんどい」
「そんなこと言わないで!」
「先頭車両半分は男性の優先エリアに設定されてるの。男性がいない時は女性も普通に入れるけど、男性が一人でもいたら女性はエリア外に出ないといけないのよ」
「なるほど。じゃぁ、俺は先頭車両に行けばいいのか」
「そうね。私も先頭車両に行くから、一緒に乗りましょ」
「おーけー。重要な事は早く言ってね!」
「私はあえて一般車両に乗り込んだと思ったのよ。次からは先頭車両にしなさいよね」
「うぃっす」
帰りの電車は二人で先頭車両にのり、俺は男性エリアに。薫は女性エリアに。
特にゲートがあるわけでもロープがあるわけでもない先頭車両。
優先座席のエリアバージョンって感じで、床が青色になっているだけのエリア。
でも、このエリアには俺しかいない。ものすごい気まずい。
残りの半分はぎゅうぎゅうのすし詰め状態の女性たち。
外から見ると凄い光景だ。
俺、本当にこれからこの電車で通うのかな……。
自宅のある駅に戻り、駅員さんから荷物を返してもらうため窓口に。
「すいませーん!」
「はいはーい」
また奥にいる……。いったい奥で何してるのかしら?
「荷物取りに来ました!」
「純一! 私の所に帰って来てくれたのね!」
いやいや。そんなわけあるかい!
「あ、俺の荷物ありがとうございました。では、また」
「ちょ! スルーしないで下さいよ! せっかく預かっていたのに!」
「その点はありがとうございました。では」
「ま、待って! これを渡しておきたいの!」
俺に無理やり名刺を渡してきた。
裏には個人携帯の番号が書いてある。
これは、あとで連絡しろという事ですか?
「はい。ありがとうございます。じゃ、俺は帰りますので」
「れ、連絡してね! 二十四時間いつでも待機しているから!」
俺は何も聞かなかったことにして、薫と駅をでる。
「純一もこれから大変ね」
「なんで?」
「あと三年以内に婚約者見つけて、結婚しないと」
「しなかったらどうなるんだ?」
「市役所で勝手に人選された人と結婚。まぁ、強制お見合いかしらね」
何だと! そんな事は聞いてないぞ!
三年以内に婚約と結婚しないと!
「い、いつからそんな事に!」
「つい先日。さ、純一も早く本物の婚約者を見つけて、リング付けないとね!」
まずい! 彼女をつくろー! とかそんなぬるい事を考えていたが、事態は激変だ!
彼女からステップアップ! 嫁さん探さないと!
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