第14話 初めましてメイドさん



 洗面所でメイクを落とし、顔を洗う。

さっぱりしたー! しかし女性は大変だな、毎日化粧をして、落して。

しかし、化粧でここまで化ける物凄いな……


 鏡を覗き、改めて確認する。

間違いなく鏡に映っているのは俺だ。

若干若くなっているが十八年ずっと見てきた顔を忘れすわけがない。

スタイルも当時のままだし、見た目はほとんど変わっていない。

髪型が若干変っているが、普通の男子だ。特にイケメンという訳でもない。


 鏡をジーっと見ていると、鏡越しに誰かが覗いている。



――誰だ! ま、まさかビキニ女か!



 振り返り、覗いている奴と目が合う。

……誰だ? 妹か? 母さんか? レイか?


「お、お帰りなさいませ、純一様」


 そこには同じくらいの年の女の子。

俺の事を『様』を付けて呼んでいる。この子はいったい?


「えっと、すいませんどちら様で?」


「へ? 私をお忘れですか? 毎日純一様の身支度をしているのに……」


 どうやら俺の事を知っているらしい。というか、身支度?


「すいません。実は僕には記憶喪失のようで、あなたの事を思い出せないのです」


「そ、そうですか……」


 改めて良く見ると、メイド服にレース付のカチューシャ。

こ、この服装はまるでメイド喫茶のような服装だ。萌え要素満載な服装。

ご馳走様です!


 長いやや茶色の髪を一本にまとめており、瞳も茶色で切れ長だ。

可愛い子には間違いないが、俺との関係がまだよくわからない。


「後で母さんと一緒に話をすると思うから、一緒に話を聞かないか?」


「わ、私も同席していいのですか?」


「いいと思うんだけど、問題でも?」


 彼女は少し頬を赤くしながらもじもじしている。


「先日まで私の事を『ブス、お前はトロイから何でも早くしろ』と言われていたので……」


 お、俺はこの子になんという事を……。記憶がないが、俺は結構ひどい奴だったのか?


「だ、大丈夫。君はブスじゃないよ。安心して」


 少し赤かった頬がさらに赤くなり、耳まで真っ赤になる。


「そ、そのような言葉……。わ、私にはもったいないですぅぅぅ!」


 逃げるように去っていく彼女。君の名はいったい……。

名前も知らないメイドさんが俺の目の前から消えていった。

俺の知らない何かが、まだまだありそうだ。ここは慎重に行動せねば。


 リビングに戻り、母さんの座っている椅子の正面に座る。


「あら、純一さんはいつも上座よ? そこは由紀の席。やっぱり記憶がないのね……」


「すいません。ご迷惑をかけます」


 軽く謝罪し、席を移動する。何だか落ち着かない。

自宅に戻ってきてもまるで親戚の家にいるような気分だ。


「純一さん、この春から高校に通うのは覚えているかしら?」


「そ、そうですね。年齢的に高校生になると思います」


 俺の頭の中は若干ハテナが浮かんでいるが、恐らくあっているだろう。

記憶も結構あいまいだが、恐らくはあっていると思われる。



「じゃぁ、そこについては心配ないわね。では、これを純一さんにお渡しします」


 母さんは通帳とハンコ、それにカード一枚を俺に渡す。

この通帳とハンコ、カードの意味は一体何なのだろうか……。


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