第70話目 ブロガー1

   ランチ27


 今回のランチは、『ココット』さんの、ふわふわオムライスセットです。


 サラダと日替わりスープ、コーヒーか紅茶がついて980円と、


 財布にも優しいランチです(笑)


 家ではこんなふわっふわなタマゴではない、


 ごく普通のオムライスが母のオムライスだったので、


 もちろん、それも美味しいんだけど、


 初めてふわふわタマゴのオムライスを食べた時は、それはもう感動でした。


 ココットさんは、ケチャップも自家製で、濃厚で甘みのあるケチャップが


 ふわふわタマゴのオムライスの味を引き立ててくれて、とても美味。


 これでよし。


 拓也はココットで写した写真を小さく加工し、添付して記事を更新した。


 ブログを始めてもうすぐ1年になる。最初は職場で取り扱うお勧めの本などを、いかにも趣味で読書していますという体で紹介していたが、思うようにゲストが増えず、これだけではつまらないかと思い、休日には一人で出かけて行って、食べたランチを載せるようになっていた。正確には、出かけて行ってランチを食べるというより、記事にするためにランチを食べに行くようになったのだ。


 そうしていると、ランチの記事を読んでくれた人の中で読書が趣味という人たちも集まるようになり、ゲストも増えブログ活動も楽しくなっていた。


 そんな中で、やはりランチ記事というものは身近なところが多くなり、なるべく市外へと出るようにしていたが、同県民が美味しい店を探しならが訪ねてくれるようになり、気付けば明らかに同県民というゲストも増えていた。


 自分が誰なのかということをそこまで隠したいわけではないが、こういった場所でのトラブルを避けるためにも、身分は明かさないと決めていた。図書館で働いているなどと口にしようものなら、特定されかねない。自分以外にもそんなふうに匿名性を保持しているブロガーも多いことだろう。


 図書館といえば、今日もあの子と話をすることが出来た。


 拓也は昼間に寺井愛美と言葉を交わしたその一言一句を思い出すように目を閉じた。


 それにしてもどうしたことだろう。つい先日まで長い髪だったのにあんなに短くしてしまうなんて。とても似合っていた長い髪、いつかその髪に触れることが出来たらと、その匂いに触れたいと、そう思っていたのに、どうして短くしてしまったんだろう。


 でもまあ、それでも……似合っていたな。


「マ…ナ」


 初めてあの子を見た時、ドキリとした。可愛い子だなって。


 でも、高校生だし、ただ、可愛い子だなという程度だったが、野々山さんの姪っ子と聞き、口を利くようになり、なんとなくその動向を目にしているうちに、気付けば図書館に来るたびその姿を目で追ってしまっていた。


 彼女のリクエストは極力通すように進言してきたし、彼女の好きな作家も、その借りている本でだいたいはわかっている。だからこそ、その作家の情報は出来る限り下調べしていたし、いつでも聞かれれば答えられるようにしていた。彼女の妹、美菜が懐いてくれていることもあり、徐々にその距離は近づいているように感じている。


 だが、まだ高校生だ。今、どうこうなるわけにもいかないと、ちゃんとわかっている。今は、ただ自分にいい印象を持ってもらいたい。そう思っていた。


 さてと……本を読んでしまおう。


 今、拓也の手元には『提灯祭りの夜』がある。昼間、愛美が返却したやつだ。愛美の好きな作家を把握できている拓也は、その新作が入ると愛美が予約をいつ入れるのかチェックを欠かさない。そうして毎回、愛美が予約したすぐ後に自分も予約を入れるようにしていた。


 愛おしそうに、その『提灯祭りの夜』をひと撫ですると、真ん中辺りを開くと、そこに顔を近づけ、愛美の残り香をそこに見つけたように、胸いっぱいに吸い込んだ。そしてページをパラパラとめくりながら同じように残り香を一つも残さないように吸い込むと、疼きそうになるもう一人の自分を感じ、「マ…ナ……マナ…」そう呟いて、目を閉じると溜め息を一つついた。

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