通販で極める異世界生活

序章 フェザーリスト王国

王都商業ギルド

「突然の無礼をお詫び致します。私は王都の商業ギルド長エルザと申します。単刀直入にお聞きしますが、貴方様は【叡智の果実】をお持ちでしょうか?」


 テーブルを挟んで反対側の小綺麗な椅子に座っている金髪碧眼の美女。肩書の割りには随分と若く見える。案内を受けた俺が腰を下ろすと、深く頭を下げてきた。


 俺の名前は神嶋かみしま 天翔たかと

 この物語の主人公にして、である。えっと…先ずは自己紹介だな。



 名前:神嶋 天翔

 レベル:1

 種族:普人族(転移者)

 性別:男

 年齢:17

 職業:【商人マーチャント


 HP:82

 MP:55

 身体値:67

 魔力値:41


 固有スキル:【通販 Lv.-】


 職業スキル:

【鑑定 Lv.1】【交渉術 Lv.1】

【異空間倉庫 Lv.1】


 身体スキル:

【抜刀術 Lv.5】


 魔術スキル:


 補助スキル:

【常識 Lv.-】【言語学 Lv.2】

【精神耐性 Lv.10】



 期待を裏切って申し訳ないが、俺は勇者とか聖者とか賢者とか魔王とか…兎に角そんな立派な職業ではない。特別な使命もない。ただのである。

 ご覧の通り所持スキルも普通?でチート要素はない。で、って…スキルなん?


 転移後直ぐに、俺は商業会員登録をするために商業ギルドを訪れた。

 そこで手続きの為に、受付嬢にメモリープレートを提示した所、確認事項があると言われ、半ば強引に二階にある特別応接室へと案内された。


「お持ちですね…まだ悩んでますので…」


 あぁ…転移時の話も少し…

 俺も王道の展開?真っ白な空間(神界)に行き、女神様に会った…一瞬だが…

 その時に渡されたのが、神鉱石で作成された特別仕様の身分証【メモリープレート】

 そして、この世界に存在する・存在したスキルであれば何でも最高熟練度で習得可能の効果を持つ【叡智の果実】だった。あっ…これがチート要素か?


「お願い致します。それを私に売って下さいませんか?相場の倍額…白金貨20枚で如何でしょう?」


 ゆっくりと丁寧な口調ではあるが、エルザからは鬼気迫る気迫を感じる。と、同時に何かしらの違和感も覚えた。


 硬貨の価値は鉄貨→銅貨→銀貨→金貨→白金貨の順で高くなり、百枚で上位硬貨一枚と同じ価値になる。ちなみに鉄貨は日本円で約一円に相当する。

 つまり…今回のケースは20億円となる計算だ。正直ヤバくね?


「事情を説明して下さい。俺が転移者である事はメモリープレートで知ったとして…何故に叡智の果実を持っていると?貴女は、これがどういった経緯で俺の手元にあるのか知っているのですか?」


「……はい。転移者は女神様より叡智の果実を賜る事は存じております。本人の意思に反した形で突然起こされる悲劇…それに対する温情であり、恩恵であると…」


 温情ね……

 あの女神様は「時間がない」と言って、最低限の説明もなく物だけ渡して速攻で転移させたけど?今の俺にある知識は【常識】とかいうスキルによるものだし…


「まぁ、その通りです。そして、女神様の恩恵を別の形で手放すと…今回なら金銭による譲渡ですね。今後の人生で一切の加護を受けられなくなります。その事も?」


「……はい。存じております」


「白金貨20枚ですか…正直、魅力的な話ではあります。ですが、こちらの都合を無視した身勝手な話だ。せめて…この強引過ぎる流れの説明をお願いします」


「……そ、それは…」


「言い辛いですか?王都のギルド長がこの席に座ってる事から推察しても…国家機密レベルの話ですか?正直言って…関わりたくないです。帰っていいですかね?それとも監禁でもして奪い取りますか?」


 軽い威圧感を出し、俺は腰を上げる。


「お、お待ち下さい!全てお話します。お察しの通りです…こ、この国の未来に関わる問題なのです…」


 日頃から百戦錬磨の商人や貴族達を相手にしている彼女から、これまでとは比べものにならない程の動揺が伝わってくる。


「成呪病をご存知でしょうか?その原因も対処法も不明な不治の病です。成人となった数日後に必ず命を落とす…まるで呪詛のような忌々しい病気…それが成呪病です」


 初めて聞く病名だ。

 ただ…大人が全滅し未成年だけになったドラマなら記憶にある。急激な細胞成長を促進する微生物が原因だった…

 個人差はあるが、成人すると抗体が無くなり死に至る。


「発症したのはエリック・フォン・フェザーリスト。この国の第一王子か?」


「……なッ?」


 絶句した状態のエルザ。切れ長で大きな碧眼が更に強調される形となり、口元はヒクヒクと痙攣を起こしている。


「叡智の果実を与えて【病魔無効】を習得させる…スキル効果で成呪病は完治し、薬や魔法と違って永続性のあるスキルを保持する事で、今後は病気の心配が一切なくなる。まさに一石二鳥ですね」


「ど、どうして……」


「誰にでも想像つくだろ?成呪病は未成年者が対象だ。で、国の未来…って話からして王子様か王女様くらいしか該当しない。エリック王子は来月で成人のはず…なら、時間は残されていない。貴女の態度も合わせて推察すれば答えは一つだったよ」


 正解のようだ…

 この国の王子はエリックただ一人。王女は三人いるが…もし、王子の身に何か起これば御家騒動は確実だろう。

 その騒動の影響は国内外に及ぶ。この一件はフェザーリスト王国にとって最重要課題なのだろう…


「事情は理解した。話した内容についても他言はしない…取り引きに応じるよ…但し、この決断の意味は理解して欲しい」


 俺は、異空間倉庫に収納してあった叡智の果実を取り出しテーブルの上に置いた。


「ほ、本当ですか?も、勿論です!有り難うございます!有り難うございます!このご恩は必ずお返しします」

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