第28話 じゃっじめんと

さっきの膝枕の一件でなんとなく気まずいような、恥ずかしいような、そんな空気が流れる今現在。

2人並んで座る僕たちの目の前にはハンバーグ定食があった。

僕と千堂さんの2人分。

……しかし、箸は1人分。

なぜ?

……あ、あれ?もしかして僕の分がない?

友達が少ない者には見えない箸でもあるのだろうか。

そんな残酷な箸を使うくらいならいっそのこと手で食ったらぁ!

そんな事を思っていると、厨房の奥にサムズアップをしている千堂さんのお母さんが見えた。

もしかさっきの事を根に持っていらっしゃる?


「お母さん!」


厨房へすっ飛んでいく千堂さん。

何か話してるみたいだ。

あ、千堂さんが帰ってきた。

少しだけ顔が赤いような千堂さんは、自分の席に座るとおもむろに箸を掴み、ハンバーグを小さく切って


「あ、あ〜ん」


これは所謂……‘あ〜ん’というものか。

ふむ……


「は、箸がどうしても1人分しか用意できないみたいで、ですからこうする事は偶然と言いますか奇跡と言いますか必然と言いま……」


パクッ

うん、美味しい。


「美味しいね、千堂さん家のハンバーグ」


「えと、は、はい」


少し固まってから、ハッとして次のハンバーグのかけらを僕の口に運ぶ千堂さん。

美味しい。

僕が大体食べ終わったら、


「はい、千堂さん、あ〜ん」


「⁉︎」


「あ〜ん」


「あ、あ〜ん」


パクッ


「美味しい?」


「ほ、ほいひいです……」




こんな感じで2人とも食べ終わってから。


「ごちそうさまでした。………なんか恥ずかしいね」


「今更ですか⁉︎」


お腹も空いてたし、食べてる時はそうでもなかったんだけど、食べ終わってお腹が膨れると急に。


「というかなんで食べさせあったの?」


「こっちが聞きたいですよ!」


「最初は千堂さんからだったよ」


「!。そ、それはお母さんが……でも私がしてあげるだけで、まさか十宮くんからもとは……」


チラッと厨房の方を見る千堂さん。

そうか……。


「なるほど。千堂さんのお母さんが、どういうわけか僕たちの距離をもっと縮めるためにアドバイスをくれて、その通りにやってみたってことだね」


「察しがいいのか悪いのかどっちかにしてください!」


怒られてしまった。



結局、ご飯を食べ終わったのはお昼と言うには遅すぎるくらいの時間、

大体5時くらい。

これは長居しすぎたな。

眠っちゃったのがダメだったかな。


「今日はありがとう。それじゃあ、またね」


「はい。また……」





※※※


家に帰り着いてからドアを開けると……


「おかえりおかえりおかえりおかえりーーー!」


「た、ただいま」


瞬間、飛び出してきた真由の勢いに押されて思わず後ずさる。


「どこ行ってたの?」


「千堂さん家に……」


「じゃっじめんと!」


「ぐべぼがはっ!」


あばよ意識、よろしく哀愁。

昼間とはまた違う意味で意識を失った。




※※※


一方その頃、千堂家では


「ひゃーーーーー!あ〜んって、あ〜んってぇえええーーー!」


「あらあら、元気いいわねぇ」


「お母さん⁉︎いつから⁉︎」


「エロイム エッサイムってぶつぶつ言ってた時からよ」


「今私、悪魔でも呼び出そうとしてたんですか⁉︎」


「まぁ、冗談はさておき」


「冗談なんですか……」


「あ〜んって〜〜♪」


「それも冗談ってことにしませんか⁉︎」


「今度のお茶会は盛り上がるわ〜♪」


「ちょっと!なんで娘の醜態を広めようとしてるんですか!」


「いいわねぇ〜青春って感じで」


「もはや話を逸らす気さえありません!」






「……ところで、私ってそんなに老けてるかしら?」


「いや、まだまだ大丈夫だと思いますよ」


「なんで目を逸らしながら言うの?」

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