桜の記憶

 このまま待っていれば、またいつものようにひょっこり窓から現れるのかもしれないが、昨夜のやり取りや片桐の底が見えない思惑を考えるとさすがに俺に協力を求めてくる可能性は低いような気もする。


 実際にそうなれば、俺はもう彼女の記憶探しに付き合う必要はなくなるかもしれないわけだが。


(でも……な)


 裏を返せば、最悪の場合もう二度と桜と顔を合わせることがなくなることでもある。


 昨夜のあんな素っ気ないやり取りが別れの挨拶というのも後味が悪いし、故郷に帰れるならまだしも殺されてしまうことだってあり得る事態なのだ。


(このまま死別ってのは、さすがにきついよな)


 もちろん、殺されると決めつけるつもりはないし、あの戦闘能力を秘めた桜が簡単にやられるとも思えないが。


「雄治、あんた具合でも悪いの? ぼーっとしちゃって。あ、ひょっとして桜ちゃんのことでも考えてた? 良いねぇ、青春真っ盛りで。あんな可愛い彼女、あんたみたいなお馬鹿にゃ本っ当にもったいないよ」


 いつの間にか、こちらの横顔を覗き込んできていた姉貴がまた茶化すような言葉をかけてきた。

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